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episode 1

 薄暗い空間で、僕は目が覚めた。ここはどこで、今は何時なのか……

 覚えているのは、マーツェの街で何者かが宿屋を破壊したとの報せを受け、仲間達とともに宿屋に駆け付けると、見知らぬ二人の男がいたこと。その内一人は相棒ジークハルトの生き別れの弟であるラインハルト。そしてもう一人が……


「大魔王サタン!」


 僕は、敵の名を声に出していた。

 大魔王の他に、四天王を名乗る者達も現れ、知らない敵が次々と登場したかと思えば、奴らは恐ろしいまでに強く、僕達は歯が立たなかった。何なんだ、あいつらは……


「アルフ…アルフレッド・ザン・社……聞こえますか?」


 頭の中に響く声が、僕の名を呼ぶ。

 アルフレッド・ザン・(やしろ)……それが僕の名だ。


『此処はイズモゥ神殿……かつて、インゼルヴェルツェルに在った、失われた場所。そして私は “聖竜”。神殿の主にして、貴方の祖先に勇者の力を与えた存在』


「聖竜樣!?」


 幼いの頃、お爺ちゃん達から聞いたことがある。社家のご先祖様は、人が竜から地上の支配者へ代わる時、聖竜様から力を授かり、来たるべき時にそれが目覚めるのだと。


『来たるべき時……それは闇竜の力を得た魔王ドルバゴス達、魔族との戦いの時だった筈でした』


 “だった”とは?


『何らかの、“神や竜を超えた力”の介入により、魔王ドルパゴスを遙かに凌ぐ存在が新たに現れたのです』


 それが、あの“大魔王”だというのだろうか。


「僕は、あんな奴らを知らない……()()()()()()()()ッ」


 ふと、口から出た言葉に違和感を覚える。


『その“大魔王”の出現により、貴方も影響を受けてしまった様ですね……』


 僕は…アルフレッド・ザン・社……勇者であり、この物語の主人公。そして、佐丹信雄という中学生が、己の妄想を投影した分身のようなキャラクターだ!


『おそらく、大魔王の正体は……』


「“大人になった僕”だ!」


 大人になった佐丹信雄は、中学生時代に書いたこの“黒歴史”を消すか書き換えるかをしに、自らが書いた物語の中に介入しに来たんだろう。僕には解る……なんせ、相手も“僕”なのだか!


『アルフレッド……いえ、ノブオ。もう一人の貴方は、勇者達の戦いの後、この世界を滅ぼしました』


 告げられた事実に、僕は文字通り言葉を失った。


『マナフレアとジークハルト、ペトルーシュカは四天王との戦いで散り、我々七竜は、魔王ドルパゴスに敗れた貴方をここへ運ぶのが精一杯でした』


 マナもジークもぺト子も……そして剣の一本も残っていない今の僕に、何が出来るというのだろう。


『ノブオ、貴方にはたった一つ残された選択があります』


 生唾をごくりと嚥下し、一拍。


『我々七竜による最後の力で、世界の時を戻します。勇者の旅立ちより前に戻り、大魔王らを倒すのです!』


 可能なのか?そんな事が……


『可能です。ですか、本来の過去と異なり、戻った時の世界には大魔王がいます。そして……彼は既に世界の理を造り替えているのです』


 世界の理とは、つまり……


『魔物を倒すだけで自動的に強くなる、個人の能力が数値化される、無限に道具が持てる等が出来なくなっています』


 レベルアップも、ステータスも、スキルも、アイテムボックスも……“ゲーム的なご都合主義”が全て無くなっているという事か。


「大人のやりそうな事だよ。変にリアリティを意識して、ファンタジーを心から楽しめない、 つまんない奴になったんだな、僕は……」


 もちろん死んだら教会やセーブポイントに戻される事もなく、死んで終わりになるのだろう。そういう奴が“本格ファンタジー”とか言い出すんだ。


『貴方にとって、かなり不利な状況、艱難辛苦の道となるでしょう。それでも……』


「それでもやるさ、“弱くてニューゲーム”でも!聖竜様、僕を止めるのは僕じゃなきゃダメです。行かせてください!」


 僕の言葉を聞いた聖竜様はにこりと微笑んだ、気がした。姿も見えないし、ドラゴンに表情があるかどうかも、解らないのに。


『解りました……お行きなさい、勇者よ。始まりの時へ────


 僕の意識は、再び薄れていった……

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