第拾壱話 勇者再臨(リターン・ブレイブ)
杖の先端に埋め込まれた紫色の宝玉が発光した刹那、大爆発が起きた。宿屋は跡形も無く崩壊し、オヤジと盗賊達は煤まみれで服はボロボロ、髪はアフロヘアーになっているではないか。俺とショウはというと、爆発のすぐ近くにいたというのに無傷で汚れてもいない。まるで当たり判定”が無かったかのように。何ともご都合主義な魔法だろうか。
爆発系魔法最高位、終世大爆発。現実世界でこの規模の爆発を起こすならダイナマイトが何本か要るだろうし、爆風が直撃すればアフロになるどころでは済まないだろう。
「だ、大魔王……だと…?」
オヤジが大魔王装備に身を包んだ俺を見て、震えている。
「何でこの町にそんな大物が…… しかも俺の宿屋に泊まってたんだ!?」
まぁ、そんな疑問は出てくるだろう。因みに盗賊達は伸びて失神している。
「おい人間」
ショウが音も無く近付き、オヤジの喉元にナイフの刃を近づける。
「お前が大魔王様に働いた狼藉、その命を以て償え!!」
ショウのやつ、オヤジを殺すつもりだ。俺はそこまで望んじゃいないから止めないと……
「待てい!!」
と、大声で俺たちに投げかけられる声。その方向に振り向くと、4人の人影が。
「ゲェーッ!?」
思わず俺は声を上げた。その中心に立っていたのは、白銀の鎧に身を包んだ一人の若者……
「アルフレッド・ザン・社!」
この物語の主人公であり勇者、アルフレッドその人だった。他の3人は言うまでも無く魔法使いマナフレア、戦士ジークハルト、そして機械人形ペトルーシュカだった。
「騒ぎを聞きつけて来てみれば、宿屋が破壊され、オヤジさんも殺されそうになっているなんて・・・・・・お前たちは何者だ!」
アルフレッドの問いを聞いたショウは、オヤジに向けていたナイフの切っ先をアルフレッド達に方向を変える。オヤジは緊張の糸が切れて失神してしまった。
「この御方こそは我らが魔の君主、大魔王サタン様だ!!」
と、ショウが俺のことをアルフレッド達に紹介する形となってしまった。
「大……魔王だと?魔王ドルバゴスより更に格上がいやがったのか!!」
と、ジークハルト。
「そんな存在が何でこんなところにいるのよ!?」
マナフレアが続く。そうだね、インゼルヴェルツェル王国はまだストーリーの序盤から中盤くらいのエリアだからね。
「何にせよ、親玉自らが姿を現したんだ、こちらからラスダンに向かう手間が省けたぜ!!」
アルフレッドは剣を構える。幸い、俺は大魔王装備で顔と体を隠しているため、彼らは俺の正体が先日助けた男・サトウ・ノブオである事に気付いていないようだ。そしてラスダン言うな。
マナフレアは魔法の詠唱を始め、ジークハルトは攻撃力を高める戦士の呼吸法を始めた。
俺とショウの二人に対し、勇者パーティーは人数が倍。生まれたてのキャラクターであるショウと、異世界での (というか現実世界でもだったが) 戦いになれていない俺にとって不利な状況である。
「ショウよ、余にいい考えがある。貴様は何とか勇者達の攻撃に耐え、余を守護るのだ」。
「御意に」
ショウが応えた直後だった。
「いくぜ!」
と、アルフレッドが走ってくる。
「遅い」
ショウは武器の拳銃部分を発砲し、アルフレッドを迎撃する。盾で弾丸を防ぐのに手一杯で中々ショウとの距離を縮められない。
「吹雪の猛禽よ、飛べ!シュネー・フリューゲル!!」
マナフレアの唱えた魔法、鳥の姿をした吹雪が飛来する。
「くっ…」
跳び退いてかわすショウ。吹雪の鳥は瓦礫にぶつかり、辺りに霜を散らす。
「隙ありだッ!!」
ショウの頭上から、ジークハルトの戦斧が振り下ろされ、それをショウは紙一重で回避するが、斧の刃が頭巾を切り裂き、ショウの素顔が露わになる。
「ッ!?お前は……」
ショウの素顔を見たジークハルトは驚きの表情を見せた。
「ハイパーアトミックメガデストロイ砲、エネルギー充填完了メカ!!」
しまった。今まで台詞が無いので機械人形ペトルーシュカの存在を忘れていた。彼女は両掌に設けられた砲門から高威力のビームを撃ち出そうとしていた。
「ジーク、そこをどくメカ……」
「撃つな!ペトルーシュカッッ!!」
ジークハルトはショウに背を向け、まるで彼を守るかの様に、両手を広げる。
「こいつは……俺の生き別れの弟なんだ!」
「ジークの…」
「弟…」
「メカ……?」
勇者一行は武器を構えたまま、ジークハルトとショウを見つめる。そして、ジークハルトはショウに向き直り、彼の両肩を掴む。
「ラインハルト、俺だ!ジークハルトだ!俺達は幼い頃に奴隷とし、それぞれ別の闇組織に売られた生き別れの兄弟だ!」
と、説明臭い台詞でジークハルトはショウに語りかける。
「ジーク…兄さん……?」
ショウことラインハルトは兄の事を思い出した様だ。だが、俺の右手には“漆黒の聖典”が淡い光を放ちながら握られているのだった……




