プロローグ 2
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「はじめて食べたけど、これは美味しいな」
わたしのカッコカワイイ婚約者様も、餅に砂糖をまぶしてにこにこしながら食べていた。イケメンが食べなれない餅を四苦八苦しながら食べている姿に……萌えるっ。
……お父様たちの行動は謎すぎるけど、ライナルト殿下が嬉しそうだから、ま、いっか。笑顔の殿下、素敵~!
「おい、仮にも聖女なんて称号がくっついてるんだから、そんな煩悩丸出しのしまりのない顔をするな」
お兄様があきれ顔で言うけど、それをいうなら、仮にも王太子になったんだから、お兄様もそのナルシストな性格をどうにかしたらどうなのかしら。
わたしとライナルト殿下は玄関前に椅子を並べて、そこで餅をもらって食べていたんだけど、お兄様は冬だというのに椅子の上にパラソルを張って、日差しを完全にガードしていた。真冬にパラソルで日焼け対策って、わたし的にはナンセンスよ。
シュティリエ国に逃亡していたとき、しばらく魔術具開発に熱を上げて美容を忘れていたお兄様だったけど、一周回って元のお兄様に戻ってしまったようだ。つまり、ナルシストな残念イケメンに、である。
……未来の国王がナルシストとか、マジ嫌だわ~。今はまだしも、年を取ってきたらひどいものだと思うわよ。おじさんのナルシスト……。きっと将来、「ご実家の国王陛下(お兄様)って……くすくすくす」とか笑われるんだわ。悲しい。
顔だけ見れば、お兄様はびっくりするくらい端正な顔立ちの超絶イケメンだ。
金色の髪に紫色の瞳。
高身長で、体つきもすらりとしている。
全体的に甘めな顔立ちで、にこりと微笑めば、女の子がきゃーきゃー騒ぐ、誰が見ても「イケメン」と判断される正統派王子様な外見である。百人に〇と×の札を持たせて、お兄様の外見をありなしで判断してもらったら、百人が百人〇の札を上げるであろう顔立ちである。
わたしの婚約者のライナルト殿下も、銀色の髪にエメラルド色の瞳の超イケメンさんだけど、雰囲気で言えばお兄様の方が顔立ちは甘い。
だけど、お兄様は外見を打ち消してなおあり余るほど、(妹的には)中身が残念過ぎるので、わたしはお兄様をイケメンだとは思えない。
顔も中身もパーフェクトなライナルト殿下こそ、正統派イケメンだと、強く主張したいところだ。
ちなみに……。
顔だけイケメンのお兄様と、正統派イケメンのライナルト殿下に挟まれたわたしが、この中では一番残念な外見をしているのは泣きたいところ。
この世界の元となった乙女ゲームの悪役令嬢ポジションだったわたし、ヴィルヘルミーネ・フォン・フェルゼンシュタインは、見た目だけで言えば、超がつくほどの美人である。
だけど、キツい。
形状記憶合金も真っ青なくらいのきっつい縦ロールの金髪に、目じりが吊り上がったラピスラズリの瞳。
睫毛は長くて濃いし、目鼻立ちはくっきりはっきりと整っているし、プロポーションも見事なせいで(これに関しては本音を言えは嬉しいけど)、全体的に性格がきつそうな女――それがわたしである。
黒いスリップドレスを着せて赤いピンヒールを履かせ、孔雀の羽とかあしらったド派手でばっさばさな扇をはためかせながら「おーほほほほほ!」という高笑いするのが、いかにも似合いそうな外見なのだ。オプションとして足元に美形男子が跪いていたら完璧。悪役令嬢を通り越してもはや悪女である。
……悲しい。前世で平凡な顔立ちだったくせに贅沢なと思われるかもしれないけど、もっと優しそうな外見がよかった。
有能な侍女ギーゼラが、何かにつけてわたしの顔立ちのキツさを押さえるメイクをしてくれるけれど、せいぜいよくて二、三割減くらい。ギーゼラの腕をもってしても、完全にキツさを押さえられない外見をしているのである。
「美味しいけど、あんことかきな粉ほしいな~」
「大豆はあるから石臼で挽いて来い」
「嫌よ。というかきな粉はともかく……なんで杵と臼でお餅つきなんてしてるの? 何のための魔術よ。というか、お兄様も全自動餅つき機の魔術具作ればよかったんじゃないの?」
「父さんと母さん曰く、餅つきは杵と臼、なんだそうだ」
そのこだわりは、一体何なのだろう。
……前世では餅つき機使ってたよね?
一年に一回しか使わないくせに、前世のお母さんがお父さんにおねだりして買わせていたのをわたしはしっかり覚えている。
さっきもチラッと言ったけど、わたしたちフェルゼンシュタイン公爵家改め王家は、家族四人が四人とも、異世界転生者だ。
しかも、前世でも家族だったという徹底ぶり。
前世で一般ピープルな佐藤家だったわたしたちは、前世の記憶があるせいか、元公爵家で現王家だというのに、実に庶民的である。
「この餅というのはうまいが、あいつらは王と王妃になった自覚はあるのか? というか、いったいどれだけ餅を作るつもりなんだ?」
と、あきれ顔をしたおじい様がおばあ様を伴って玄関から現れた。
おじい様は前ロヴァルタ国王の弟だ。フェルゼンシュタイン公爵家が王家になった後も息子(お父様)の補佐をして忙しそうにしている。というか、おじい様がいなかったら建国したばかりの我が家は右も左もわからず大慌てだからね!
