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ユメにみたユメみたいな異世界で  作者: 大路地さん
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4話 余談・レイの飴 前編

今回は見張りの兵士視点です

 「じゃあ、行って来るぞ」

 「はい、今日も気をつけてね」


 俺は玄関先の妻に一度視線を返して家を出た。


 俺はエルミーヤ城の警備をするごく一般の兵士だ。三年前に行きつけの菓子屋で働いていた今の妻と結婚し、1人の娘がいる。警備中に見る王族や貴族の生活よりは貧相だが、身の丈のあった十分な生活が送れていると思う。


 そんな平和な毎日と違うことが2つ。


 1つは警備先が異動になったこと。

 場所は城内の庭園にある池。池の大きさは俺たちが住む家が一軒余裕で入るくらい。しかし、庭園内やその入り口を警備するならともかく、池を警備しろというのは一体どういうことだろう。もしや、数日前に行われたというガウラウス城での戦が関係あるのだろうか?


 そして2つ目は間食用に妻特製の飴を持っているということだ。

 この飴は妻と付き合うきっかけになったお菓子で、俺が初めて食べたお菓子もこの飴だ。平民として不自由なく生活できていても甘いお菓子というものは貴重でなかなか手に入るものではない。故に俺がその飴を買えるようになったのは貴族の兵士として働いてからだ。

 妻は俺と結婚してから仕事を辞め、家事や育児に専念するようになったが、度々以前の菓子屋で働き、お代として砂糖をもらいそのままそこで作って持ち帰ってくれる。忙しいのにそこまでしてくれる妻には感謝しかない。

 今回は急な異動にたまたま妻が飴を作ってくれていたので持っていくことにしたのだ。小腹が空いた頃に隠れて食べるとしよう。


 職場に着くと上官から説明を受けた。

 池にガウラウス城で捕らえた伝説のモンスター、ウル·マラクサークがいる。情報では気性は大人しいようだが、池から出ようとしたり、何か異変があった場合には待機している魔法師に伝える。報告を受けた魔法師は伝達魔法にて本部に応援を要請するので、それまで持ちこたえろ、とのことだ。ちなみに俺の担当は午後なので午前は稽古場で訓練して休憩をとってからの警備となる。


 休憩が終わって午後、庭園に向かう途中で一緒に異動になった同僚になった。彼は午前の担当だったらしくこれから稽古場に向かうようだ。


「よう、カラン。池の警備はどうだったか?」


 俺の声に気づいたカランが返事をしながらこちらに向かう。


「何にも。門の警備より簡単だよ。むしろ退屈過ぎて気がおかしくなりそうだ」


「ならよかった。でも池にいるのはあのウル·マラクサークなんだろ?水を操り、奴の水は触れれば皮膚がただれ、飲めば精神を乗っ取られる。別名 魅惑の海神と呼ばれる…」


「奴はそんなことしねぇよ。知ってるか?ガウラウス城でウル·マラクサークを捕獲したとき同じ檻に子供がいたんだってよ」


「何?なら食べれる前に救出できてよかったじゃないか」


「普通はそう思うよな。でもおかしいのはここからだぜ。その子供たちは救出された後、王宮の医者に診てもらったらしいんだけどよ、全員外傷も病気も持ってない完全に健康な状態だったんだってよ」


「それは餌として入れられたときにそういう状態だっただけじゃないのか?」


「だからそうじゃねぇんだよ。ていうかウル·マラクサークがいたのはあのガウラウス城だぜ。奴隷はもちろん、犯罪も横行してるあんな治安悪いところにいる子供が傷1つなく健康っておかしいだろ」


「まあ、それはそうだが、だとしたらなんなんだ?」


「こっから俺の予想なんだけどよ。奴は餌用に入れられた子供たちを保護してたんじゃねぇか?」


「モンスターが人間をそう易々と助けるわけないだろ?そもそもどうやって助けるんだよ。回復魔法を使うにしても古傷や病気までは防げないだろ」


「それもそうだよな。でも、そんなに警戒しなくてもいいと思うぞ。じゃ、午後頑張れよ」


 そういう言って彼は走り去ろうとした。


「待て!」


 ギクッとしたように肩をあげ立ちどまるカラン。


「お前、この情報どうやって手に入れた?」


「いや~、あの、えっと~…あ、そうだ!城下町で美味しい菓子屋見つけたんだよ!今度一緒にどうだ?」


 やっぱりか…


 この世界で最も弱い生き物は人間だが、その人間にのみ与えられた能力がある。それがスキルだ。その効果や代償は人によって様々で、10歳のときに神殿で自分のスキルを知るとこができる。

 カランのスキルは〈探偵の資質〉自分の知りたい情報を断片的に知ることができる。しかし、スキルの発動には自分が嫌いなことをしなくてはならないらしい。

 以前、嫌いなピーマンを食べて賭場に向かったが、入る前に「俺には無理だ」と言ってきた。「怖じ気づいたのか?それともイカサマしてるところを“見た”のか?」と聞くと「当選番号の最初の数字しか見えなかった…」と言っていた。10桁ある番号の1桁目しか見えないならスキルの意味ないな。実際その1桁目はカランの言った通りだったんだが、情報量は嫌いなことの大きさも関係するようだ。


 ともあれ、スキルはその危険性故に城内での使用は禁止されている。


「お前はいらない。場所だけ教えろ」


「ええ…お前、また俺の知らないところで奥さんと娘さんとイチャイチャするつもりかよ。久しぶりに俺が奢ろうとしてたのに」


「じゃあ買い物だけ一緒に行ってやる。ていうかカランなら知ることはできるだろ」


「レイ、お前、独身の俺に家族仲良くデートしてるところを見せつけたいってか」


「でもお前子供好きだろ?」


「そういうんじゃねえんだよな」


「? じゃあ今度の休日な」


「ああ、じゃあなレイ」


 そうしてレイと別れ、急いで庭園に向かった。が、交代の兵士に「遅い」と怒られた。

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