モテすぎるのも困りもの 5
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お雑煮を食べ終わった後で、ライナルト殿下と会場内を挨拶がてら歩き回っていると、我が国の海岸沿いの町を治めているエックホーフ伯爵に捕まった。
我が国に三人しかいない伯爵の、その一人である。伯爵の義兄にあたる侯爵はロヴァルタ国で大臣の地位にいたはずだ。伯爵、そして大臣である侯爵共にお父様のお友達である。つまりいい人。
「ライナルト殿下、お嬢様……おっと、王女殿下でしたな。新年、あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます、エックホーフ伯爵。アンネリーエは……」
「娘はあちらに」
伯爵が視線を向けると、いた。お兄様を取り囲んでいる輪の中だ。
アンネリーエはわたしより一つ年下の十七歳で、わたしのお友達の一人だが、同時にお兄様の大ファンでもある。目をハートにしてお兄様にきゃーきゃー言っている姿が、この距離からでも目に浮かぶようだ。
エックホーフ伯爵は苦笑しているが、娘の行動を止めないのは、あわよくばお兄様の妻の座を狙っているからだろう。この場にいる、年頃の娘を持つ貴族たちの狙いの大半はお兄様の妻の座なので伯爵に限ってのことではないけれど。
……国内からだと、誰か一人を選ぶと角が立ちそうねえ。
お兄様は一体どうするつもりなのかしら。モテ人生を謳歌したいと言っても、五年先、十年先も独身を貫くのは立場的には無理よ?
わたしがあきれ顔で離れた場所にいるお兄様とそれを取り囲む集団を眺めていると、エックホーフ伯爵が小声で「少しよろしいですか」と訊ねてきた。何か込み入った話があるようだ。
ライナルト殿下も頷いたので、わたしたちはエックホーフ伯爵と共に広間の隅に移動した。
周りに人が少ない、内緒話に適した場所に到着すると、エックホーフ伯爵が声を落としたまま言う。
「私がこのようなことをお訊ねするのは失礼かと存じますが、ヴィルヘルミーネ様、ロヴァルタ国に発生している瘴気溜まりの浄化は、いつ頃行われる予定でしょうか?」
どうやらご親戚の大臣から確認してほしいと言われたみたいね。
ロヴァルタ国の北東に発生したという小さな瘴気溜まりは、まだそのまま手付かずの状態となっている。
わたしに浄化してほしいという要望が出て、おじい様もわたしも了承はしたのだけど、まだ動いていないのには理由があった。
わたしは肩をすくめる。
「わたしも気になってはいるんですが、ロヴァルタ国での聖女認定式の日取りが決まっていないので」
聖女は本来、聖女認定式を受けた国でなければ活動できない。
国際法なんてまともに存在しないこの世界では、どこかの国で聖女と認められても、その認定がほかの国で認められるわけではないのだ。
まあ、前世でも、日本で運転免許証を取っても海外でも取らなければ車の運転はできなかったし、それと似たようなものと考えればいいだろうか。
わたしが聖女と認定されているのは、現段階でシュティリエ国とフェルゼンシュタイン国のみ。ロヴァルタ国には聖女の「免許」をもらっていないから、活動できないのである。
ロヴァルタ国王も、さっさと聖女認定式をすませてわたしに瘴気溜まりを浄化してほしいのだろうけど、マリウス殿下が馬鹿をやった後始末に奔走されていてすぐのことにならなかった。
その間にわたしがさくっとライナルト殿下とシュティリエ国へ行っちゃったから、余計にスケジュールの調整がつかなかったと言うのもあるだろうけど。
エックホーフ伯爵はわたしの回答を聞いて、ホッとしたような表情を浮かべた。どうやらわたしの方が渋っていて浄化に向かってもらえないと思っていたようだ。
「そういうことでしたか。それであれば、我が義兄にもそう伝えて構いませんか?」
「もちろんです。あ、ただ、春に結婚式があるので、その時期は避けてもらえると嬉しいですが」
「大丈夫です。おそらくすぐにご連絡が行くと思われます」
なるほど、つまりすぐに聖女認定式の日取りが組まれて、瘴気溜まりの浄化にレッツゴーになりそうってことね。
ライナルト殿下も仕方なさそうな顔をしているし、これはすぐにお父様たちにも報告しておかなくちゃ。
瘴気溜まりはロヴァルタ国の北東にあって、ここからだと馬車で移動に三、四週間かかる。往復で約二か月弱。早く行っておかないと、結婚式に支障が出る。
……あ~、ほんと、車ほしい! お兄様、魔術具の車開発してよ~!
車じゃなくても、汽車でも電車でもいいから、もっと交通の利便性をアップしてほしい。馬車で往復二か月の旅とか憂鬱でしかない。分厚いクッションを用意しておかないと、ぜったいお尻が痛くなる!
……あ、あと、瘴気溜まり浄化するなら報酬の契約書もいるのか。ここはお父様とおじい様に任せておけばいいかな~。
わたしへの取り分と、それからシュティリエ国の取り分も決めなきゃね。
何故ならわたしはシュティリエ国の聖女だから、所属の国にも聖女を貸し出したという貸出料金が発生するのだ。
なんかそれずるくない、と思われるかもしれないけど、聖女は国の資産であると認識されるのである。
もし貸し出しても国にメリットがなければ、どの国も聖女の貸し出しを渋りはじめるだろうからね。そうなると、聖女を抱えていない国がとっても困ることになるのだ。
……フェルゼンシュタイン国への貸し出しは家族枠でタダだけど、ロヴァルタ国にそんな配慮は必要ないもんね~。
ロヴァルタ国にも我が家の親戚とかがたくさんいるけど(ちなみに、王も王太子も親族だけど)、そんなことを言っていたらキリがない。
もし、仲良くしている親戚の誰かが瘴気の影響を受けたときは応相談ってことで、それ以外はきっちりロヴァルタ国にお金を払っていただきましょう!
エックホーフ伯爵との内緒話が終わると、わたしたちはすぐにお父様とおじい様たちの元へ報告へ向かう。
そして、ロヴァルタ国での聖女認定式の予定が近々組まれる可能性があることを伝えていたときだった。
「ちょっと、いい加減にしてよ‼」
お兄様を取り囲んでいる女性たちの間で、問題が発生したようである。
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