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不老の姉妹たちの旅物語  作者: Soryi
一章 一人の女神と炎の令嬢
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第2話 友達

クーアティア視点

突然庭に現われた、虹色の髪の女性……わたしがアンリーアと名付けた彼女は、不思議なんて言葉では言い表せないぐらい不思議だった。


背中ぐらいまである髪は見たことがない七色のグラデーションで、角度によって色合いが変わる。

それに、太陽の下にいるときらきらと輝いて、そういうところも含めて「虹色」と表現するのが一番しっくり来る。

瞳も不思議だ。オレンジ色の中に少し茶色が混ざっていて、艶やかな輝きがあって、まるで本物の琥珀のよう。

でも、義眼という訳ではなく、目線はしっかり合うし、瞬きもする。

顔立ちは整いすぎていて人形のようだし、プロポーションも完璧。凹凸のはっきりした大人っぽい体型は、全体的に薄っぺらいわたしには少し羨ましいぐらいだ。

所作も綺麗で、ドレスを着ているとどこかの令嬢にしか見えない。……けれど、本人によると貴族ではなく、むしろ旅ばかりしている根無し草なんだとか。



彼女は毎日、誰にも見つからずわたしの前へ現れる。最初は侵入者だと思ったし、実際侵入者だし警戒していた。けれど、その警戒心はただ喋るだけ何もせず帰っていく彼女を見るうちに消えていった。


『こんにちは。今日も魔法の練習?』

『あら、今日は本を読んでいるのね。私も隣で読んでいいかしら』

『こんばんは。暇なら少しお喋りに付き合ってくれる?』

『ごきげんよう。随分魔法が上手くなったわね』

毎日笑顔で現れて、一時間ほど喋って、「また明日」と笑ってぱっと居なくなる。


令嬢らしくない、と怒られた素の口調がこぼれたときも、驚くでも怒るでもなく「可愛い」と言ってくれて、わたしの方が驚いた。

それからは素で話すようになって、リアと話すときだけは自然体でいられている気がする。


ただ話すだけで絆されるなんて、チョロいと言われても仕方がないかもしれない。

でも……肩書き目当てのおべっかでもなく、両親も兄も使用人もくれなかった純粋な好意。それを感じるのは、わたしにとって本当に久々で。


「こんにちは、クー」

「あ、リア。今日は早いね」

思考を中断して今日も現れた虹色の彼女に笑いかけると、優しい笑顔が返されて…………ふ、と笑顔が抜け落ちた。えっ、どうしたんだろう。


「クーアティア。それは誰だ?」

背後から聞こえてきた低い声に、困惑が納得に変わる。

「お父様……」

この体の父親。フレア侯爵だ。背後には彼の妻……一応はわたしの母親にあたる侯爵夫人の姿もある。

なんの用事か、珍しく従者も連れずに二人きりだ。兄の姿も見えないことに少しほっとする。最悪はギリギリ避けられたみたいだけど、どうしてこのタイミングで……。


「お前の友人だ、なんて言わないだろうな」

「大丈夫ですよ、あなた。わたくしはあの子にあんな身元もしれない相手を付き合うような教育をした覚えはありませんもの」

……お母様、あなたが貶したその人はご先祖様がとってもお世話になった神様ですよ。

というか、そもそもこの人に何か教わった覚えはないんだけどな。それまで見様見真似だったマナーをきちんとした形で教えてくれたのは学園のマダムだし。




二人の言葉を流すか反論するか悩んだ、一瞬の逡巡。

その隙をつくように、コツリとヒールの音が鳴って、目の前に白いドレスが翻った。


「――面白いことを言うわね」

全く面白いとは思っていない冷えた声音。なんだか、彼女の一言だけでちょっと気温が下がった気がする。

けれど、不機嫌に鼻を鳴らす侯爵や、眉をひそめる夫人は気づいていないらしい。


「あの子の……炎の英雄の子孫とは思えないわ。勘の良さは受け継がれなかったのかしら」

「……馬鹿にしているのか?」

「ええ」

わお、即答。

みるみるうちに侯爵が顔を赤く染めていく。キレるの早くない?

