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3話 お嬢様女子高生

 私もこの変態に訊きたいことがあったので、とりあえず部屋の中へ入れることにした。


「……ぅへぇ。お、お、おじゃましまーす」


 気味悪い笑みとは裏腹に綺麗な所作で靴を脱ぐ露草。


「ぅ、うおおお……」


 そして部屋にあがるや否やそんな感嘆を漏らす。まあその気持ちはなんとなくわかる。何を隠そう私の部屋は四方八方が趣味の物であふれかえっているからだ。


「……ボードゲームに、テレビゲームにカードゲームにラノベに漫画にアニメグッズ。カメラに料理本に……あっ映画も観るんだ! アイリスたんって多趣味なんだね~」

「……ん。好きなものは多ければ多いほど、人生を潤してくれるから」

「たしかに、その通りだよ。いいなあ、アイリスたん」


 ……意外だ、なんて言われると思っていたのにいいなーとはどういうことだろうか。


「いいな、ってどういうこと?」

「わたしの家はね? ちょっと特殊っていうかなんというか……。ゲームやアニメみたいなサブカルチャー的なものは、親から禁止されちゃってるんだ。ほんとはわたしだって興味あるのに。あっでもね! 幼馴染のメイドちゃんが映画をよくこっそり持ってきてくれて。だから映画はよく観るよ~! そこにあるレディプレイヤー1なんか特に――」


「――それはまだ観てない。ネタバレしたら殺す」

「……ひぃ!」


 声では怯えつつもなにやらニヤニヤしている変態。なぜ罵倒されてうれしそうなのだろうか。しかし家が特殊ねえ……。基本は変態的な行動が目立つがこいつは端々に育ちの良さを感じる。メイド、なんてことも言っているしこの少女、いいとこの生まれなのかもしれない。言動はあれだが見た目だけで言えばいかにもな清楚系お嬢様なのだし。


 なんて益体もないことを考えていると、露草はおもむろに部屋の外に出ていった。


「……?」

「……ああああぁ!」


 と思いきや突如としてそんな悲鳴をあげた。……いや奇声か? 私は呆れながらも露草がいる洗面台に向かう。


「……何どうしたの」

「な、な、な、なんで歯ブラシが二個もあるのっ!? この青い歯ブラシはたしかにアイリスたんのだけど、もう一つはなんであるの!?」


 ……はあ?


「なんでって、片方は来客用だけど」

「ちがうくてっ! なんでアイリスたんに歯ブラシまで使うような来客がいるの!? 彼氏っ!? もしかして彼氏がいるの!?」

「……いない」

「はっ、いやまて……」


 顎に手を当てなにやら探偵風に考えていた露草は顔を上げ、私に視線を向ける。まん丸い大きな瞳が私をとらえた。


「彼女……?」


 なぜそうなる。私には彼氏もましてや彼女もいない。恋すらしたことがないし興味もない。まったく、この年頃の女子はすぐに恋愛に結びつけようとする――


「……ん? 露草、なんで私の歯ブラシが青だと分かった」

「へ? いやわかるよそのくらい」


 さも当然と言わんばかりに真顔で返事をする。


「……」


 ……こいつを家に上げても大丈夫だったのだろうか。少し怖くなってきた。


「あれ……? アイリス姉さん……? いるんですかー?」


 私が目の前の変態に戦慄した瞬間、部屋の奥からそんな声が聞こえた。声のこもり方からして寝室だろうか。そしてとてとてと軽い足音とともに、ハーフツインテールの黒髪女子小学生、谷日葵たにひまりちゃんが姿を現した。


「ごめんなさいアイリス姉さん、勝手に上がってしまって」

「ん。日葵ちゃんなら構わない」

「……ありがとうございます」


 そう言った日葵ちゃんは次に視線を露草へと移す。


「そちらの方は?」

「これは露草。で、こちらお隣に住んでる日葵ちゃん」

「露草、さん。どうも初めまして。……これ?」


 日葵ちゃんはなぜか首をかしげながらも、可愛らしくスカートに手を添えぺこりとお辞儀をする。


 この子、やはり小学六年生とは思えないほどしっかりとしている。可愛いし愛嬌もあるし言葉遣いも丁寧。中学に上がったらモテてしまいそうで怖い。日葵ちゃんに群がるハエは私が駆除してあげなきゃ。

 一方の露草はといえば、口をぱくぱくとしたまま固まっている。


「……なに、今度はどうしたの」


 目の前で手を振って見せるが反応はなし。


「……ええっと?」

「ロリがロリを部屋に連れ込んでいる……だとっ……」


 やがて変態はそんな言葉を漏らした。

 ロリがロリを……だって? 

 その言い方じゃあ私までロリみたいではないか。たしかに顔は童顔だし胸はちっとも育たないし、背もいくらか低いけれど。私はもう十九歳だ。立派な大人である。まあ日葵ちゃんはドンピシャでロリなわけだが。

 そんなことを思いながら私は日葵ちゃんを見やる。なぜか目が合った。


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