聖女認定式と瘴気溜まり 6
【ご報告】
本作書籍2巻の発売が決定しました(//∇//)
(SQEXノベルの公式にもタイトル出てます!)
発売日などの詳細は告知OKになったらご報告しますね。
どうぞよろしくお願いします!
晩餐の時間までライナルト殿下といちゃいちゃして過ごして満足したわたしは、一階のメインダイニングへ向かった。
晩餐はマリウス殿下も一緒だけど、これは仕方ない。
テニッセン辺境伯やバーレ子爵の手前、マリウス殿下とは良好な関係であることを装っておく必要がある。
というか、マリウス殿下とわたしたちが仲良くないと思われると、あちらに気を使わせるからね。
マリウス殿下もそのあたり理解していると思うから、面と向かって喧嘩を吹っ掛けてきたりはしないだろう。そう思いたい。
……っていうか美味しいこのカブ!
カブのソテーを食べたわたしは、あまりの美味しさに目を剥いた。カブなのに、どこからどう見ても、いつも食べてるカブと同じはずなのに、なんでこんなに美味しいの?
目をぱちくりさせていると、バーレ子爵が得意げな顔をした。
「美味しいでしょう? これはこのあたりで採れたものでして、最近改良させた新種なのです」
「美味しいです。甘くて柔らかくて……」
ほしい。
この新種のカブの種、何とかしてもらえないだろうか。
真剣にどうにかして交渉できないかと悩んでいると、テニッセン辺境伯がくすくすと笑う。
「このあたりはやや標高も高く寒いですからね。どうやらこの気候があっているようです」
ということは、だ。
ここよりも南の、しかも海に面していて温暖な風が流れ込んでくるフェルゼンシュタイン国では、育てたところで同じような味にはならないのかもしれない。がっくり。
……でも、カブってどうしても、千枚漬けで食べたくなるのよね。元日本人だからかしら。
焼いたカブも煮たカブも美味しいが、千枚漬けが食べたい。このカブが美味しいからこそ、千枚漬けが欲しい。
だけど、残念ながら千枚漬けなんてこの世界には存在しない。そして、この世界のお酢は、千枚漬けに向かないのだ。
悪役令嬢として破滅する未来も消えたことだし、ここいらで食の大幅改革に乗り出したい……。
自分の身分を考えろとツッこまれるかもしれないが、わたしは欲望に忠実な女である。食べたいものは食べたい。
これでは、年明け早々お餅つきをしていたお父様たちを笑えないなと思ったけれど、わたしは日本食に飢えている。
味噌としょうゆと穀物酢……何とか作れないものかしら。
わたしがカブのソテーを食べつつ、ぐぬぬぬぬ、と唸っていると、どうやらこのカブを欲しがっていると勘違いされたらしい。
バーレ子爵がおずおずと。
「お帰りになる際に、いくつかご用意しましょうか? あまり日持ちはしないかもしれませんが、王都までなら大丈夫でしょうし」
無言でおねだりしているように取られて、わたしは恥ずかしさのあまりうつむいた。
……そ、そんなつもりじゃなかったのよ。でも、もらえるならもらいますけど。
ここは、下手に否定すると場の空気が悪くなりそうだ。
「す、すみません。あまりの美味しさに我を忘れました……」
尻すぼみに小声でぼそぼそと言い訳がましいことを言えば、バーレ子爵とテニッセン辺境伯が笑った。ライナルト殿下も微笑ましそうな顔でわたしを見ている。
「確かに、これまで食べたカブの中で一番おいしいね」
……うぅ、ライナルト殿下に意地汚い女だって思われたらどうしよう。
だけど、このライナルト殿下の「一番」という言葉に、バーレ子爵はとても気分をよくしたようだった。
「それはそれは、光栄でございます。こちらのポタージュも、自慢のかぼちゃが使われているんですよ」
嬉しそうにかぼちゃのポタージュを進めるバーレ子爵も、それを微笑ましそうに見ているテニッセン辺境伯も、きっといい領主様なのだろう。
……早いところ、瘴気溜まりを何とかしてあげなくちゃね。
この美味しいお野菜に、瘴気の影響が出たら大変だ。
わたしはバーレ子爵のおすすめのかぼちゃのポタージュを口にしながら、そう思った。
……というか、このポタージュ、めっちゃ美味しいっ‼ このかぼちゃもぜひください‼








