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【おまけ】チャリタナ・サラタラルゥ ー留学生ー

留学生チャリタナのお話です。

あまり楽しい話ではないので、彼女を嫌いになりたくない人は読まないほうがいいと思います。

本編では慣れない公用語で話していたため少し硬い口調ですが、こちらでは自分の言葉で話しているため普段通りのくだけた口調です。

 彼の大国ドナウ国への留学の話を聞いたときは、チャンスだと思った。

 絶対に留学生に選ばれて、婚約者のためにチャンスを掴んでくる、と強く決意する。


 わたしは大きな商家の長女として産まれた。一つ上に兄がいて、商売は兄が継ぐことが決まっていたため、わたしは幼い頃に国の外交の主力となる家の長男ユウゴ様との婚約が結ばれた。いずれは海外へも支店を持ちたい、という商魂逞しい両親の意向だ。


 ユウゴ様は三歳年上で、背が高くてかっこよくて、わたしはすぐに大好きになった。リユウト国では恋愛結婚が主流で、婚約なんて堅苦しいことをしているのは上流階級の一部だったけれど、外交官のお家柄のユウゴ様は他国のパーティーなどにも出席されるということで、早めに婚約者をお求めになったそう。とはいえ、わたしが成人するまではパーティーへの同伴もお預け、ということが少し残念。


 国立学校への入学と同時にユウゴ様は寄宿舎に入ってしまった。これまでのように毎日お会いすることができずとても寂しくなり、最低でも毎日一通はユウゴ様へ手紙を送る。そうすると、月に一回程度は返事をくださるようになり、長期休暇で自宅に戻られた時には食事に誘ってくださったし、誕生日にはわたしの好きな花を毎年贈ってくださった。


 ユウゴ様が卒業されると、すれ違いでわたしが国立学校に入学した。自宅から通える範囲の者は寄宿舎に入る必要はなく、ユウゴ様は自立心を育てるために家を出られたのかしら、と不思議に思うが、卒業したユウゴ様はお忙しくなかなかお会いしてお話をすることができない。


 将来は外交官の妻となるために、特に外国語は力を入れて勉強し、成績は常に上位を保っていた。

 外国語は読み書きはそんなに得意ではなかったけれど、商売をする家だったため、会話は問題なくできたし、苦手な教科は試験の前になると家庭教師が用意してくれる模擬テストがほとんどそのまま本番で出題されるので、授業中はぼんやりと流行りの洋服や外国のお菓子のことを考えていても問題なかった。


 海をまたいだ遠い外国のドナウ国という国との貿易が増え、ユウゴ様はますますお忙しくなる。国には華やかな輸入品も増え、輸出するための農業、商業も盛んになり、国が瞬く間に潤っていくのが、学生のわたしでも感じられた。


 商売を営んでいる実家ではもっと強く感じていたようで、ドナウ国について、家の中でよく話題に上るようになった。

 民主主義の自国とは異なる王侯貴族の華やかな話に心が浮足立つ。特に金髪碧眼の王子様なんて、幼い頃に読んだ物語でしか知らない。自然豊かで土地からの恵みをたっぷり受けているリユウト国とは違う近代的なその国に、どんどん興味が涌く。


 そんな時、国立学校の各学年から二人ずつ、計六人の学生が留学できることになった。

 もちろん、わたしは先生方に推薦していただき選ばれた。成績は一番とは言わないけれど優秀だし、実家から学校に多額の寄付金を出しているし、先生方には折を見て感謝の贈り物をしているしね。


 外交をされるお家のユウゴ様のために、彼の国の情報を少しでも持ち帰りたい。あわよくばこちらの国の貿易が有利になるような情報を。そうすればユウゴ様はもっとわたしのことを好きになってくれる。今は忙しくてお会いできないけれど、ドナウ国との関係が落ち着けば、きっともっと会いにきてくださる。

 それにちょっとだけ、絵本の中でしか知らない“王子様”ていうのにも会ってみたいしね。





◇◇◇





 一月ほど波に揺られてたどり着いたドナウ国は素敵!!の一言につきる。

 賑わう街に華やかな装飾、行き交う人々の賑やかなこと!!


