エピローグ
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シュティリエ国の王都にある大聖堂の周りには、朝から大勢の国民が集まっていた。
警備には騎士団が駆り出され、大聖堂の入り口にはバリケードがされている。
その厳重な警備の外。大聖堂が面している大通りには、花や旗を持った国民の他、出店まで出ているお祭り騒ぎだった。
「お嬢様、外はすごい賑わいみたいですね」
大聖堂の花嫁の控室で、わたしの付き添いをしてくれているギーゼラがふわりと笑う。
お小言がちょっと多めのわたしの侍女だけど、今日はいつになく穏やかだ。
「そうね。外の声がここまで聞こえて来るってすごいわね」
「聖女認定式のときよりも賑わっていますね」
「みんな、ライナルトが見たいのよ」
くすくすと笑うと、ギーゼラが肩をすくめた。
「そこは花嫁であるお嬢様を見たいのだと思いますよ」
ギーゼラはそう言ってくれるけど、わたしは自分の意見が正しいと思っている。
長らく臥せっていたとされていたライナルトは、まだあまり国民に顔を知られていない。
公務にも参加するようになってきたので、まったく顔を知られていないわけではないけれど、兎の姿になってから受けられていなかった教育を今もまだ受けている最中なので、国民の前に出る機会はそれほど多くないのだ。
けれども、物腰穏やかなイケメンの第一王子の噂は瞬く間に国中に知れ渡り、今となっては「ライナルト殿下のご尊顔が見られたら幸せになれる」なんて、なんか勝手にご利益までくっつけられている始末である。そのうちライナルトがご神体にされたらどうしよう。ライナルト神社ならぬ、ライナルト教会みたいなものが建設されたらどうしよう。
なんて、くだらないことを結構本気で心配していたりする。
これにはライナルトも苦笑していたけれど、ずっと表に出ていなかった自分が国民に受け入れられて嬉しいと喜んでもいた。わたしのピュア王子、優しくって尊すぎる‼
そんなライナルトを救ったのが聖女のわたし、ということになっていて(まあこれは本当なんだけど)、国民たちの間では、わたしたちは運命のビッグカップルなんて呼ばれている。
今日は、そんなわたしたちの結婚式だ。
しかも、新郎の格好をした超レアなライナルトが拝めるチャンスともあって、昨日のうちから大聖堂の前のいい場所を確保していた人もいたくらいである。
……なんか、前世で発売当日に新機種のスマホとか新発売のゲームとかの順番待ちをしている人のことを思い出したわ。
世界が変わっても、人間の心理と言うものはあまり変わらないのだろう。
……というか、激レアなライナルト、わたしも早く見たいし。
結婚式がはじまるまで新郎は花嫁の姿を見ない方がいい、という前世でも聞いたようなしきたりのせいで、わたしは盛装したライナルトをまだ拝めていないのだ。
今日のライナルトは、特注の白の詰襟の王子の盛装に身を包んでいるんだって!
事前にちらっと服を見せてもらったけど、白の軍服みたいな服に、金や銀の色でたくさん刺繍がしてあって、肩章とか勲章とかいっぱいくっついてて、とにかくめちゃくちゃカッコよかったのだ。
……あれ、絶対似合うやつ‼
結婚式のドキドキより、ライナルトが早く見たいという興奮の方が上回るわたしは、花嫁として失格だろうか。
いやでも、見たいものは見たいのだ!
「ギーゼラ、あれの準備はできてるわよね」
「できていますよお嬢様。カール様が最前列で構えていましたから」
「ふふっ。今日ばかりはお兄様を心の底から尊敬するわ」
わたしが、何が何でも結婚式の写真が欲しいと騒いだところ、根負けしたお兄様がなんと! 魔術具カメラ(命名『映る君』)を二台ほど作ってくれたのだ。
どういう原理か知らないけど、フィルムのいらない、前世で言うところのデジカメみたいな仕様で、容量とか気にせず好きなだけ写真が撮れる優れものらしい。
現像機も、写真用の光沢のある紙も、すでにお兄様が開発済みだ。
……お兄様大好きよ!
あとはお父様とお兄様に、カッコいいライナルトを激写してもらうのだ。
一応伯父様も宮廷画家をスタンバイさせているみたいだけど、わたしは一枚じゃなくて何枚も……それこそ何百枚も、今日のライナルトの写真がほしい。
カメラが完成したのは昨日のことだったので、伯父様にも詳しいことは伝えていない。
ただ、絵を描くような魔術具があるから持ち込んでいいかと聞いたところ、首をひねりつつ頷いていたので、最前列で写真を激写していても咎められることはないだろう。
……ふふふ、伯父様、後で腰を抜かさないかしら?
いやむしろ、息子大好きな伯父様はたくさんのライナルトの写真に狂喜乱舞するかしら?
