プレアとリズル
カンッ――剣と鋭い爪がぶつかり、周囲に火花が飛び散った。
「こんなもんか、オラッ!」
鋭い爪を持つワーウルフと対峙している黒髪の女性『プレア』は、剣でワーウルフの攻撃を受け止めた。続けざまに攻撃に移り、一撃でワーウルフを沈黙させた。
「プレア! 何遊んでいるのよ。まだまだ数多いんだから早く倒してよね」
プレアに向かって言った金髪の女性の名は『リズル』という。リズルは、魔法使いなので、攻撃をするのに時間を要すため、回避と防御に注力していた。
「わかってるって! それより魔法はまだなのかよ」
「そんな事言ったってこいつら早いし、数も多いから魔法を使う時間もないのよっ」
「もー、しょうがねーなぁ。あたしが守ってやるからとっととしろよ」
「いつも数が多い時はそうなんだからさっさと守ってよね!」
プレアがリズルの近くまで行き、ワーウルフの攻撃を弾いたりして、リズルを守っている。リズルは両手を上げ、目を閉じ集中している様子だ。
「リズルぅ、そう言ったってこいつら途中からわらわら出てきたんだからしょうがねえじゃん」
リズルは目を閉じ集中しているが、プレアの言葉を聞いた時は頬をぴくつかせながら少しイラついている様子だった。
「よし、行くよ!」
リズルの言葉を聞いた瞬間に、プレアは瞬時にリズルの足元へ駆け寄った。
「フレイムレイン」
リズルが唱えると、頭上に大きな火の塊が出来たかと思うと、一瞬にして爆発し、拳ぐらいの火の玉が周囲に雨の様に降り注いでいく。火の玉を見たワーウルフ達が身をひるがえし、逃げようとしていたが、時すでに遅し、周囲にいた20匹を超えるワーウルフ達が焼け倒れた。
「ふー、こんなもんかな。プレア、いつも言ってるけど、もうちょっと周りを見るようにしてよね」
「ごめんって! それよりいつ見てもリズルの魔法はすごいな!」
「もう、褒めたってだめなんだからね! そもそもワーウルフがこんな集団でいるのもめずらしいね」
「そういえばそうだな。多くても8匹くらいだっけ?」
「うん、多くてもそのくらいが普通かな。でも、集団でいる時は、リーダー格がいるはずだから、そいつは結構強いから注意しないといけないんだよね。プレア見た?」
「いや、それっぽいのは見かけてないな」
一番遠くで倒れていたワーウルフがゆっくりと立ち上がる姿が見える。
「ねぇ! あれ! あいつ立ち上がってくるよ!」
「まかせろ!」
プレアがそう言うと、剣をグッと握りしめ颯爽と駆け出した。
「プレア! あいつがリーダーのはずだから注意してね!」
プレアが勢いよく剣を降り下ろすと、リーダーのワーウルフが爪で弾き返した。プレアは一瞬焦りの色を見せたが、続けざまに攻撃をすると、防がれることも無く攻撃が決まった。
「ふぅ、なんとかなったな」
「プレア、大丈夫?」
「ああ、一度防がれたが、リズルの魔法が効いてたみたいで、すぐ倒せたぜ」
「よかった。にしても、あの依頼主のおやじ! こんなにいるなんて聞いてないっての。文句言って追加報酬払ってもらわないと」
「だよな。確か2匹くらいとか言ってたもんな」
少しして二人はその場を後にし、依頼主の元へ向かった。
*
「おい! おやじ! いるか?」
プレアがそう言いながらけたたましく、依頼主がいる家に入った。
「あ! あぁ、お二人さんでしたか! ワーウルフはすべて倒されましたか?」
「おう! 当たり前だ。そんな事より――」
「どうして群れだって事、言わなかったんですか?」
リズルがプレアの発言を遮り、無表情で依頼主を睨みつけながら、低く冷たい声で質問した。そんなリズルを見た依頼主はうろたえた様子だ。
「あはははは……。やっぱり群れ作ってましたか――いえ、その……ですね、あのー、前に見た時は2匹だったはずなので、そうお伝えしたんですよ」
「前? それはいつの事です?」
リズルが表情を変えずそのまま質問した。
「えーっと……あれは数ヵ月以上前の事だったと思います……。詳しい日は忘れました。あははは……」
「はぁ……。忘れるほど前の事なら、せめて現状がどうなってるか分からないと付け足したらどうです? まぁ、群れを討伐した分、報酬は上乗せしてもらいますからね」
