第6話 新しい家族
儀式を終えた翌朝、説子視点。
「ん……」
「おはよう、説子。体の調子はどう?」
「おはよ……え?リアさん?」
一瞬なんで私の部屋に?と思ったが……そういえば妹になるための儀式をしたんだったな。
「もう姉妹になったのだから、さん付けはやめて頂戴」
「じゃあリアねぇ。お腹空いた」
「よろしい。食事は用意してあるから、リビングに行きましょう」
「はーい」
敷きっぱなしの魔法陣を迂回して部屋を出る。
リビングにはアティア……訂正、クーねぇがいて、お茶の入ったコップを運んでいるところだった。
「あ、おはよう説子」
「おはよう、クーねぇ」
何故かピシッと固まった姉その2に首を傾げる。リアねぇがさりげなくコップを取り上げ、テーブルに置いた。
……無言でサムズアップされたな。新しい呼び方はお気に召したようだ。
紅いりんごゼリーとうっすら発光するサラダ(どちらもリアねぇが用意した異世界の食べ物らしい)を食べ、のんびりと休んでいた時。
「ああ、そうだ。あなたが眠っている間に作ったもの、渡しておくわ」
そう言われて手渡されたのは、開いた本の形をした銀色のチャームだった。
片手で握り込んでしまえるサイズで、ただの金属の板に見える。私が首を傾げると、リアねぇは「学校で話した時に言っていたでしょう?」と笑った。
「書物であるなら無限に収納できる魔道具よ」
「え、手作りしたのか? リアねぇすごいな」
「ふふ、もっと褒めてくれてもいいわよ?」
「容量無限っていうのもすごい。助かる」
あと、満面の笑みで私の称賛を受け取るリアねぇが可愛い。これはたぶん、リアねぇの顔を見てニコニコしていたクーねぇも同意見だと思う。
一通り褒めちぎった後、簡単に機能を説明してもらった。
出し入れの意思を持って触れると収納物リストが出る仕組み。触れる場所はどこでもよい。
リストにも検索・ソート機能は完備されているけれど、具体的な本のタイトルや見た目を思い浮かべてチャームに触れると即座に物が出てくるショートカットシステムがある。
チャーム……魔道具の形は、握って念じれば変更可能。今の形が気に入ったので、鎖だけ伸ばしてネックレスとして身に着けることにした。
中身はひとまず、クーねぇオススメの異世界産小説が十冊ほど入っているらしい。
それを聞いた途端そわそわしだした私に、二人が顔を見合わせて笑う。
「明日は学校があるから、あまり夜更かししないようにね」
「後で……うーんと、明日のお昼休みにでも感想聞かせてね!」
「気を付ける、ありがとう」
◆
※クーアティア視点
家族が増えた翌日。
「お、おはようっ、ローヴァーさん!」
「おはよう」
にこっと笑って挨拶を返すわたしと、興味なさげに無言を貫く姉さん。
そんないつも通りの教室の光景が崩れたのは、始業ギリギリに説子が滑り込んできた時だった。
「……っと、良かった、まだ先生は来てないな」
「ん、おはよう説子」
「ああ、おはようクーねぇ。リアねぇも」
「ふふ、おはよう」
昨日まではお互いにしか許していなかった愛称でわたしたちを呼び、わたしも姉さんも笑顔でそれを受け入れる。
あり得ない光景に、クラスメイトが目を見開いて固まるのが分かった。
……わたしは別に、今まで通りでもいいんじゃない? って言ったんだけどね。説子は切り替える方が面倒だ、なんて言って、リア姉さんから守護の魔道具をもらっていた。
前からうっすら思ってたけど、わたしの新しい妹はちょっと感覚がズレていると思う。
『えええぇぇ!?』
「うぐっ」
「うるっさ……」
か、覚悟してた以上に耳に刺さる……!
思わず眉を寄せた瞬間、姉さんが魔法を使った気配がした。
「……あれ、聞こえなくなった」
「だって煩かったんだもの」
そっかー。ならしょうがないね。
◇
キーンコーンカーンコーン
「……今日はここまでか。じゃ、ちゃんと飯食えよー」
午前中最後の授業が終わり、ゆるく手を振った先生が退出する。
「さ……」
「説子、一緒にお昼食べよ。今日は姉さんがいい所に連れて行ってくれる予定なんだ」
「行く」
ちょっと行儀が悪いけど、クラスメイトの言葉を遮るように説子に話しかける。
そのまま彼女の手を取って、わたしは周囲に向けてにっこり笑った。
「という訳で、妹は先約があるから。ごめんね?」
「あ、はい……」
補足コーナー
この後、休み時間になる度に説子にどういうこと?!と聞きに来るクラスメイトと、隣席のアドバンテージを活かして誰よりも早く説子を連れ出すクーの図が一か月ぐらい続いた。
なお、説子が異世界の言葉で書かれた本でも読めるのはリアの加護があるからです。
リアは記録の神なので、どんなマイナー言語でもすらすら読める権能を持っている。