 船から降りて揺れない地面にふらつきながら、大国からの歓迎を受ける。丁重な扱いにお姫様になった気分。きょろきょろと見回すと、一人の男性と目が合い、ニコリと微笑まれた。

 金色の輝く髪に碧い瞳。そこにいる誰よりも美しく優雅な身のこなし、豪奢な装い。絵本から出て来た白馬の王子様みたい!!と感動していたら、なんと本当にこの国の第一王子様だった。


 自己紹介をしてくれた時に、自国では聞きなれない発音だったため聞き返すと「アル」と愛称で呼んでほしいと求められた。

 お互いに婚約者がいるのに、積極的な方でちょっと驚いた。聞くところによると、この国の王様は正妃の他に側妃や妾をおくこともあるらしい。

 わたしの国では配偶者以外の人との恋愛は不倫と後ろ指をさされるけれど、この国では許されるらしい。君主制の国のため、貴い血が大事にされるのね。


 リユウト国にいた時は婚約者のユウゴ様一筋だったけれど、留学している間だけだったら、わたしも自由に恋愛してみてもいいかしら。それに、王子様と良い仲になれば、外交に有利な情報を引き出せるかもしれないし。

 ユウゴ様はきっとわたしと会えなくて寂しがっていらっしゃるのに、ちょっとヒドイ女かな。


 わたしが留学生に選ばれたと知った時、ユウゴ様ったらとても驚いて「嘘だろ……」と言ったきり、しばらく動かなかったもの。手紙が誤字だらけとか、ろくに挨拶も出来ないのに、とか訳が分からないことを呟いていたのは愛する婚約者を置いて留学するなんて信じられなかったからでしょうけど、愛しているからこそ、必ず彼に有益な情報をもって帰るから待っていてね。


 お別れのときには「無理に頑張らなくていい、できるだけ発言せずニコニコしているだけでいいから。一年といわず、途中で帰ってきたってもちろんいいから」と真剣なお顔で優しい言葉をかけてくれたユウゴ様。

 帰国したら一日でも早くユウゴ様と結婚して、朝から晩まで愛し合いたいわ。なんて!きゃっわたしったら!!


 学園が始まるとアルは一日中わたしの傍を離れなかった。

 婚約者のバイオレット様っていう気の強そうな公爵令嬢が同じクラスにいるのにわたしにばっかりくっついて、彼女がかわいそうになってしまう。


 うちの商会から何人かがこの国に商売の勉強をしに来ていて、定期的に彼らに会って食事をしながらお互いの情報交換をする。その時に王子様の話をしたら、気が付くと学園どころか街でも王子がわたしに夢中って噂されるようになっていた。まさか、うちの店の者がそんなにお喋りなわけはないと思うから、誰から見てもアルがわたしを愛しているように見えてしまったんでしょうね。


 アルったら、ダンスはわたしとばかり踊るし、何かにつけてわたしに贈り物をくれるし、わたしと一緒にあちこちの国を巡りたい、なんて言うのだもの。

 リユウト国には愛するユウゴ様がいるけど、この国にいる間だけは、王子様の恋人っていう役目を演じてあげるわ。


 留学して半年ほどたった頃、アルの婚約者のバイオレット様が学園に来なくなった。もともとわたしはあまり交流が無かったから気にならなかったけれど、いつも彼女と一緒にいたジワラットというイケメン騎士風な男が一人でいることが多くなり気が付いた。

 一人は寂しいだろうと声を掛けてあげたのに無視された。というか、毛虫を見るような目で見られたような気がしたんだけど、わたしをそんな目で見るわけないから気のせいよね。


