目覚め
私は最近、「目覚めたい!」と思うようになった。
何に目覚めたいのかは、よく分からない。
才能に?
仕事への意欲に?
それとも、目標を見つけること自体を「目覚め」と呼んでいるのか。
どうしてこんな思考が浮かぶようになったのかは分からない。
でも、“きっかけ”だけは、はっきりしている。
――この前、酔っ払って電柱に頭をぶつけた時からだ。
ただ、酔っていたせいか、それから今日までのことは、どこか霞がかかったようで。
*
試しに、絵を描いてみた。
芸術に目覚めるかもしれないと思ったからだ。
キャンバスと絵の具を買い、花瓶をモデルに描き始めたが、まったく上手くいかない。
描けない自分にイライラしてくる。
……これじゃあ、息子のほうがよっぽど上手い。
次に、歌を歌ってみた。
しかし、家族の反応は「聞くに耐えない」だった。
頑張ったつもりだったのに。
じゃあ、スポーツなら?
まずは持久力を測ろうと、ランニングに挑戦。
だが、2kmも持たずに足が攣った。どうやら、走るのも向いていないらしい。
じゃあ、走らないスポーツをやってみよう。
思いついたのはゴルフ。
……結果は散々だった。
土ごと抉る、池に落とす、林に打ち込む、そして最後にはボールがどこかへ消えた。
――スポーツ全般、無理らしい。
それなら文章を書いてみよう。
ペンと紙さえあれば、どこでもできる。
川辺に行き、思いつくままに書き始める。
……これは、楽しい。
私には、これが合っているのかもしれない。
これが、「目覚め」なのか。
*
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
周囲では、家族が心配そうに私を見ていた。
さっきまで、いろんなことをしていたはずなのに。
なぜベッド? ここは……病院?
部屋の隅には、医者らしき人の姿も見える。
後で聞くと――
電柱に頭をぶつけてから、ずっと意識がなかったらしい。
けれど、夢ってバカにできない。
だって私は、あの電柱と引き換えに、“書くこと”に目覚めたのだから。