「やっぱり払わないとだめですよね……?」
「「あたりまえだ!」」
支払うのに消極的な依頼主に、二人は怒り気味にそう言った。
「なぁ、おっちゃんよ、どうして群れかもしれねえのに教えてくれなかったんだ? 初めっからそう言ってくれればよかったのによ」
「それは……少しでも安く済ませられたら、と思いまして……」
「まったく、それじゃ実力が釣り合わない人が受けてたらどうなっていたか分かってますよね? 普通のワーウルフ討伐なら新人が受ける事も多いんですから、そうだったら殺されてますよ」
「あはは……そうですよね。実は何度かそうだったみたいで、巣穴近くまで行った所で群れなのを確認して依頼放棄された事もあるんですよ」
「って、やっぱり群れなの分かってたんじゃないですか! なおさらたちが悪いじゃないですか!」
「ああ、すみません……。どうしても費用を抑えたくて……」
「おっちゃん、どうしてそんなに抑えたかったんだ?」
「プレア、どんな理由があるにしても同情する必要ないって」
「まあまあ、とりあえず話しだけでも聞いてやろうぜ。なあ、どうしてなんだ?」
「ええっと、それは……浮いた分は酒代に回そうかなと……あはは……」
「「おい!」」
*
「ぷはぁ~、しみるぅー」
プレアがそう言いながらエールを飲みほした。プレア達がいるのは町の人が経営している酒場だ。4人掛けのテーブルが9個とカウンターには10人分の椅子が置いてある。半分ほど席が埋まっていて辺りからは楽しげに飲んでいる様子がうかがえた。
「おねーさーん、エールおかわりおねがーい」
「もうプレアったら飲みすぎよ。これで何杯目よ?」
「いいじゃんかー、臨時収入もあったんだし。それに、これはあのおっちゃんが酒代にするはずだったんだから、代わりに飲んでやろうぜー」
「はぁ……いい? 今日の依頼受けた理由忘れたの?」
「んー? なんだっけー」
「資金がほとんど無くなってきたから、手っ取り早く稼ぐために今日の依頼受けたんでしょう? 忘れたの?」
「あー、そっかそっか、そうだったような気がするなぁ。ま、いいじゃん、多く貰えたんだしー」
「あのねぇ、入ったそばから使ったんじゃ、また振出しに戻る事になるでしょ?」
「まー、いいじゃん、せっかく久しぶりに飲めるんだし。堅いことは無しでー! そういや今日倒したワーウルフっていえば、学校にいた時の事を思い出すなぁ」
「あ、話しそらした! もう今日だけだからね。確かその時から私達つるむようになったんだっけ」
「そうそう、……そうだったけ?」
「そうよ。プレアったら飲みすぎじゃない?」
「そんなことないよー。ヒック、ふー、そもそも初めて会ったのはいつだっけ?」
「それも忘れたの? あれよ、あんたが遅刻して門の所でぶつかった時よ」
*
「あー! 遅刻するー!」
プレアはまた寝坊したせいで、必死に走っている。遅刻をすれば罰として掃除をさせられる事になっているから必死になって冒険者育成学校に向かって走っていた。
冒険者育成学校は、魔物討伐や未開の地を開拓する人を育成するための機関だ。学校を卒業すれば、冒険者の資格が付与され、優先的に様々な依頼を受けられる事になっている。
ここ、プレアが通っている学校は、元廃城で、プレアと同じ村出身の冒険者が村に戻ってきて、学校を設立した。田舎ながら、実際に使われていた城を学校として使用しているため、一部から人気を博していた。
プレアが校門にたどり着くと、大きな荷物を持ったリズルとぶつかって倒れた。
「いってて……おい、ちゃんと前見ろよな、あぶねーだろ」
「いたた……何よその言い方、私が大きな物もってるの見えなかったの? 前が見えにくいんだから、よく見えるそっちが避けなさいよ」
「はぁ? こちとら急いでんだからしょうがねぇだろ。……てか、クサッ、なんだこれ」
プレアは頭に乗っかっていた物を手に取った。
「これ、魚の骨か? てか、周りにあるのこれってごみかよ。おいおい、なんてもんあたしに被せてきてんだよ」
「あんたが勝手にぶつかってきたからでしょうが。捨てに行く所だったのに、あんたのせいで散らばったんだから集めるの手伝いなさいよね」
「なんであたしがやらなきゃならねーんだよ。てか、遅刻だ! じゃあな、今度からはちゃんと前見て歩けよ」
