聖女認定式と瘴気溜まり 1
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聖女認定式も三度目なら、もう慣れたものですよ。
聖女っぽい白いローブを着てベールをかぶって、わたしはロヴァルタ国王都の大聖堂へ向かった。
シュティリエ国のときの聖女認定式と違うのは、今日は教皇猊下は参加せず、代わりに教皇代理の枢機卿が参加することだろうか。
この世界にも宗教はいくつかあるみたいだけど、聖女を「聖女」と認定しているのは、世界の人口の半数以上が信仰しているレツェル教だ。
国際法なんてものが確立していないこの世界で、聖女を聖女たらしめているのは、レツェル教の存在が大きい。というかこれなくしては語れない。
レツェル教の総本山はシュティリエ国がある大陸の中央に位置する小国「聖レーツェル国」。
かの国のトップはもちろんレツェル教の教皇猊下で、市民権が与えられるのは聖職者のみ。
たとえその国で生まれても、聖職者でなければ市民権は発行されず、聖レーツェル国に隣接する国のいずれかの市民権が発行される。
ちょっと、前世のバチカン市国と似たところがある国である。バチカン市国の仕組みに詳しいわけじゃないから、詳細はわからないけど。
わたしの最初の聖女認定式には教皇猊下がわざわざ足を運んでくれたけれど、二回目三回目ともなればわざわざ猊下が足を運ぶことはない。
ロヴァルタ国で行う聖女認定式は、あくまでロヴァルタ国内で聖女として活動することを認める、という程度のものなので、そんな些細な式にお忙しい教皇猊下が足を運んだりはしないのだ。
レツェル教の経典では、神レーツェルを正義とし、この世界に存在する魔人を悪としている。
とはいえ、この「魔人が悪」という点は、現代では昔よりもかなり考え方が緩くなっていた。
何故なら魔人の中にも人類と共存を望んでいる平和主義者がいて(というかほどんとがそれ)、人類に敵対しようと考えているものはごく少数なのだ。
せっかく相手が歩み寄ってくれているのにこちらが敵視して敵対するのは愚の骨頂。
だって、魔人って、個々がとても強いからね。なんたって、魔人の中で特別力が強くなったものを「魔王」なんて呼んで、未曽有の災害認定するのだから。それを聞くだけで推して測れるというものだろう。
ゆえに、最近では「人類に敵対している魔人を悪とする」というゆるーい感じにまとめられていると聞くレツェル教の経典(改)において、聖女は神の代弁者と位置付けられていた。
別に神の声が聞こえるわけじゃあないけれど、それだけ重要視されているということだ。
だから、聖女が誕生して最初の聖女認定式には、よほどのことがない限り教皇猊下が参加する。
……ラウラのときも、猊下がいらっしゃったらしいわよ。
残念ながら聖女が聖女であるかどうかの判断は、実際に瘴気を浄化できるかどうか検証してみないことにはわからない。
教皇であろうとも、見た目で聖女か否かの判断はつかないので、国が聖女だと言い切り認定式をすると言えば、教皇はよほどのことがない限りそれに否とは言わない。
聖女であると偽ることは、それすなわち神に対する冒涜とされているので、そんな嘘をついて聖女認定式を行おうと考える馬鹿は現れないからだ。
ついでに言えば、聖女認定式をして国の聖女として登録してしまうと、瘴気溜まりが発生したときなどに近隣の国から聖女を貸し出してほしいと要望が入る。
聖女を抱えておきながらその要望を突っぱねることは国交関係に大きな溝を作ることになるので、そんな危険を冒してまで偽の聖女を立てようなんて考えない。
――普通はね。
その他の誰もやらないような馬鹿なことをやらかしたロヴァルタ国は、何が何でもラウラが偽物であることを隠し通さなければならないので、きっとこの先非常に苦しい思いをすることだろう。
……し~らないっと。
こういうのを、自業自得というのだ。
ラウラ・グラッツェルという聖女がいるのに、どうして他国の聖女に聖女認定式をするのだろう、と少々不思議な空気間の中、わたしは手順通りに聖女であるという宣誓を行った。
大聖堂には国王陛下や王妃様、ついでに会いたくなかったけどマリウス殿下の姿もあった。
ベール越しとはいえ目を合わさないようにしていたけれど、なんか、視線を感じる……。
……あいつはわたしのことが嫌いだからね。どうせまた睨んでるんでしょうけど。
ラウラの姿はない。
陛下としても、ラウラをあまり表に出したくないのだろう。
……本人が来たがらなかったって可能性も高いけどね。
さくっと聖女認定式を終えると、わたしはその足でお城に呼ばれた。
もちろん、ライナルト殿下とおじい様も一緒である。
……一人でお城になんて行かないよ! いい思い出もないし、難癖つけられたらいやだもんね!
元臣民とはいえ、わたしたちはフェルゼンシュタイン国を建国したから一国家の王族である。
さすがに以前のように気軽に国王陛下の執務室に通せないので、案内されたのはサロンだった。
お茶とお菓子が運び込まれて歓待ムードの中、わたしたちに用のある陛下と宰相は緊張した面持ちである。
ま、おじい様が一緒だからね~。
フェルゼンシュタイン公爵家の独立を認めさせる時に、おじい様、この二人を相当脅したみたいだから。
鬱陶しいベールを脱いでいたわたしは、ティーカップに口をつけつつ成り行きを見守ることにした。こういうときは、余計な口を効かない方がいい。
……あ、このショコラタルト、ライナルト殿下が好きそうな味~!
ほろ苦く濃厚な味は、きっとライナルト殿下も好むはずだと、わたしは小声で殿下におすすめしてみた。
「殿下、これ、美味しいですよ」
「本当?」
ライナルト殿下が一口食べて、美味しいねと笑い合う。
わたしたち二人が顔を見合わせてのほほんとしていると、こほん、と宰相が咳ばらいをした。








