小さな違和感 6
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「栓は、これですね」
「ヴィル、俺がするよ。こういうのって、なかなか力がいると思うから」
フリスビーみたいな円盤の形をした金属製の栓を、ライナルト殿下が両手でぎゅっぎゅっと回していく。
殿下の力でも固いみたいなので、わたしでは回らなかっただろう。回ったとしてもかなり手が痛くなったはずだ。殿下、優しい~!
ライナルト殿下が栓をぎゅっとひねるたびに、二の腕の筋肉がぎゅっと盛り上がるのがシャツの上からわかる。
……いいよね、二の腕。しがみつきたい。
煩悩まみれのわたしは、密かに二の腕萌え中だったのだけど、もちろん表情はにやけないように気を付けましたとも!
ライナルト殿下は細マッチョなタイプなので筋肉ムキムキではないけれど、何気ないときにきゅっと浮かぶ筋肉がたまらない。
わたしたちがお風呂に移動したので、ギーゼラが密かについて来てくれていたのだけれど……、そのギーゼラの視線が痛い。長い付き合いであるギーゼラには、わたしのたるんだ思考が駄々洩れなのだろう。
緊張感? 何それ美味しいの~? ってな具合のたるみっぷりである。
……だってさぁ、ギーゼラ! ライナルト殿下がカッコイイんだもん! 仕方ないでしょう⁉
なぜ今は冬なんだ。半袖じゃないんだと、心の底から残念に思っているわたしは、たぶん悪くない。
……悪くないよね? 世の中の女性ってこんなもんだよね? 好きな人のたくましい二の腕、見たいよね⁉
「こんなものでいいかな?」
栓を緩めると、空っぽだった大きな浴槽にちょろちょろと水が溜まりはじめる。
別にたくさん水を出す必要はないから、栓はそれほど緩めなくてもいい。
わたしは脳内二の腕フィーバーをすぐにストップして、大きな浴槽に溜まりはじめた水を見た。
変な匂いはしない。
色もついてないし、見たところ、普通の水だ。
だけど「人体に影響が」と支配人が言っていたから、この水を浴びるか飲むかして体調を崩した人がいるはずだった。つまり、見た目は普通でも、何か異常があるはずである。
……とりあえず、触ってみる?
不用心かもしれないが、見ているだけではわからない。
わたしが水に手を伸ばそうとすると、横からはしっと手首をつかまれる。
「ヴィル、確認なら俺が」
「でも……」
「ヴィルに何かあったら大変だよ」
だめ、と叱るような目つきをされて、きゅんきゅんしちゃうわたしも大概だろう。
ライナルト殿下が心配だけど、ここは素直に引き下がっておこう。せっかくの気遣いだし、何かあっても、わたしは白魔術も聖女の浄化も使えるからきっと大丈夫のはずだ。
そう思いつつもやっぱり不安ではあるので、ライナルト殿下が水に手を伸ばすのを、ごくりと喉を鳴らしつつ見守る。
いつでも白魔術が使えるようにスタンバイしていると、ライナルト殿下が慎重に水に指先をつけて、そして――
「これ……」
ぴょこん。
ライナルト殿下が何か言いかけた直後、殿下の頭に、黒いうさ耳がぴょんと飛び出した。