まあ、ロヴァルタ国王から我が家の独立をもぎ取ったのはおじい様だから、お父様は責任を取ってしっかり補佐しろって言いたいんでしょうけど。
「あ、おじい様、お口に会いましたか?」
さすがに庭で食事はしにくいと、おじい様とおばあ様の二人はダイニングでお餅を試食していたのだ。前世庶民一家であるわたしたちと違って、おじい様とおばあ様は生粋の貴族。もっと言えばおじい様は元王子様だからね。
「うむ、美味かったぞ。この国の特産にしてもいいと思えるくらいには珍しくて美味かったが……、カール、お前の父親と母親は何とかならんのか」
「それを言うならおじい様の息子と義娘ですよ~。ちなみに、餅つきはしばらく止まらないと思いますよ。ほら、あそこにあるお米、全部使うらしいです」
お父様とお母様が元気よくお餅つきをしている場所から少し離れたところでは、使用人たちがせっせともち米を蒸していた。
……巻き込まれちゃって、可哀想に。
なんでも、お餅をたくさん作って、ご近所さんに配って回るつもりらしい。
国王夫妻なのに、ご近所さんづきあいとか意味がわからない。まあ、仲良しに越したことはないだろうけどさ。
朝からお餅つきをするから、我が国にいる貴族たちの新年の挨拶は今日の夕方から受け付けていた。
挨拶ついでにうちの広間で新年パーティーを開くのだけど、そのときにも餅をふるまう気でいるようだ。
おじい様が「やれやれ」と眉間をもんでいる。
おばあ様がくすくす笑いながら、「まあ、こんなにのんびりできるのも今のうちですよ」と言っているけれど、その通りだろう。
まだ公爵家気分が抜けきらない我が家だけど、国がしっかりと稼働しはじめたら、忙しくて元旦そうそう餅つきなんてできるはずがないのだ。そう思うと、今のうちに楽しんでおけばいいんじゃないかな~という気にもなる。
……外交とかもあるからね。
現役時代のおじい様はバリバリの外務大臣だったから、いまだにそのツテがあちこちの国にある。
フェルゼンシュタイン国は、一貴族領地としては大きいけど国としては小国だし、国防という意味でも他国との付き合いはしっかりしておきたいところだ。ゆえに、そのうち、ご挨拶に行ったり、ご挨拶に来られたりと、他国とのお付き合いがはじまるのである。
せいぜいのんびりできて数年……もしかしたらもっと短いかもしれないのだから、やりたいようにやらせておけばいいんじゃないかな~。というのがおばあ様の感想のようだ。おじい様の目が黒いうちは、おじい様がうまくかじ取りするでしょうからね。
……ま、バックに、前ロヴァルタ国王弟殿下(おじい様)とシュティリエ国王陛下(伯父様)がいるんだから、うちの国は安泰でしょうよ。よほど馬鹿をしない限り!
「あ~疲れたわ~。ヴィル、代わってちょうだい~」
「カールも代わってくれ~」
餅つきに疲れてきたお父様とお母様がわたしたち兄妹を呼んだ。
わたしたちは何も、呑気に餅を食べるために庭にスタンバイしていたわけじゃない。お父様とお母様の交代要員として、半ば強制的に連れてこられたのだ。
あの青い法被は全力でお断りしたけれど、汚れてもいい格好でスタンバっていたわけですよ。
「ヴィル、俺が行こうか?」
「ふふ、大丈夫ですよ」
ライナルト殿下が気遣ってくれるけど、餅つき初心者のライナルト殿下には荷が重いと思う。たぶん、腰をやる。
前世のおじいちゃんとおばあちゃんが他界するまでは田舎でお餅つきもしていたから、わたしは一応、杵と臼でのお餅つきの仕方を知っているのだ。
お兄様は日差しを警戒してしっかりと帽子をかぶって、お父様から杵を受け取った。
っていうか、真冬の紫外線がなんぼのもんだって言うのかしらねえ。どこまで美白に命かけてるんだか。ナルシストめ。
わたしも、くるんくるんの金髪をギーゼラに一つにまとめてもらって、ぐるんぐるんと肩を回す。
……さあて、やりますかぁ~!
公爵家から王家になっても、相変わらずなわたしたち一家の新年は、こうしてスタートした。
「それじゃあ行くよ~、よいしょ~!」
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先週から新連載も開始しております。よかったらゴールデンウィークのお供にでもしてくださいませ(#^^#)
「やり直し魔女は、三度目の人生を大嫌いだった男と生きる」
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次は明日更新予定です!








