2話 どうやら私はやばいやつ
いつもは時間をしょっちゅう気にする私なんだけど、今はただこの“夢を見ている”ような感覚がずっと続けばいいと思う。
だからか本当に時間の感覚がない。一秒という時の長さがどの程度だったのか思い出せないくらいには。正直、いつ何が起こるかわからない、もしくは何も起こらない現状では時間を再認識する方が苦しいのかも。幸い私には特別待つものもないし。
すると突然コツコツと足音が聞こえてきた。
廊下はまっすぐこの檻に続いているので、足音の主がこちらに来るのは確実。
おお、ついにイベントがきた。果たして用があるのは怪しげなじいちゃんかどこぞの貴族様か、はたまた冒険者か…いずれにしても楽しみだなあ。
近づいてきた足音の主が魔石ランプの明かりで姿が見えた。
…白髪で長髪のイケメン?
耳も長いし、エルフかなんかかな?んでんで、何の用なんだろ。
「これが、ガウラウス城の切り札か。確かにこんなものを放してしまえば、エルミーヤ王国は大きな被害をうけ、最悪滅ぶだろうな」
へ~。なんだって?ガウ、ガウラウス?城?パルミーヤ?カタカナ言葉って覚えづらいよね。
てか、この人の言葉わかったのすごいね。あれなのかな。あの、脳内で翻訳機能が備わってるて的な。
「クルスは切り札を潰せと言ったが、私一人で果たして倒せるのか…?」
そんなに私やばいの?
まあ人ではないから、人からすれば脅威かもしれんけど、国を滅ぼすとか…。言うてあなたと同じサイズだし、触手も10本。あっというまに無力化できるんじゃない?牢屋に閉じ込められてるから危険っぽく見えるだけでほら、大したことない普通の牢屋じゃない?
って私初めてこの牢屋の全貌を知ったわ…
この牢屋思ったより広い。囚人10人用?ってくらいには。んで、なんでかめっちゃ壁が綺麗なんよ。いや、ほんっとにつるっつる。いやいやそれより、もっとやばいのあるんだけど。…ん~目を反らしちゃだめよな。てか“いる”んだけど。
その…バランスボールから頭だけ出してるみたいな少年少女が…
いや、そのそんなせ、性癖がない、、とはいえないけど…
私…何してたんだろうね。
少なくともこうして意識をもつ前のことなんだろうけど。
少年少女たちは全部で5人。バランスボールみたいなのは直感で自分の体の一部なのがわかる。でも私の上半身とは違って不透明の白。当の少年少女たちは傷などはなく、気持ちよさそうな眠っている。
…食べるつもりだったのかな、私。にしては普通にずいぶん美食家じゃない?返り血とかないし、めっちゃ綺麗に食材保ってるじゃん。
人食べてたならやばいのもわからんでもないけど
国滅ぶほどかな…?でも、倒されるのも嫌だし。こっちから意思を伝えれないかな?
声……出ないや。
念力は?
『すいません!何もしないので出してもらえますか?!』
……う~ん微動だにしねえ。伝わらんか…
ジェスチャーもアリだけど、この状況で下手に動いても警戒されるだけだし…後ろのこの人たちが目的なら解放するのはどうだろ。
私はむくっと立ち上がって一番小柄な女の子をつかんで檻の近くに運ぶ。白髪の彼は私が動き出したことに武器を構えて警戒しているようだ。残りの4人も檻に寄せると、私は牢屋の隅で体育座りをした。できてるかわからんけど。
この人たちは譲るんで。ほら救出なら今のうちにしちゃいな。でもって私も無害だから、するなら討伐じゃなくて捕獲でお願いします。