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第51話 水面下の攻防

 聖ルカ施療団の内部対立——現状維持を望む保守派と、祈祷だけではない実効性のある医療を求める疑問派(改革派)。そして、その疑問派がミーナの店に強い関心を示し、彼女を取り込もうと考えているという情報。それは、私の計画にとって、無視できない新たな変数だった。


 疑問派の中心が、あの治療師ネイルであるならば、彼らのミーナへの関心自体に、おそらく悪意はないだろう。彼は根っからの理想主義者だ。

 ミーナが見せる、地に足の着いた実践的な治療に、純粋に感銘を受け、施療団の改革に必要な要素だと考えたのかもしれない。彼ならば、ミーナを丁重に扱い、その力を正当に評価しようとするだろう。


 まずミーナ自身に現状を伝え、改めて注意を促す必要があると判断した。数日後、薬の補充を口実に、私は彼女の店を訪れた。相変わらず店は多くの客で賑わっており、ミーナは一人でてきぱきと対応している。その姿は、以前よりもずっと頼もしく見えた。


 客足が途切れたタイミングを見計らい、店の奥の作業スペースへ入れてもらう。二人きりになると、私は単刀直入に切り出した。


「ミーナさん。その後、施療団の方から、何か変わったことはありましたか?」

「ううん、特にないよ。ネイル様も、あれ以来全然……」


 ミーナは不思議そうに首を振る。どうやら、直接的な再接触はまだないようだ。


「……そうですか。ですが、実は気になる噂を耳にしました。施療団の内部で、あなたの店の評判が、かなり注目されているようなのです。特に、ネイルさん達のような、新しいやり方を模索している人たちが……」


 私がそこまで言うと、ミーナの顔色がわずかに変わった。


「えっ……また、ですか? ネイル様には、この前はっきりお断りしたはずなのに……。今度は、いったい……?」


 私の言葉に、驚きと共に新たな不安が広がっているのが見て取れる。


「ええ。噂によれば、彼らは諦めていないどころか、あなたのやり方を高く評価し、『ミーナさんを核とした、新しい治療の拠点を作れないか』とまで考えている者もいる、とのことです」

「わ、私を……? 新しい活動の、核に……? そ、そんな……!」


 ミーナは絶句し顔を青ざめさせた。単なる勧誘ではなく、自分を中心に据えた具体的な計画があるかもしれない、という事実に、大きな衝撃を受けているようだ。


「あくまで噂です。ですが、火のない所に煙は立ちません。ミーナさん、もし今後、施療団の誰か——たとえネイルさんであっても——が、あなたに『協力』や『支援』、あるいは『新しい拠点の誘い』といった話を持ち掛けてきても、決して安易に乗ってはいけません。丁重に、しかし、きっぱりと断ってください。理由は、以前と同じでいい。『私には師事する方がいるので』と。それ以上は、何も話す必要はありません」

「……う、うん……わかった、師匠……ううん、イロハさん」


 彼女は動揺しながらも、私の目をしっかりと見て頷いた。


「彼らの意図がどうであれ、今の施療団の内部事情に、あなたが巻き込まれるのは危険です。必ず、私に相談してください。いいですね?」

「はい……! 必ず……!」


 ミーナは、強く頷き返した。その瞳には、不安と共に、私への変わらぬ信頼が見て取れた。


 私は彼女に薬の包みを渡し、いつも通りの対価を受け取った。そして、薬草の保存方法についていくつか追加のアドバイスをして、店を出た。


 施療団の内部対立は、私にとっては、彼らが私自身へ向ける注意を逸らすという意味で、好都合な面もある。だが、その余波がミーナに及ぶのは許容できない。

 必要ならば、私も動かなければならないだろう。疑問派であれ、保守派であれ、ミーナに害が及ぶようならば——。


 私は、ルント市の空の下、人知れず存在する自らの「仕事」と、それを脅かす可能性のある「権力」との間で、新たな対決の予感を覚えながら、次なる依頼を探すべく、思考を巡らせていた。

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