モテすぎるのも困りもの 3
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煩悩退散という呪文を脳内で散々繰り返しながら、わたしは必死におすまし顔を作って、ライナルト殿下と大広間に向かっていた。
さすがに、ライナルト殿下にデレデレの顔で登場したら、「聖女」という肩書があるのだからまずいだろうと言う判断である。
まあ、お父様が王になったからわたしは王女なわけで、聖女でなくとも王女が煩悩丸出しのにやけ顔で登場したらそれはそれでまずいのだけど。
……ライナルト殿下、今日はコロンを変えたのかしら~。マリン系のいい香り~。
もともとあまりコロンをつける人じゃないけれど、パーティーとかではマナーとして軽く香りを纏っている。たぶんだけど、このコロンはうちの国で作られたものだろう。こういうところを気遣ってくれる殿下、素敵!
「ヴィルはいつも花の香りがするね」
さりげなく……たぶん、さりげなく(できていたはず)、わたしがライナルト殿下をくんかくんかしていたら、殿下がわたしの髪に顔を寄せてささやいた。
ぶわわっと体温が二度くらい上昇する。
「す、スズランの香りのシャボンを使っているので……」
わたしはいかにも、な外見なので、薔薇の香りとかよりはもっと清楚っぽい香りを身にまとった方がいいだろうと、ギーゼラが用意したシャボンである。なかなかいい香りで、最近のお気に入りだ。
「この香り、ヴィルによく似合っているよ」
「本当ですか⁉」
それはつまり、少しくらいは楚々とした雰囲気を醸し出せていると、都合よく解釈していいでしょうか⁉
ぽわ~んと、ライナルト殿下を見つめる。
わたしの脳内に、スズランの可憐な白い花が、ばっさばっさと降って来た。
……どうしよう。はじまる前も思ったけど、パーティーほっぽりだして、ライナルト殿下と二人っきりになりたいんですけど。
さすがにそれはまずかろうと、わたしはふやけそうな脳内を、きゅっと引き締める。
パーティーもお仕事お仕事。
香りの話題はわたしの脳内がお花畑になって大変だから、さくっと話題を変えよう。
「朝作った餅も出るんでしょう?」
「はい。お母様がお雑煮……えーっと、スープの中に入れたものを作ると言っていたのでそれが出ると思います!」
お正月と言えばお雑煮ですからね~。ま、わたしたち一家以外には伝わらないでしょうけど。
「スープにも入れられるんだ。そのままでも美味しかったし、あれはいいね。シュティリエ国に帰っても食べたいな」
……至急、杵と臼ともち米を手配しましょう‼
ライナルト殿下にカッコ可愛い顔で「食べたいな」なんて言われて無視できようか? できるはずがない!
というかお兄様、餅つき機開発してよ! お父様とお母様は杵と臼にこだわってるけど、わたしは便利な方がいい!
「みたらし団子とか大福とかも最高ですよ殿下! 小豆は今のところ見たことはないけど、白いんげんはあるから白あん作って殿下のためにイチゴ大福を完成させますからね!」
お団子はもち米じゃなくてうるち米だけどね。お餅にみたらしをかけて食べるのも美味しいけど、時間が経ったときにうるち米で作っていたほうが食感がいいのよね。
イチゴ大福の皮はお餅でも作れるが、冷めても固くならないようにこちらはお餅の中に少量の砂糖を入れた方がいい。これで固くなるのが防げるのだ。もちろんもち米を一回粉にして牛皮にしてもいい。
「いちごだいふく?」
「甘いデザートです!」
「それはいいね」
にこっとライナルト殿下が微笑む。
ああ、可愛い。カッコイイ。もう、きゅんきゅんしすぎて心臓がどうにかなっちゃいそう。
うさ耳つきの殿下も可愛かったけど、なくても可愛い。本当に奇跡みたいな王子様だ。素敵すぎるっ!
ライナルト殿下と出会ってから今日まで、日に日に殿下が好きになる。この感情はいったいどこまで膨れ上がっていくのだろう。終わりが見えない!
……おっと、煩悩退散、煩悩退散っと。
ライナルト殿下が素敵すぎて、油断しているとすぐに脳内が花畑になるわ。
頬が緩みそうになったわたしはきゅっと表情筋を引き締めた。
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