機密情報とかいろいろあるから、カメラを世の中に広めることがでカールかどうかはちょっと怪しいところだけど、ルールを決めて身内だけで使うなら別に構わないはずだ。
というかこれからもぜひ使いたいから、ライナルトの写真で伯父様をうまく買収できないかと、わたしはちょっと悪いことを考えていたりもする。
「お嬢様、花嫁がそんな顔をするものではないですよ。もっとこう、はにかむような可愛らしい表情を浮かべてください。それでなくとも顔がきついのに……」
にやにや笑っていたら、ギーゼラが小言をくれる。
それから、ギーゼラはどこか寂しそうな顔で微笑んだ。
「……お嬢様とお呼びするのもこれで最後ですね。式が終われば奥様とお呼びすることになりますから。そう思うと、感慨深いものがありますね」
「そうね。でも、呼び方が変わるだけで、ギーゼラはずっとうちにいてくれるんでしょ?」
ギーゼラはわたしについてこの国に移動してくれたし、もしこの先結婚しても、ずっと一緒にいてほしいというわたしの希望は伝えてあるし、本人からも了承を得ていた。
まあ、ギーゼラが結婚したあとのことはギーゼラ一人の意見では決められないだろうから、必ずと言うわけではないだろうけどね。
ライナルトのことは大好きだし結婚出来て幸せだけど、やはり新天地で家族と離れて生きていくのは心細くもあるので、付き合いの長いギーゼラがいてくれるととても安心でカール。
ギーゼラは柔らかく微笑んで、わたしの顔にベールを降ろした。
「ええ。でカールことならずっとおそばにおります。お嬢様は抜けているところがありますから、目を離すと不安ですからね。――それでは、時間です。わたくしが心配する必要はないと存じますが、お嬢様、どうか末永くお幸せに」
「ありがとう、ギーゼラ」
わたしはギーゼラの手を借りて立ち上がると、そのまま腹心の侍女に手を引かれて、式場となる聖堂へ向かった。
荘厳なパイプオルガンの音色が聞こえてくると、ゆっくりと大聖堂に繋がる両開きの扉が開く。
赤いベルベットの絨毯が敷かれている主身廊を、わたしは、お父様にエスコートされながらゆっくりと進んでいった。
絨毯が途切れる先には祭壇があって、右手側に新郎であるライナルトが立っている。
……か、かっこい……っ!
ベール越しに見るライナルトは、きらっきらの銀髪を撫でつけて、どこか緊張した表情を浮かべながら、綺麗なエメラルド色の瞳でじっとわたしを見つめていた。
まるで、わたしの一挙手一投足のすべてを目に焼き付けようと言わんばかりに、ひと時も目を反らさない。
白の詰襟の盛装に、肩に斜めにかけられているサッシュは濃い青で、金色の刺繍が入っている。
ライナルトはすらりと背が高いので、詰襟の盛装がとってもよく似合う。
……ああもうどうしよう。すでに幸せすぎていっぱいいっぱいなんだけど。
ライナルトに見とれすぎて、うっかりドレスの裾を踏んで転びそうだ。
ゆっくりと祭壇に近づいていくと、お兄様がカメラを構えてわたしを撮影しているのが見えた。
……ちょっとお兄様! わたしはいいから、ライナルトを! ライナルトを撮って‼
そんなわたしの心の声は、残念ながらお兄様に届かなかったようで、わたしが祭壇前に到着するまで、お兄様はひたすらわたしの写真を撮っていた。
お父様がわたしをライナルトに預けて、自分の席に戻っていく。
そしてお父様もカメラを構えた。
ぱしゃぱしゃと小さな音がうるさいけど、これも写真のため。今日のライナルトを永遠に保存しておくためである。
司教様がちょっと鬱陶しそうな目でわたしたち家族を見ていたけど、わたしは気にしないもんねー‼ むしろがんがん撮ってほしい。
それにしても、ライナルトが尊すぎる。油断しているとうっかり拝みそうだ。
ぽけーっとライナルトに見とれていたら、司教様がこほんと咳ばらいをした。
ここは、日本人が作った乙女ゲームの世界なので、誓いの文言も前世でよく耳にするアレである。
病めるときも健やかなるときも~というやつだ。
……病めるときだろうと健やかなるときだろうと永遠にくっついていますから!
というか、ライナルトが病気になったらわたしが治すから、病気で苦しむことなんてありませんとも。
食い気味に誓いたくなってきたけれど、ここで大声で宣誓なんてしたら恥をかくので、花嫁らしく控えめに「誓います」と答えておく。
指輪の交換をして、ライナルトがそっとわたしのベールを持ち上げた。
……さあお兄様お父様、シャッターチャンスですよ‼
どきどきしながら見上げると、ライナルトがふんわりと微笑んで、そっと顔を近づける。
ライナルトの唇の温かさを感じながら、わたしは思った。
……顔も知らない神様‼ わたしをこの世界に転生させてくれて、本当に本当にありがとうっ‼
――そんな、幸せ絶頂のわたしの元に、とある面倒くさいトラブルが持ち込まれるのは、この後すぐのことだった。
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これにて第二話終了です!
第三話開始まで少しお時間を頂戴いたしますm(__)m
ノベルの方も現在②巻発売中ですので、そちらも併せて、引き続き本作をどうぞよろしくお願いいたします!








