お見合いパーティーと乱入者 1
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瘴気溜まりの浄化を終えて、テニッセン辺境伯やバーレ子爵、ヴュスト男爵からお土産をたくさんもらい、わたしたちはひとまず王都に帰って来た。
一日ほど旅の疲れを取るためにお休みをもらって、そのあとでロヴァルタ国王に浄化の完了報告をすることになっている。
とはいえ、マリウス殿下やエクムント騎士団長が同行していたので、彼らから先に報告がなされるだろう。
わたしがする報告は、形式上のようなものだ。
「おじい様おばあ様、ただいま帰りました~……って、何か忙しそうね、みんな」
王都のフェルゼンシュタイン邸の玄関扉を開けたわたしは、邸の使用人たちが慌ただしく動き回っているのを見て目を丸くした。
わたしの隣のライナルトも、「何かあったのかな?」と首をひねっている。
うちは何かと騒がしい家族だけど、使用人たちはみんな人間が出来ているから、公爵家……今は王家だけど、それにふさわしい優雅さと厳格さ(たまにお茶目)を兼ね備えていたはずだ。
その使用人が、仮にも一家のお嬢様であるわたしの出迎えもそこそこにばたばたと動き回っているのは、とっても謎な現象よ。
だっていつもなら「お帰りなさいお嬢様~」と出迎えてくれるもん!
みんなの「お帰りなさい」がないことにちょっぴりいじけていると、わたしに気づいたメイドの一人がぱたぱたと駆けてきた。
「すみませんお嬢様! お迎えもできませんで……」
「何かあったの?」
「あったと言えばあったというか……、詳しくは大旦那様にお訊ねくださいませ。あ、ギーゼラさん、お手伝いします!」
馬車から他の使用人たちの荷物を降ろしていたギーゼラを見つけて、メイドが玄関の外に走っていく。
……よくわからないけど、おじい様に聞けばいいのね?
わたしとライナルトはコートを脱いで使用人に預け、その足で、おじい様がいるという書斎へ向かった。
「おじい様、ヴィルヘルミーネです。ライナルト殿下も一緒です。ただいま帰りました」
コンコンと扉を叩いて声をかけると、王都のフェルゼンシュタイン邸の管理を任せていた家令のハリノさんが中から扉を開けてくれる。
「あら、ハリノさんもここにいたの」
「はい。お出迎えできず申し訳ございません。大旦那様と大奥様は中にいらっしゃいます。どうぞ」
三十二歳のハリノさんは、フェルゼンシュタイン国の王宮(仮)にいる家令のニクラウスさんの息子である。
王都のタウンハウスをこのまま維持するかどうするか決まっていないので邸を空っぽにすることもできず、フェルゼンシュタイン国の国民となることを選択してくれたハリノさんだけど、もうしばらく王都に滞在してもらうことになりそうだ。
ハリノさんに案内されて中に入ったわたしは、書斎の机や休憩用のソファやローテーブルの上に、所狭しと積み上げられている書類に目を剥いた。
「おじい様、おばあ様、これはいったい……」
「お帰りヴィル! それからライナルト殿下も、出迎えず失礼いたしました」
「いえ、それは構わないのですが、ずいぶんとお忙しそうですね」
おじい様は書類の山の向こう、書斎机の椅子に座ってせっせと書き物をしている。
おばあ様はソファの端っこにちょこんと腰を掛けて、書類をあっちこっちに裁いていた。
見れば、おばあ様が裁いている書類は、書類ではなく、肖像画が付けられた何かである。
……いやな予感がしてきた。
肖像画をちらりと見るに、それはどれも、年頃のご令嬢のもの。
って、ことは。
「おばあ様、それは……」
「これはカールのお見合いパーティーの参加希望者よ。いくつかのお茶会とパーティーに参加したときに宣伝したら、ほら、こんなことに」
……さすが、顔だけはパーフェクトなお兄様。女性人気が天元突破してるわ。
「他国のご令嬢たちも、社交シーズンだからと親戚を訪ねてこちらにいらしていたみたいなの。ほら、今年は聖女が誕生したでしょう? だからロヴァルタ国は何かと話題になっているみたい。まさか聖女が偽物だなんて知らないから、聖女ラウラにお近づきになろうと他国が大勢の使者を送ったみたいなのよ」
「……そのせいで、他国のご令嬢まで釣れちゃったんですか?」
「ええ、そうみたい」
そうみたいって、おばあ様。
確かに、何度もお見合いをセッティングするのは面倒だから一度に~とは思ったけど、想定外の規模になりそうですよ?
「まあ、ロヴァルタ国にラウラがいるように、フェルゼンシュタイン国にはヴィルがいるからね」
ライナルトがくすくすと笑う。
つまり、お兄様のお見合いついでにわたしともお近づきになろうと、そういうことであっているのだろうか?
わたしはシュティリエ国の聖女として登録されているけど、フェルゼンシュタイン国の王女で、ついでに新年でフェルゼンシュタイン国に滞在中だからね。
お兄様のお見合いパーティーにはまだシュティリエ国に帰っていないだろうって思われているのだろうか。
……ラウラのことは、たぶん国王陛下とかが必死に隠そうとしているはずだから、ラウラとのつながりを求めてやってきた人たちもろくに接点を持てなかったのかしら? となると、代わりにわたしが狙われるのも、道理と言えば道理よねえ。
建国したてで、まだ我が国は本格的に外交をはじめていない。
そんな国に赴くには、何か理由がなければ難しい。
このタイミングのお兄様のお見合いパーティーは、他国からすれば渡りに船だったということね。
「おばあ様がお忙しい理由はわかりましたけど、じゃあ、おじい様は何をなさっているんですか?」
「あの人は、我が国と取引をしたいって貴族たちの嘆願書の対応よ。国同士の関税が決まらないと取引できないっていうのに、今から予約待ちの手紙がわんさかと届いてね。……まあ、ちょーっと、パーティーやお茶会で、カールの発明品を自慢したりしたけど、想定外の食いつきだったわ」
「…………」
まあ、この二人が、王都でおとなしくしているとは思っていなかったよ?
だけど、わたしの想像以上に大フィーバーを起こしてくれたみたいである。
……わかってた。わかってたわよ? のほほんとしているお父様とお母様とは違って、やり手のおじい様とおばあ様が、我が国をアピールできる機会を逃すはずがないことくらいはね?
何と言ってもおじい様は元敏腕政治家で、おばあ様はそんなおじい様をサポートしていた優秀な元公爵夫人である。
そして、外交を担っていたおじい様と共に他国を渡り歩き、ロヴァルタ国をがんがん売り込んでいた元外交夫人だ。
この二人が本気を出せば、短期間でこの状況を生んでもおかしくない。
「ちゃんと国に帰るまでには片付けるから安心してちょうだい? ああ、ロヴァルタ国王陛下への報告もあるでしょうから、出立は四日後でいいわよね?」
つまり、四日でこれを全部片づける自信があるんですね、おばあ様。
年をとっても変わらずパワフルなおじい様とおばあ様に正直軽く引きながら、わたしとライナルトは、とりあえず旅の疲れを癒そうと、おとなしく書斎から立ち去ったのだった。
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ISBN-10 : 4813765017
ISBN-13 : 978-4813765011
あらすじ:
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