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第34話 情報と対価

 より困難で、より大きな対価を得られる依頼——それを効率的に見つけ出すためには、的確な情報が不可欠だ。以前懇意になった情報屋の元へと足を運んだ。

 今回は銀貨を数枚掴ませて、より具体的な情報を要求する。「事故による重傷」「腹部の原因不明の激痛が続く者」「他の治療師が匙を投げた症例」……。


 情報屋は、銀貨の輝きに目を細め、すぐにいくつかの噂を耳打ちしてくれた。その中で、私の注意を引いたのは、石工ギルドの長に関する話だった。


「石工ギルドの長なんだがね……もう何年も、原因不明の身体の痺れと脱力感に悩まされているらしい。腕は確かなんだが、最近じゃ満足に槌も振るえなくなってきてるって話だ。もちろん、施療院じゃ原因不明。高名な薬師も匙を投げた。だが、仕事柄、金は持ってるはずだぜ? どうだい、お嬢さん。興味はあるかい?」


 石工ギルドの長。原因不明の痺れと脱力感……。神経系の疾患か? あるいは、特殊な中毒や職業病の可能性も?


「……詳しく聞かせてもらえますか」


 新たな患者へと繋がるかもしれないその情報に静かに意識を集中させた。情報屋から、ギルド長の屋敷の場所や最近の様子などを詳しく聞き出す。対価として、さらに銀貨を数枚渡した。


 情報を得て、自分の部屋に戻る前にミーナの薬草店へと立ち寄った。先日頼まれていた、補充用のキズハ湿布と感冒薬の包みを渡すためだ。


 店の奥の作業場で、ミーナは薬草を仕分ける手を止め、私を迎えた。


「師匠! 来てくれたんだね!」

「ええ。頼まれていたものを」


 包みを渡すと、ミーナは嬉しそうにそれを受け取り、そして慣れた手つきでカウンターの下から小さな革袋を取り出した。中には、銀貨が数枚と、銅貨や銭貨がいくらか入っている。


「ありがとう、師匠。これが、今週分の……その、お代」

「……確かに」


 私はそれを受け取る。微々たる金額だが、これも大事な収入源だ。そして何より、彼女がこうして対価を払い、私の薬で人々を助けているという事実が重要だった。


「それで、お店の調子はどうですか?」

「うん! 師匠に教わったキズハの湿布も、風邪の薬も、すごく評判がいいんだ! 前よりもお客さんが増えて……本当にありがとう!」


 ミーナは満面の笑みだ。だが、すぐに少し表情を曇らせた。


「でもね……やっぱり、私にできることって限られてるんだなって思うこともあって。この前もね、ひどい胸の痛みだって人が来たんだけど……私が知ってるどの薬草も効きそうになくて。できることって言ったら、楽な姿勢を教えてあげるとか、そんなことだけで……。結局、大きな施療院に行くように言うしかなかったんだ」


 彼女は、自分の無力さを感じているのだろう。その気持ちは、痛いほど分かる。


「それでいいのですミーナさん。あなたは、あなたの知識と手で、できる限りのことをしている。それが一番大事なことです。決して、無理をしてはいけません」


 私がそう言うと、ミーナは少しだけ潤んだ瞳で、それでも力強く頷いた。


「……うん。ありがとう、師匠」


 彼女との時間は、今の私にとって、複雑な感情を呼び起こす。だが、必要な時間でもあるのかもしれない。


 ミーナの店を後にし、私は改めて思考を切り替えた。石工ギルドの長。彼の症状……。本で対応できる可能性は十分にある。そして、対価も期待できるかもしれない。


 私は、石工ギルド長の屋敷の場所を頭の中で確認しながら、次なる一手に向けて、足を進めた。

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