第捌話 進撃の大魔王(アタック・オブ・サタン)
「俺はこの世界を終わらせる!」
ヤンセに対し、高らかに宣言した。
「ほう。で、どうやって?」
返ってきた問いに、用意していた答えを返す。
「俺が、勇者たちを消滅させる。あいつらの敵として!!」
「アルフレッド達の敵?ラスボスなら、もう作ってあるんだろ?たしか『魔王ドルバゴス』が」
何でお前は俺の作った設定を知ってるんだよ?という突っ込みはさておき。
「RPGのお約束を知らんのか?魔王を倒したら、その後ろには大魔王がいるんだよ」
所謂、バラモスやムドーを倒してもゾーマやデスタムーアがいるという、お決まりのバターンだ。
「なるほど。それを可能にするのが……」
「コイツさ!」
俺は忌々しき黒い表紙のノート、漆黒の聖典を取り出す。そして、おもむろにペンを走らせた。『魔王ドルバゴスの後ろには黒幕として大魔王・佐丹信雄が存在している』と。
「これで、俺は大魔王だ!フハハハハ!!」
ついテンションが上がって、悪役の笑い方が出てしまった。
「さすがはこの世界と物語を作った男だ。ノートの使い方が予想以上に巧いな。ならば、俺っちがお前を見届けるのはここまででいいだろう。じゃあな、信雄!いい異世界ライフを」
そう言い残し、ヤンセは消えた。
さて、ラスボスたる大魔王がこんな物語中盤の町に居てもしょうがない。俺が本来居るべき場所はラスダン。そう、ラストダンジョンだ。
「ラスダンに相当する場所は魔王城……フォーゲルニームン帝国跡だから、海路を使わなければならんな」
と、黒歴史ノートに描かれた汚いマップを見る。この世界の情報を確認するたびに恥ずかしい気持ちになるが、慣れなければならない。
「船に乗るには港町ハマンダまで歩いていかなきゃいけないのか」
めんどくさい設定にしやがって、中学生時代の俺め。
取り敢えず、俺はハマンダの町を目指しマーツェの外へ出ることにした。
─オーダの森
ゴーツ平原を抜けて森に入った俺。平原では案の定モンスターとエンカウントしたのだが……
「貴様!余の顔を忘れたか!!」
と俺が言えば、
「あ、あなたは大魔王樣!!」
と、モンスター達が道を譲る。という小っ恥ずかしいやりとりを繰り返し、戦闘をすることもなくサクサクと進んでこれたのだが……
「よう兄ちゃん、命が惜しけりゃ有り金全部置いていきな!!」
と、背後から声を掛けられた。すぐさま俺は
「貴様!余の顔を忘れた……か……?」
と言いながら振り返るも、そこに居たのはモンスターではなかった。
「あぁん!?誰だよテメーは!!」
「口ぶりからするに王族貴族の若旦那か何かか?」
「だとすりゃ、一人でこんなところをノコノコ歩いてる時点で大馬鹿野郎だぜ!」
そいつらは汚い身なりの男が三人。人間の盗賊だった。
「しまっ……」
“た”と言い終わる前に、俺の首には剣の刃が刺さっていた。「命が惜しければ」なんて言っておきながら、殺しにきてるじゃねえかよ……
激しい痛みと、気道を潰された苦しさ、そして出血のショックで俺の命は終わろうとしていた。クソッ!転成してもまた、呆気なく死ぬなんて……
ーマーツェ・教会
「おおサタン・ノブオよ。そなたに神のご加護のあらんことを」
俺は棺桶から上半身だけを起こし、神父さんの言葉を聞いた。貫かれた喉には傷一つ残っていないし、呼吸も発声も出来る。変わっていたのは所持金が半分の1000ゴーラムに減っていたということだけ。
「……戦闘での死亡=戦闘不能で、街の教会でやり直しなんて」
何という“ゲーム的”設定なんだ!しかし、今の俺は昔の俺が考えた、安直なドラクエのパクリ設定に救われたのだ。
「これ、用が済んだのなら早く出て行きなさい」
神父さんに促され、俺は教会を後にした。