 その頃からなぜか、アルがあまりわたしと過ごさなくなった。私を見る目に甘さが含まれなくなったような気がする。

 もしかして、わたし以外の女の子に恋をしちゃったのかしら。浮気性な王子さまってイヤね。


 アルってば当り障りのないことしか言わないし、常識的な行動ばかりで一緒にいても楽しくなかったからいいんだけどね。

 貿易に有利になるような情報も、ゆするようなネタも見つからなくてつまらない男だったわ。

 手を握るのもダンスをする時だけだったし、女の扱いを全然わかってないんだから。

 早くリユウト国に帰ってユウゴ様に抱きしめられたいわ。


 あっという間に一年の留学期間が終わり、楽しい旅行のような毎日だった。


 ドナウ国のみんなと涙のお別れをして、愛するユウゴ様の待つリユウト国に帰る。


 貿易に有利になるような情報は引き出せなかったけれど、たくさんのお友達もできたし、きっとこの留学の経験はユウゴ様の助けになるわ。


 港まで迎えに来てくれた家族に抱きしめられて、嬉しくてちょっと涙が出てしまう。

 一年しか離れていないのに、なんだか懐かしいわ。


 ユウゴ様はお忙しかったからか来てくださっていなくて、帰国した翌日、お土産を持って会いに行くことにした。


「お約束のない方は取り次がないように言われておりますので」


 中年のオジサン執事がわたしと目も合わせずに失礼なことを言う。


「なに言ってるの。ユウゴ様の婚約者のチャリタナよ。何度も遊びに来てたんだから、顔みたらわかるでしょ?」


「お約束をされてからいらしてください」


 前から感じが悪いと思っていたけれど、頭の固い男ね。


「いいから入れなさいよ。わたしを追い返したってわかったら、あんたクビにされちゃうんじゃない!?」


 何を言っても、大きな声を出しても、執事はわたしを家に入れてくれなかった。腹が立って、玄関前の花壇を踏み荒らして帰ってやった。


 家に戻り、両親にユウゴ様の家の失礼な執事のことを言いつけてやると、急に青ざめて慌てだした。


「お前、ユウゴ様に会いに行ったのか?」


「なんてことを……!!」


 婚約者の家に行くのは当たり前のことなのに、どうして取り乱しているのかしら。


「一年ぶりに帰国したら婚約者に会いに行くのは当然でしょう。もう、早くお会いしてすぐにでも結婚したいのに、イヤになっちゃうわ」


「お前とユウゴ様の婚約は解消されたと、手紙に書いただろう!?読んでないのか??」


 お父様の言葉に驚く。

 

 は!?婚約が解消された!?そんなの聞いてない!!


 手紙だって、たくさん送ってくるし、小言ばかりでうるさいから最初の頃しか読んでなかった。


「国立学校に入学するのに寄付金を払ったことや、試験問題を横流ししてもらっていたことがバレて、お前は退学になったんだ。留学中だったこともあり、ドナウ国には内密にしていたが、この国ではタブロイド紙にのって、我が家はいくつか取引先も消滅したんだ。全部手紙に書いてただろう。なんで読んでいないんだ!?」


 お父様の怒鳴り声がうるさい。品性のないハゲの怒鳴り声って最悪。


「読んでないから知らないわよ!!でもユウゴ様はわたしを愛していたんだから、婚約解消するわけないでしょう!?」


「お前はユウゴ様に嫌われていたことに気が付いていなかったのか……?」


 お父様とお母様が目を見開いて驚いている。何を言っているのよ。


「あまりにしつこいから入らなくてもよい寄宿舎に入って、返事を出さないと会いにくるからしょうがなく月に一回手紙の返事を返して、悩まなくていいから毎年同じ花を誕生日に贈って、政略結婚だからこちらも口を出さなかったが、完全に嫌がられていただろう」


 二人が憐れんだようにわたしを見る。


「学校で不正をしていたことが世間にしれて、我が家の商売もうまくいかなくなってユウゴ様の家に援助できなくなって、彼の家では我が家と縁を結ぶ利益が無くなったんだ。婚約の解消は当然だ。それにユウゴ様は婚約を解消してすぐに職場の同僚の女性とすでに結婚している。もう迷惑をかけるんじゃない」


 あんなにわたしを心配してくれていたユウゴ様がわたしを好きじゃなくて、すでに他の女と結婚していたなんて、信じられない!!


「じゃあ、わたしのお腹にいる子供はどうしたらいいのよ!?」


「は!?ユウゴ様の子供ではないだろう?ドナウ国で誰かの子供を身ごもったのか!?なんてことだ!!相手は誰だ!?」


「ユウゴ様とは一年もお会いしていないんだから、彼の子供なわけないじゃない!!誰の子かなんて、わからないわよ!!」


 誰の子か、なんてこっちが聞きたいくらいよ。ドナウ国の男の人ったら、二人きりになるとすぐにそういうことをする人ばかりだったから、誰が相手かなんて判断がつかない。

 ああ、でも中には金髪に青い目の男もいたから、うまくいけばアルの子供だって言えるかも。

 そうしたら貴族じゃないから正妃にはなれないけれど、アルの側妃にしてもらえるかもしれないわね。

 わたしは楽しい未来を思い描いてにやりと笑う。


 そんなわたしを両親が薄気味悪いものでも見るように見ていた。 

 わたしにはまだまだ素敵なこれからが待っているのに、変な人たちね。子供が生まれるのが待ち遠しいわ。

 アルにも早く教えてあげなくちゃ。







時々、どんなに言葉をつくしてもなにも伝わらない人がこの世にはいると思うのです。

チャリタナはそういうタイプの人かな、と思います。

ドナウ国には娼館もあるし、不倫や浮気もありますが、それが当たり前というお国柄ではありません。チャリタナの態度にリユウト国の女性は性に奔放なのだと勘違いした男性が入れ食い状態となってしまったのでした。

もちろん、アルフォンス殿下と体の関係はありません。


こんなお話ですが、読んでくださりありがとうございます。

評価、ブックマークもとても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] チャリタナ、まさかのあたまおかしい人だったw
[一言] 最後、チャリタナ回がホラーでしたw なんでこんな子を国を代表する留学生にしたんだ〜
[一言] チャリタナグロすぎるw 家族もアホだってわかってるのにお目付け役もつけなかったのは自業自得ですね。 テンプレ設定で大して意味はないと思いますが、たかが豪商の平民に異性の王族がホスト役とし…
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