わたしの前にいるリアの表情は分からない。でも、すごくいい笑顔で煽ってるんだろうな……。

遠い目をしていると、リアが何か囁いた。わたしは内容を聞き取れなかったけど、二人には聞こえたらしい。一気に顔色を変えた。

「ッ衛兵!この女を捕らえろ!」

侯爵の言葉にわたしは肩をすくめた。やっちゃったなあお父様。

……正直、リアがうちの兵士ぐらいでやられる気がしない。わたしの心配は、キレていると言っても間違いではないこのリアを相手にして、何人の兵士が心を粉砕されずに残ってくれるか、という一点に尽きる。


「馬鹿ねえ」

十人ほどの兵士たちを、リアはその一言だけで無効化した。……腕を振るだけで人を犬猫に変えるなんて、また無茶苦茶なことを……。

「私は一ヶ月間毎日クーと会っていたのよ? 少し考えればこうなることぐらい分かったでしょうに」

……いや、それはどうだろう。

そもそも侯爵も兵士さんも、リアがそんなに前からうちに通っていたとは知らないと思うし……。




「さて、クー」

動物に変えられてしまった兵士たちに吠えたてられて呆然とする両親を気にせず私に向き直ったリアは、場違いなほど美しい所作でわたしに手を差し伸べた。

「折角だし、このままデートしましょう?」

「え……この人たちは放置?」

「ええ」

…………リアの満面の笑みに「それなら仕方ないか」とあっさり見捨てた私は、もしかしたら薄情なのかもしれない。



「どこがいいかしら。メイズの森、ウンディーネの入り江、ああ、フレア山もいいわね……それとも、日本がいい?」

「――え」

楽しそうな友達がナチュナルに落とした爆弾に息を呑む。……今、この人は、なんて言った?


「い、今、日本って言った……?」

「言ったわね」

「行けるの?」

「私、女神よ? 異世界転移ぐらいできるわ」

彼女は軽く胸を張って、当たり前のように言う。

視界の端でちらりと「女神!?」と目を剥く両親が見えた。やっと喧嘩を売った相手が悪いと気づいてくれたかな。

両親はともかく、実際に彼女が転移で消えるところを見て、魔法の残滓を解析してみたこともある身としては、世界を越えられると聞いても納得できるけど……そうなると新しい疑問が浮かんでくる。


わたしが日本を知っているとリアが確信した理由だ。

今までの交流では、わたしが日本からの転生者であると話したことも、察されるような会話もなかったはず。どこで気づいたんだろう。


……あ、リアが防音の結界を張り巡らし始めた。両親がうるさかったんだろうな……。ちょっとリアの方に身を寄せて、わたしも結界の中に入れてもらう。

ま、分からないなら聞いた方が早いよね。


「たしかにリアならそのぐらいはできるだろうなって思うけど……。私が転生者だっていつ気づいたの?」

「あら、転生者だったの」

「えっ」

「成程、それなら納得だわ」

「……えっ?」

もしかして、鎌をかけられた……?


「転生者とは知らなかったけど、確実に日本を知っているのは初対面の時から分かっていたのよ」

「えっ」

「覚えてないかもしれないけど、私の名前を考えてもらった時に貴女が日本語をこぼしたのよ? 『綺麗な琥珀色』って」

「ぜんぜん覚えてない……」


なんかわたし、驚きっぱなしじゃない?

ええと、確かにあの時、彼女の瞳を見て「きれいだなあ」と思った記憶はある。琥珀の、宝石そのもののようだ、と思ったことも覚えている。

でも、まさかそれが口に出ていたとは……。






「……ねえ、クー」

囁くような声に、いつの間にか俯いていた頭をあげる。思ったより近くに、琥珀色の瞳があった。

「私の家族になってくれないかしら」


……えっ?




補足コーナー

【クーアティアの家族】

要するに腐ったお貴族様。両親は手遅れだけど兄はまだギリギリ修正が効く(クーと和解できるとは言ってない)

何も知らない状態で血の繋がりを疑われるほどではないけど、実は血が繋がってないとカミングアウトされたらすぐに納得するぐらいの似具合。

両親がクーを養子にしたのは、実の息子(クーから見ると兄)の体が弱くて家の存続が危ぶまれたから。ちなみにその心配は杞憂で、今のお兄さんは風邪一つ引かない健康体。

あと兄はクーと血の繋がりがないことを知らない。実妹だと思った上で嫌がらせしてる。

クーが嫌がらせを受けながらも家に置かれていたのは、今更「用済みだから養子縁組も解除します」とするのは外聞が悪いから。


ちなみにリアは侯爵夫妻を跡形もなく消し飛ばすのもやぶさかではないぐらいにはキレてるけど、クーが「恨みはあれど命を取るほどじゃない」と思ってるからそれを尊重してる感じ。

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