episodeⅤ
修行は基礎の動作や体力作りに始まり、おじさんとの模擬戦を経て、新たな段階へと進んだ。
村の外れにある森の中を、僕はおじさんの後に付いて歩く。今日、僕が腰に携えているのは木剣ではなく鞘に収まった鋼鉄製の剣だ。その重みが僕に更なる緊張を与えている。
「おっ、出たぞ。モンスターだ!」
おじさんが言うなり、僕たちは鋼鉄の剣を鞘から抜き、構えて戦闘態勢に入る。剣の重みは、握る手から全身へと広がる。目の前、畳一畳の縦くらいの距離に現れたのは、青色で半透明かつ半液体状な塊、『ブルー寒天』。ドラクエやアークザラッドでいうところのスライムだ。
「アルフ、不定型モンスターは体の中にある核が弱点だ。そこを上手く狙えッ」
おじさんの言うことに耳だけを傾けて返事をしつつ、ブルー寒天の姿を注視する。半透明な塊の中に漂う眼球と臓器がひとつに纏まった様なもの―それが核だ。そして、核の中にある眼球が僕を睨み付けると、矢庭に寒天は僕へと飛びかかってきた。
「うっ」
右肩へ衝撃。思い切り投げられたドッジボールがぶつかったくらいの痛さが伝わる。これが胸部に当たれば肋骨が折れてもおかしくはない。
「攻撃は剣の刃体で受けろ!」
衝撃の残滓が残る肩の痛みを押し殺し、再び剣を構え直す。実際の戦闘は相手と順番に攻撃をし合うターンバトルではないため、敵は僕の行動を待ってはくれない。寒天は再び飛びかかってきた。
おじさんの言ったとおり、僕は両肘を曲げ、剣の刃体を顔の前で水平に近く傾けた。先ほど肩に受けた衝撃に比べれば、屁でもない。バウンドした寒天が着地する前に、僕は距離を詰めて剣を振りかぶる。
「やあぁーっ!」
と、叫びながら振り下ろした剣の刃は寒天質を押し分ける様に食い込み、敵の核へと達した。
「ビギー!」
と、どの器官から出しているかも解らない断末魔とともにブルー寒天は形状を保てなくなり液状化。刹那、森の地肌に吸い込まれた。核はからからに乾いて塵となり見えなくなったではないか。
「勝った……」
初めてモンスターと戦い、勝利を収めた僕は緊張の糸が切れたのか体じゅうからドッと汗が吹き出した。
「初勝利おめでとう。どれ、肩を見せろ」
おじさんは取り出した小瓶の蓋を開け、中の湿布みたいな匂いの液体を僕の右肩にかけた。回復アイテム『ポーション』だ。打撲の痛みが和らいでゆく……きっと、大人になった僕がこの世界を改変しなければ、黄緑色の文字で数字が浮かんでHPが回復していたのだろう。戦闘中だって、攻撃を受けたら白い文字で数字や“MISS”なんて文字列が浮かんだんじゃないか。
「(雑魚モンスターとはいえ、戦い方を間違えたら死んでいたかもしれない……………戦いはもう、ゲームや漫画じゃあないんだ)」
僕は剣の柄を掘り直し、呼吸を整える。そして、改めて魔物とはいえ生物を殺したのだと認識する。蚊や蠅を叩き潰したことは勿論ある。でも、こんなに大きな生命体を殺めたのは初めてだ。
「魔物を殺したのは初めてだろうが、相手も殺しにかかって来てる以上、優しさや憐れみなど抱くんじゃないぞ?俺たち戦士は魔物使い(ハンドラー)と違って奴らと心を通わせる事などできんからな……」
そう言うと、おじさんは自らも剣を抜いた。
「次の敵が来たみたいだ。数も多いし、さっきの奴より強い……俺もサポートに入ろう」
森の奥から現れた魔物は、梨の実に手足が生え、人の顔のような皺のあるモンスター『ラフランサー』だった。その名の通り、人面相は不気味に笑っており、手には石の穂先が付いた槍を携えている。