そう言うと、プレアは立ち上がり駆け出した。
「それ私のセリフ! ってちょっと待ちなさいよ! 手伝いなさいよー!」
リズルの叫び声も無視してプレアはその場を走り去った。リズルは、はぁ、と溜息を吐きごみを集めだした。
少しして、プレアは教室にたどり着いた。教室には3人掛けのテーブルが9個あり8割ほど埋まっていた。
「お、おはようございまーす」
「はぁ、プレア、やっときたか。今日もやっぱり遅刻したな」
体格のいい男性が呆れ気味にそう言った。
「いや、先生! ちがうんっすよ。今日は来る前に人とぶつかって時間とられたんっすよ」
「で、ぶつかってなかったら、遅刻しなかったと言うわけか?」
「まぁ……そうなりますね、うん。あー、あの人とぶつかりさえしなければ今日は遅刻してなかったかな、って思います」
プレアは虚空を見つめながらそう言った。周りからはまたか、といった声や、笑い声が漏れ聞こえていた。
「そうかそうか、今日の言い訳は普通だな。まぁ、今日も罰として掃除は任せたぞ」
「ちょっと待ってくださいよ。今日ぶつかったのはほんと――今日も言ってる事は本当の事なんっすよ!」
「はぁ、あのな、今は学校だからいいが、プレアは冒険者志願だろ? 依頼の中には時間が指定してあるやつもあるんだから、それで遅刻したらどうする? 今のような言い訳は通じないんだぞ? 信用を失ったり貰える金が減ったり、……大変なんだからな」
「はい……善処します」
プレアは反省した様子を見せていた。
「ああ、そうだ。今日から新しい生徒が来ることになってるんだが……まだ来てないか」
体格のいい先生は、そう言いながら廊下に出て、先の方を見ていると、遠くの方から走ってくる人影が見えた。
「おーい、こっちだ」
息を切らせながら、リズルがやってきた。
「すみません、遅くなりました」
「初日だしな、大丈夫だ。それじゃ早速だが、みんなに自己紹介頼むぞ」
「はい、私はリズル・レンウェアと申します。みなさんこれからよろしく――」
「あー! 先生、こいつですよぶつかったの、さっきのごみ女」
プレアが立ち上がってそう叫んだ
「あ、さっきのぶつかってきたやつ! ごみ女って何よ!」
「ごみぶっかけてきたんだからごみ女だろ!」
「はいはい、二人ともそこまでにしろー」
二人がいがみ合っていると、体格のいい先生が二人を制止した。
「それじゃリズルは空いてる席に座ってくれ」
歩き出したリズルはプレアの横を通り過ぎ、奥の席に座った。通る時、二人とも顔を反対に向け不機嫌な様子だった。
*
「あー、そっか、ごみ女とか言ってたなー」
エールをあおりながらプレアがそう言った。
「ほんとひっどい事言うよね」
「あれはしょーがねーだろー。だってごみの印象強かったんだし」
「それにしたって名前言った後にごみ女とか言うのひどくない?」
「もーごめんって。ええっと、あたしたちがつるむようになったきっかけって、どんなだっけ?」
「また話を……ま、いいけど。あれよ、魔物討伐の実地訓練で近所の山に出かけた時よ」
「そういやそんなのあったなー。で、どんな内容だっけ?」
「やっぱり覚えてないのね……。近所の山で、アルミラージの討伐をやったの覚えてないの?」
「アルミ……なんだって? そんなやついたか?」
「アルミラージよ。うさぎっぽい見た目をして角が生えてるやつよ」
「あー、あいつか。うさぎっぽいから油断するんだよな」
「あいつら弱いけど、角は強力だから油断しちゃだめだかんね」
「そんなヘマしねーから大丈夫だって。それでその時だっけ、ワーウルフと戦ったのって」
「そうそう。三人で一組になって分かれたときね。プレアとは別の組だったね」
「そうだったなー、あたしの組が集合場所に戻った時に、レスキューフレアが見えて、先生が最初見えた方に行った後に、反対からもう一つ見えたのが、リズルたちがいる方だっけ」
*
山々に囲まれた平地の場所にプレア達生徒と先生がいる。ここには魔物討伐の実地訓練の為に、近場の山に来ている。ここは魔物も少ない場所なので、訓練にはうってつけの場所だ。
