六日
猿鬼が泊めさせてくれて、琴音はまだ眠っていた。
昨日、彗に言われた弦くんが帰れる日数は残り十三日で、すでに六日は経っているため残りの日数は一週間。一刻も早く弦くんを鳥居まで、連れて行かなければ弦くんはこの世界に閉じ込められてしまう。
琴音は弦くんと口論して猿鬼たちが止めていたとしても二人の口論は誰にも止められなかった。そのせいで琴音は弦くんと残ると言い出しても、ご両親のこと大好きだから琴音はなんとしてでも弦くんと一緒に帰る方向性を探すはず。
そっとベッドから降りて弦くんの様子を見ようと男子部屋へ行く途中、やめろという声が聞こえてすぐさま行った。
「弦くん!」
到着すると弦くんは彗の抱き枕にされていて、私は近くにあった本を丸めて私に気づいていない彗を叩いた。それでも起きない彗で、耳を引っ張ろうとしたら彗が起きたのだ。
「弦くん大丈夫?」
「……うん」
「こら、彗。彗……?」
起きたはずなのに目は閉じたままで、何が起きているのと彗の様子を伺っていたらいきなり私を突き飛ばす。突き飛ばされて尻餅をついてしまって、彗は私の膝に乗っかり始めたのだ。
「彗?いっや」
思わず恐怖心が起き、心拍が上がって彗の顔がどんどん近づいていたら、永遠が顔を赤くしながら彗を無理やり離してくれた。私は風葉がきてくれて思わず飛びつく。
怖かったと風葉に伝えると優しく頭を撫でてくれる。
「ったく何してんだよ」
「目を離しておかなければよかった。何もされてない?大丈夫?」
「平気だけど、彗どうしちゃったの?」
「僕も風葉もわかってない。ただ言えるとしたら」
「呪いだよ。永遠にいちゃ」
弦くんがボソッと言い、余計にわからなくなっても弦くんはこの世界を三度来ていることになる。何か知っている顔立ちで風葉が弦くんに聞く。
「呪い?」
「ここに閉じ込められてしまった人たちは、全員呪いがかかってるって聞いたことがある。だからあっちで遺骨も見つからない状況なんだ。救えるのは閉じ込められていない人たちが手を繋ぎ鳥居を潜ることらしい。だけどそれには条件があって……」
「弦、それは言わない約束の話だよ」
「彗!起きてたの」
「えへへ。美星に本で叩かれた後からだよ」
彗はニカッと笑いこの馬鹿と私は思わず叫んでしまった。
「ちょっと反応が……風葉目が怖い」
「今度美星を襲ったら」
「はいはい、わかってます。それにその話は嘘だよ。白夜は何通りの偽情報を渡してくれるからね。今回のも、弦は自らここに来たのは間違いはないんだよね?」
そうっと弦くんは何か寂しそうな瞳をしていて、こっちに来た理由がもしかするとあるのかもしれない。
「おじさんとおばさんには何度か接触して、一緒に帰ろうって伝えた。だけどおじさんとおばさんは甥は存在してないって言われるんだ。姪は存在していると。だけど母さんはずっと双子に会いたがってたのはわかってた。もし救える方法があるなら救って会わせてあげたい」
何度言っても弦くんはおじさんとおばさんを救って会わせたいのだろう。
「弦、鼓と琵琶の居場所はすでに把握してる?」
「うん。だからそこに」
「じゃあそこに行こうか。美星、琴音起こしに行ってあげて」
わかったと琴音を起こしに行ってみたら、琴音の姿が見当たらなかった。ただ窓が開いてあってもしかしてと彗たちがいる場所へ引き返す。
「琴音がいない!窓が開いてあったからもしかして……」
「狙いはそもそも、弦じゃなかったとしたら……。すぐそこへ急ごう」
◆
起きた瞬間に何が起きたのかわからず、再度起きた時には檻車の中にいた。妖怪二名が馬を走らせているのがわかるもあの状況からにしてあそこは安全な場所だったはず。
なぜあたしは今この状況に侵されているのと思考を膨らませていたら、背後から何かを感じ振り向こうとしたら右の耳元で囁かれる。
「やっと会えた。あっしたちがいなくて寂しかったでしょ」
左の耳下でも違う声で囁かれる。
「可愛い音。昔のようにたっぷり遊んでやるよ」
「何を言って。いやっやめて!」
背後から迫り来る二人で縛られているあたしは何もできず、あたしが暴れないように固定をして、もう一人が服を脱がそうとしていた瞬間のことだった。
こんが現れてあたしのお腹の上に乗っかり二人を叱る。
「鼓様、琵琶様。おやめください」
「別にいいでしょ。昔のようにあの瞳を楽しみたいもの」
「わっしたちのおもちゃを連れてきてくれたのは弦だ。別にいいだろ」
