第3話 休日の遭遇
引き続き説子視点。
翌日。少し遅れて登校すると、私の席が修羅場の舞台になっていた。
「その、クーちゃんって呼んでも、」
「駄目に決まってるでしょう」
「姉さん、落ち着いて。……ごめんなさい、クーは家族の呼び名だから。田中さんはアティアって呼んでくれるかな」
「それは、どうしても……?」
「……そうだね、どうしても。家族の思い出も関わるから……ごめんね」
あくまで穏やかに笑って躱すアティアさんと、真顔でピリピリとした空気を放つアンリーアさんに挟まれて、泣きそうな顔で粘るクラスメイト。
……近づきにくいにもほどがあるんだが。
「あ、説子さん!おはよう」
「あ、ああ、おはよう。……まだ先生は来ていないみたいだな」
気付かれてしまったので観念して近づく。と、流石に分が悪いと悟ったのか、粘っていたクラスメイトは静かに離れて行った。
アンリーアさんのあの圧には負けないのに、私一人の介入で諦めるのか……分からん。
「今日の一限なんだっけ、日本史?」
「それは明日。今日は数学だぞ」
「日本史がいいなぁ……」
ぺそ、と机に伏せたアティアさんを見て、申し訳ないが笑ってしまった。そういえばこの人、数字には若干弱かったな。図形問題は即答するんだが。
◆
「あ」
「あれ、斎藤さん?」
週末、本屋にて。ローヴァー姉妹と遭遇した。
……いや何故?
「アティアさん、なんでここに」
「楽しみにしてたシリーズの新刊が出るからだけど……もしかして、あなたもあのシリーズのファンだったりする?」
「え、アティアさんも?」
私が持っている本の表紙を見て首を傾げたアティアさんに驚く。
待ってくれ、初めてあのシリーズの読者仲間に会ったんだが。しかもそれがクラスメイトとか、どんな奇跡だ。
「……説子さんはシリーズのどこが好き? わたしは人間関係」
「私も人間関係だな、特に主人公の感情の動き方が気持ち悪くて、いや褒め言葉なんだが」
「わかる~~! 3巻の描写とかすごかったよね!」
「分かる、あれはすごかった」
と、思わず盛り上がりかけたところで、ふふ、と笑い声が聞こえて我に返る。
「二人とも、楽しそうなのは良い事だけれど……続きはもう少し人がいない場所でやった方が良いんじゃないかしら」
アンリーアさん以外にも、店員さんや通りがかりのお客さんが微笑ましそうな表情でこちらを見ていて、私は思わず顔を覆った。片手は新刊を持っているので、半分しか覆えなかったが。
「あ、ごめんなさい!」
「お騒がせしました……」
にこにこしている店員さんにそのまま会計してもらって、アティアさんと一緒に本屋を出る。
「……あの、説子さん。今度、この新刊を読み終わった頃に、どこか……カラオケにでも行かない?」
おそるおそる、という感じの申し出に目を瞬かせる。
何故カラオケ。
「カラオケだったら防音で、はしゃいで喋っても周りの迷惑にはならないから。感想語り、どうかな」
疑問が顔に出ていたらしく、そう補足してくれたアティアさんに「なるほど」と頷いた。
この本を読み終わった頃に、なら……まあいいか。
「……分かった、なら次の週末に」
「うん!」
「うわ」
「?」
「いやすまん、なんでもない」
ちょっと笑顔が眩しすぎて、思わず声が漏れただけだ。
……早まったかな。でも、あのシリーズのことを語れるなんて滅多にない機会だしな……。
「そう? じゃあまた、学校で!」
「ああ、またな」
そうして、その日はそのまま別れた。
「……そのままカラオケに行くんじゃないのね」
「や、今日誘っても断られちゃうよ。新刊読み終わった頃にって言うのも結構賭けだったのに」
「そうなの?」
「うん。新刊はすぐ帰って読みたいじゃん」
「成程……」
なのでその後、姉妹がそんな会話をしていたことは、私には預かり知らぬことだった。
補足コーナー
【クーの苦手教科】
前世から数字は苦手。なお図形問題だけ得意なのは魔法陣を描く過程で慣れたから。
日本史は得意というより好きな科目。
【本屋で話が盛り上がったシリーズ】
実在しない捏造推理小説。だいぶマイナーで人を選ぶ題材なので、シリーズを追いかけているような読者は少ない。
ちなみにクーが説子の行動原理を理解しているのは前世の母親も似たような気質だったから(流石に説子ほど重症ではないけど)
なおリアは長命種特有ののんびり時間感覚で積読を溜めるタイプ、説子の行動原理はいまいち分かってないけど、分からないなりに現在観察中。