「コホン、では、各組に分かれてもらったが、これからレスキューフレアを渡していくぞ。これはな、筒状になった魔道具で、上に向けてこの紐を引っ張って使うんだ。この紐を引っ張ると、火の玉が上がって、しばらく漂って助けを求めている人の場所を教えてくれるんだ」
体格のいい先生がレスキューフレアを渡しながら話している。
「これを使うと、教えてくれるだけじゃなく、魔物が嫌う匂いも発してくれて少しの間は安全だから、先生が行くまでその場で待っている様に。分かったか?」
はーい、と生徒たちが返事をした。
「ここら辺にいる魔物は、アルミラージだ。倒したらここに戻ってくるように。弱いやつだが、角は強力だから侮るなよ。それと、何かあれば迷わずレスキューフレアを使うように! それじゃお前達、気を付けて行ってこい!」
生徒たちは意気揚々と山へ入って行った。
――しばらくして、プレアの組や他の組も集合場所に戻ってきた。すると、東の山からレスキューフレアが上がってるのが見えた。見た途端、先生は何も言わず一目散に駆け出した。集合場所から先生が見えなくなってから今度は西からレスキューフレアが上がるのが見えた。生徒たちは心配する様子を見せていたが、誰も動こうとはしなかった。
しかし、プレアは行ってくる、と言ってレスキューフレアが上がった方へ行こうとすると、そこにいた生徒たちからやめておけ、など止めるような事を言われていた。何があったか確かめるのと、先生が来るまでの時間稼ぎをする、と言って駆け出した。
――プレアはレスキューフレアが上がった場所まで行くと、くせぇ、と言いながら中心付近へ進んだ。
「せんせ……なんであんたがここにいんのよ! 先生は来てないの?」
プレアが行ったその場所には、リズル達がいた。
「おまえの組だったか。先生は別の所にいるが、もう少ししたら来るはずだから、それまでの時間稼ぎに来た」
「はぁ? なんであんたが来てんのよ! ここに何がいるのか分かってるの?」
「しらねぇ。でも困ってるやつがいるなら助けるのが当たり前だろ。ほかの二人は大丈夫なのか?」
「なにかっこ……二人は足を怪我してるけど、大丈夫よ。それよりここにいるのはね、ワーウルフよ」
「ワーウルフかよ。こんなとこにいるんだな」
「あんた今からでも逃げ――もう今からじゃ遅いか……。ねえ、もうすぐレスキューフレアの効果も切れるはずだから、あんたが持ってるの使ってくれない?」
「わかった。たしかここに入れてるはず……あったあった、それじゃ使うぜ」
プレアがレスキューフレアを使うと、辺りに魔物除けの匂いも充満した。
「しっかしこれくせえな」
「これだけ匂うからワーウルフもなかなか近寄ってこれないのよ」
「それは分かったけど、やっぱくせえわ」
「それよりあんた、戦えるの? 先生がいつ来るか分からない以上、私達でなんとかするしかないわ」
「あんたじゃねえ、あたしはプレアだ。もちろんワーウルフだろうがやってやろうじゃねえか。おまえは戦えるのか?」
「おまえじゃない、私はリズルよ。もちろん私も戦えるわ。」
「それでリズル、何か考えはあるのか?」
「まずはこれを飲んで」
そうリズルが言うと、かばんから物を取り出し、プレアに渡した。
「なんだこれ?」
「それはパワーアップのポーションよ。これを飲めば一時的にいつも以上の力を出せるの。プレアはその剣を背負ってるから剣士でしょ? だからワーウルフの攻撃を受け止めてほしいの」
プレアはごくごくと渡されたポーションを飲み干した。
「ああ、剣士だが、倒すんじゃなく受け止めるのか? 今飲んだポーションで倒せるようになったんじゃないか?」
「プレアの実力も知らないから倒せるか分からないけど、攻撃してカウンター食らったんじゃどうにもならないから、防ぐことに専念してほしいの。ポーションの力で防御は出来るはずよ」
「おう、わかった。助けに来てやられたんじゃ笑い話にもならねえからな。それで、リズルは何するんだ?」
「私は魔法で攻撃するわ。その準備をするためにプレアには時間を稼いでほしいのよ」
「時間稼げばいいんだな、わかった」
「ええ、お願いね。準備が出来たら合図するから、合図を出したら伏せて」
「おう、……なんか匂い薄くなってきたか?」
「そろそろ効果も切れそうね。ほら、あっち、あいつよ、ワーウルフ」
