小さな違和感 1
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
「新年早々慌ただしくてごめんなさい」
「いや、全然かまわないよ。むしろ朝の餅つき? だっけ? あれは楽しかったし」
お父様の書斎での家族会議を終え、わたしはライナルト殿下を自分の部屋にお誘いした。殿下が部屋まで送ってくれると言ったから、それなら少しお喋りがしたいからいかがですかって。
……朝からお餅つきにパーティーの支度に家族会議にとバタバタしてて、ライナルト殿下成分が足りないのっ!
ギーゼラは、いくら婚約者であっても夜中に男性を部屋に招き入れるのはどうなのか……みたいな顔をしているけど、今更でしょう?
こんなに遅い時間の訪問は今まではなかったけど、夜に部屋でお喋りなんて、シュティリエ国では恒例だったじゃないの。
ギーゼラがハーブティーと、それから蜂蜜を固めたキャンディーを用意してくれて、何かあったらお呼びくださいと控室に下がる。
この後でお化粧を落としてドレスを脱いでお風呂にも入らないといけないから、あまり長時間のお喋りは無理なんだけど……あ~、や~っと二人きりになれた~!
ソファに並んで座ってライナルト殿下の腕に甘えると、殿下が微笑んでわたしの口元に蜂蜜のキャンディーを運んでくれる。
ぱくっと食べて……あ~、これよこれっ!
恋人といちゃいちゃ、楽し~い! 幸せ~!
わたしからも「あーん」とキャンディーをライナルト殿下の口元に運ぶ。
顔を見合わせてにっこりと微笑みあって、わたしはこてんと殿下の肩に頭を預けた。
美味しいものを一緒に食べて、「美味しいね」と共有しあうこの空気が大好き。
「今日は疲れましたね。大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だけど、ヴィルはずっとヒールの高い靴だったから疲れたんじゃない?」
「もう慣れました。あ、でも、あとでギーゼラにマッサージしてもらいますけど」
パーティーではずっと立っていたから、足が棒のようだ。お風呂に入って温まった後でギーゼラにほぐしてもらわないと、むくみが溜まって足が太くなっちゃう。
結婚式前だからね! 特に体型維持には気を付けておかないと!
……ライナルト殿下に「綺麗だ」って言ってもらいたいもんね~!
「俺がマッサージして上げられればいいんだけど、さすがに結婚前に女性の足に触れるのは、ね」
「ふふ、じゃあ、結婚後はお願いします」
「そうだね。任せて」
ああ、本当に結婚式が待ち遠しいです!
今でもバカップルの自覚はあるけど、結婚後はさらなるバカップルを目指して邁進していく所存ですから!
つまり、堂々といちゃいちゃしていたいんですっ! 煩悩の塊ですみませんっ!
目指せ、世界一のバカップル~!
「それにしても、聖女認定式の日程と瘴気溜まり浄化の日程が近々組まれるとなると、予定の調整が必要ですね」
わたしとライナルト殿下は新年の数日をこちらで過ごした後でシュティリエ国へ帰国する予定だった。だけど、聖女認定式などの予定が入るとなれば、しばらくこちらに滞在することになるだろう。
結婚式の準備はほぼ終わっているけれど、細かい調整が入ることもあるので、この時期に長期間邸を留守にするのは不安と言えば不安だけど、これもお仕事だからね。
うちの使用人たちはとっても有能なので、何かあればすぐにでも連絡をよこしてくれるだろう。
「フィリベルトと、あと父上たちに報告しておくよ」
「お願いします。……レンちゃん、寂しがっていますかね」
「帰ったら怒っているかもな。レンの後ろ足キック、結構痛いんだけど、蹴られるかなあ」
レンちゃんこと白兎のフロレンツィスカは、怒ると後ろ足で攻撃してくる。不満があれば床ドンするし、なかなか元気いっぱいの女の子である。
……フィリベルトさんたちにもとても懐いているので大丈夫だと思うけれど、レンちゃん、とくにライナルト殿下が大好きだから……。
置いていかれたって、怒っているかもしれないわね。
弱り顔をするライナルト殿下が可愛くて、ふふふと笑えば、ふにっと鼻を軽くつままれた。
さらに笑えば、ライナルト殿下もくすくす笑いながらそっと顔を近づけて来る。
啄むような口づけは、しびれを切らしたギーゼラが内扉をノックするまで続いたのだった。
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ








