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第玖話 魔の産声(エビルバース・クライ)

─宿屋『なかうみ亭」


 チュートリアルとも言えるべきイベントを終えて、次の町へ行くまでにゲームオーバー的挫折を味わった俺は、一旦マーツェにある宿屋に泊まり、作戦を練ることにした。1000ゴーラムの所持金から宿代600ゴーラムが引かれ、早くもジリ貧である。


「まず盗賊達に俺が負けてしまった原因だが……」


 分析の末に出てきたのは、勇者パーティーのマナフレアが言ってたアレに辿り着く。


「レベルとステータス数値」


 ……正直、考えるのも恥ずかしい。この世界自体が小説だか漫画原作だか脚本だか解らないどっち付かずな創作物なのだが、ひとつ言えることは“ゲームではない”ということだ。なのに、中学生の浅はかな知能は、ファンタジーというものにドラクエやFFというゲームを参考にしたがる。


「……この世界に転生したばかりの俺は、たぶんレベルとかステータス数値とかがメチャクチャ低いんだろうな」


 だから人間の盗賊に手も足も出なかったと考えるのが妥当な線だろう。チートアイテムたる漆黒の聖典を手にしたところで、所有する本体たる俺が雑魚ではどうしようもないではないか。


「………」


 俺はペンを右手に執り、ノートを開く。ここに『大魔王佐丹信雄、HP9999、MP9999、攻撃力999、防御力999……』とか書けば、最強キャラクターと化した俺の出来上がり!なのだが……


「出来るかそんなもん!!」


 俺はノートをぴしゃりと畳んだ。ガキの頃の俺ならともかく、大人になった俺が恥ずかしい設定に、更に恥ずかしいことを書き込むなんざ、まさに恥の上塗りというものだ。


「でも、何とかしないと先に進めないぞ……」


 この俺に与えられた唯一の力である漆黒の聖典を活用した打開策……思案と妥協の末に、俺は二つの策を思いついた。


「俺自身のレベルだのステータスだのを、いらわずに強さを得る方法……」


 ノートのページにペンを走らせる。大人になっても相変わらず絵はヘタクソだ。因みに “いらう”とは俺の故郷・島根県の方言で弄くるとかそういうニュアンスの言葉だ。


「出来たぞ!大魔王の装備が!!」


 すると、目の前にノートに描いた絵をプロのイラストレーターやデザイナーが手直ししたかの様な物体が具現化したではないか。


「まずは武器!」


 黒地に紫色の差し色が入る、昆虫の脚を馬鹿でかくしたような刺々しく禍々しい棒状の物体……大魔王の杖だ。装備すれば、全ての魔法がMP的なものを消費せずに使いこなせるという効果を絵の横に書いておく。中学生の俺がこいつに名前を付けるとすれば、『冥神の暴虐』(ハデス・アウトレイジ)といったところか。


「お次は防具!」


 小豆色……もといワインレッドのマント。魔法や炎・吹雪など、あらゆる攻撃を防ぐというありきたりな設定。名付けて『虚無織の外套』(ヴォイドウィーヴ・クローク)。


「俺は勇者達に顔も知られているから隠した方がいいだろう」


 角の生えたの髑髏の兜、『魔刻の封面』(カースド・エクリシス)。精神への攻撃を無効化し、相手の弱点をも見抜く便利な仮面だ。

 俺は早速これらの大魔王装備を身に付け、宿の部屋に備え付けられた姿見鏡に映してみる……

 …

 ……

 ………

 ダサい!絶望的にダサい!!

 よくよく考えてみれば、RPGのラスボスはみんなデカい。身長167cmの俺が仮面を被りマントを羽織って杖を持ったところで、完成度の低いコスプレおじさんでしかなかった。


「着た後の事まで考えてから描けば良かった……」


 数エピソード前にヤンセも言ってたが、ノートに書いた事は取り消せない。出来てれば、まず勇者も世界もとっくに消している。故に俺は、これらの大魔王コスチュームを常に持ち歩き続けなければならない。


「まあいいや、次だ次!」


 仮面とマントを外し、杖をペンに持ち替えた俺は再びノートに絵と文字を書き込む。


「冒険には仲間が必要だもんな……」


 さっき戦った盗賊達は3人だった。いくら強い装備に身を固めても、一人で複数を相手に勝てる自信は無い。なので、めちゃんこ強い仲間キャラクターを作り出し、戦闘の補助をしてもらおう。いや、戦闘をほぼ全て任せてしまおう。


「……確か、エターナルサーガにはこんなキャラクターも考えていたはず」


 ペンを走らせる。

 黒ずくめの戦闘服と、顔をすっぽり覆う頭巾に身を包み、左右の手には、拳銃のグリップから下がサバイバルナイフの様になった武器を持つ、一見して忍者のようなキャラクター。


『名前:ショウ、種族:人間、職業:暗殺者、ジークハルトの生き別れの弟で本名をナイトハルト。幼い頃に暗殺者ギルドに引き取られ凄腕のアサシンとなる……』


 等の設定を“思い出し”ながら書き込む。そう、このショウというキャラクター、当初は勇者達の仲間キャラクターでありシーフ的なポジションとして考えてはいたものの、ロボ娘ペトルーシュカのアイデアが浮かび、そちらに仲間キャラクターの座と枠を奪われてしまった、 所謂“没キャラ”なのだ。そしてショウの設定の最後に、俺はこう書いて締め括る。


 “大魔王の忠実な(しもべ) である”


 すると、ノートは淡い光を放ち、先ほどの大魔王セットと同じく一人の少年が具現化した。


「お呼びでしょうか。大魔王様」


 黒ずくめの忍び装束に身を包み、端正かつ女の子と見紛う顔をした美少年忍者・ショウは、没設定を流用した後、俺の配下としてこの世界に生を受けた……

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