「おうおう、ワーウルフのお出ましだな。やってやるぜ」
プレアはリズルを背にして、ワーウルフと対峙する格好になった。
「おらあ! かかってこいや!」
プレアは大声を出して、ワーウルフの注意を引いた。――ワーウルフの爪がプレアに襲い掛かってくる。爪と剣がぶつかり合い、周囲に火花が飛び散った。プレアは額に汗をにじませながら剣で何度も攻撃してくる爪を受け止め続けている。
「プレア!」
プレアは名前が呼ばれた瞬間、身を伏せた。
「ファイア!」
リズルの唱える声が聞こえると、プレアの頭上を火の塊が通過していった。しかし、ワーウルフがジャンプして回避した。
「くそ、かわされた」
プレアはそう言うと、立ち上がり剣を構えなおす。プレアは焦りの色を見せていたが、一瞬にして驚きの表情へと変貌した。かわされたと思った火がジャンプしたワーウルフに上空で当たっていたのだ。
「な、何が起こったんだ」
上空で火に包まれたワーウルフが落下し、少しもがいた後に沈黙した。
「ふー、なんとかなったわね」
「すげえ! リズルおまえすげえな! 何やったんだ?」
「ワーウルフはすばしっこいから、回避されるのは予想してたの。だから操って当てたのよ」
「そんな事もできるんだな! 外れたと思った時は一瞬駄目だと思ったぜ」
「プレアが時間を稼いでくれたんだから、そんなヘマはできないわ。あなたのおかげよ」
そうこう話しているうちに、体格のいい先生が到着した。
「おい! おまえら、大丈夫か!? ……これはワーウルフか? おまえらがやったのか?」
「先生、遅いっすよ! ワーウルフはリズルが倒したんっすよ」
「倒したのは私ですが、それはプレアが時間を稼いでくれたおかげです」
「おまえら二人でやったのか! すごいな! とにかく無事でよかった。そっちの二人は大丈夫なのか?」
「足を怪我してますが、大丈夫です」
「ならよかった。それにしても二人ともよくやったな」
*
「あー、そういえばそんな事もあったな。あの時からリズルの魔法はすげえよな」
「もうーそんなにほめなくていいってぇ、えへへ」
「あの時は、リズルから貰ったポーションでなんとか耐えられたけど、無かったらやられてたのかな」
「あぁ、その事なんだけど、あれ、ただのジュースだったのよ」
「え? ……えぇ? まじで?」
「騙してごめんね。その時はプレアの実力も分からなかったし、少しでもやる気を出してほしかったのよ」
「まじかよ……。じゃああの時は、あたしは自分の力だけだったってこと? ポーションの力は借りてないってコト?」
「そうよ。あの時からワーウルフと対峙できるくらいの力はあったって事になるかな」
「まじか――あたしってその頃からすげえんだな!」
「うんそうね……。あんたのその考え方うらやましいわ」
そう言うと、リズルはミードを飲み干した。
「おねーさん、ミードのお代わりお願いしまーす」
「おまえもまだ飲むんじゃねぇかよ。おねーさーん、こっちもエールおかわりー」
「あんたが飲むんだから私だって飲むわよ」
「そういえばさ、今日の報酬、普通の群れと同じくらいにしたのはどうしてなんだ? リズルならもっと要求すると思ってたぜ」
「それは、あのおやじがそれだけ払えると思ってなかったのもあるんだけど、巣穴にあった物をいくつか貰ったから、それで良いのよ」
「倒した後、巣穴確認してくるって言ったのは、それでだったんだな。でも全部は取らなかったのか?」
「多くても邪魔になるし、個人が特定できるような物なら、私が盗ったと思われるのも嫌だから、最小限誰の物か分からないのを今回の報酬として貰ったのよ」
「何というか、リズルはしっかりしてるよな」
「プレアが考えなしに飲んだりするから私がしっかりしないとね?」
「ハイ、スミマセン、いつもありがとうございます」
「明日からしばらくは飲めなくなるから今日はしっかり味わっといてね」
「え、明日もまた飲もうぜ」
「……また野宿したいの?」
「イエ、ベッドで寝たいです。――よし、今日は飲むぞー」
従業員がエールとミードを持ってきた。
「新しい酒もきたし乾杯しようぜ」
「うん。プレアなら言うと思った。ほら、せーの」
「「かんぱーい!」」