猫の名前はシュバルツヴァルト・ヴァン・デッヒ
『ごんぶと〜1999〜2023』
仏壇に黒白ブチ猫の遺影が置いてある。
仏壇の横では老人が布団で寝ている。
この老人は長く1人で、猫しか友達がいなかった。
(……)
ごんぶとと呼ばれた猫は天国へ行く前に老人の夢にお邪魔する事にした。
(……よ。……人間よ……愚かな人間よ)
(誰じゃ!?)
(やぁ)
(ごんぶと!?ごんぶとじゃないか!?)
(愚かな人間よ。生前は世話になった。あと私の本名はシュヴァルツヴァルト・ヴァン・ディッヒだ)
(ばん……でっひ?)
(少し話そうではないか)
老人と猫は夜が明ける寸前まで思い出話に花を咲かせた。
…
…
…
(もうこんな時間か。愚かな人間よ。○○県○○市にある保護猫カフェにいる垂れ目のスコティッシュフォールドが私の妹の子供だ。良かったら引き取ってはくれぬか?)
(……約束するよ。ごんぶと)
(愚かな人間よ。何度も言うが私はごんぶとではなくシュヴァルツヴァルト・ヴァン・ディッヒだ……そろそろ天国へ行くとしよう。手厚い弔い大儀であったぞ)
(ごんぶとー!今までありがとーー!)
(さらばだ。愚かな人間よ……人間よ……げんよ……よ……)
(ごんぶとーーー!!)
……
「はい。次の方ー」
「にゃい」
この世の全ての猫は天国へ行けるが、天国役所で手続きをしなくてはならない。
天使に呼ばれた猫はカウンターに飛び乗って書類を提出した。
「はい。はい。うんうん。なるほどー。よく生きられましたねー。お疲れさまでした。あれ?お名前を書き忘れてますよ?」
「これは失礼」
「こちらで書いておきますよー。シュバルツバルト・ヴァン・ディッヒ様ですよね?」
「あ。ごんぶとでお願いします」
「了解いたしました」
天使はニッコリと笑って書類に
『ごんぶと』
と記入した。