「音の娘だからと言って、同じ目には合わせたくないと白夜様のお言葉。あっちに戻ったら通報されるからここに残り、白夜様があなたたちを飼った。指示には従ってください。従わなければ白夜様に言いつけます」
二人はとても不機嫌な顔をして、あたしを解放しどこかへ行った、恐怖心がどっと出て勝手に涙が出てしまう。大丈夫ですよと人の姿になり、私にハンカチを渡してくれてそれで涙を拭った。
「怖い思いをさせてしまったようで」
「イメージしていたおじさんとおばさんじゃなかった」
「おそらく、音はあまりあなたにお伝えしなかったのも、辛い思いでしか残っていなかったのでしょう」
「あれ……?どうしてお母さんのこと知っているの?」
こんはぎくっとなぜかびっくりしていて、何か怪しいと睨んでいたら尻尾を触りながらあることを教えてくれた。
「二人の行動を見ていればわかります。いつも白夜様がいない間に、白夜様の女子様たちと遊んでいるので」
想像したくない絵が出てきそうで、頭に浮かびそうなものを掻き消す。こんが言っているのは真実なのか嘘なのかはわからない。でも助けてくれたのはこんだから少し信じてみようかな。
「ありがとう、こん」
「いえ。白夜様のご命令なので。ただあなたを連れて行く場所は桜木家を好む酒呑童子です」
「ちょっと待って。彗が言ってたとは別なの?」
「以前は猿鬼のボスでしたが、今は酒呑童子です」
酒呑童子って確か酒好きの鬼としか覚えてない。そこに連れて行かれる理由は何なんだろう。
◆
モグラに乗って弦くんが言っていた酒呑童子が住んでいるウメの町へと到着し、妖怪たちは酔っ払って歩いていた。ウメの町は居酒屋が多数あり、お酒も豊富にあるらしい。たまに司令官のお使いで来ると彗は言う。
「酒呑童子が住んでいる場所はちょうどあそこだよ。まあその前に鼓と琵琶について言わなければならないことがある。弦、音はあの二人には会いたくはないんだ」
「家族なのに?」
「音の家柄は弦もわかっているように着物屋。音は着物がとても似合っていて、両親は溺愛していた。ただ鼓と琵琶は両親の愛情をもらわず育った。両親に振り向いてもらえず夜遊びが多くなってご両親に叱られるばかり。そして二人は一線を超え音を襲うようになった。僕らは何度も止めに入って、警察を呼ぼうとしても音は大丈夫だからって一点張りだったよ」
「まさか私を襲おうとしたのはヒントを出すためだったの?」
「バレた?」
もうっと私はつい彗の背中をバシッと叩いてしまう。弦くんにわからせるために私を襲わせるだなんて最低。弦くんはストンと地べたに座って、お母さんのそばにいればよかったと後悔している。
彗はしゃがみそれでも助けたいと弦くんに問うと、涙を流しながらこう答えた。
「帰りたいっ。帰って母ちゃんに言いたいっ。ごめんなさいってっ」
「よし。そうと決まれば瑠衣。聞いてるなら出てきなよ」
影からなぜか頬を膨らませている瑠衣が登場する。
「あのね、たまたま居合わせただけなんだからね。久しぶり、弦。彗が言った通りに一つ目の鳥居子供たちに通らせたよ。あそこで間違いはないと思う」
「なるほどね。さてと今回ばかりは至急頼むね。弦は残り一週間だから」
「はいはい。わかってます」
「彗、姉ちゃんのこと」
「すぐに助けて向かうから大丈夫。また離れ離れにはさせないよ。あっちで音と待ってて。いいね?」
お願いしますと頭を深々下げて弦くんは瑠衣と一緒に鳥居まで行ってもらうことになった。
「さてと弦が行ったことだし、行きますか」
「取引するってことだよね?取引のものとかは?」
「お酒と取引できるかはわからないけど、やってみる。それでもできないのであれば奪うまでのがここでのルール。奪ったら追われる身になるけどね」
追われる身になるのはちょっとなと思いながらも、直接対面するために堂々と正面から行くことになった。
◆
「帰れ」
「僕を誰だと」
「帰れと言っている。小娘はきてねえよ。ゲフッ。それとも死にに来たのか?」
どう言うわけなのか琴音はここにいないようで、酒呑童子はぐびぐびとお酒を飲みながらゲップばかりだしている。何かが引っかかると思考を膨らませていたら、もしかしてとあることを聞いた。
「二人組が私たちより先に来た?」
「よく取引相手の奴らだが、それがなんだ」
嫌な予感がして私は咄嗟にこの場から離れようとしたら彼女が現れた。指に垂れているのを舐めながら、なぜか私のことをすみれと言い出す。
「あれぇ。すみれじゃん。帰ったんじゃなかったの?」
「すみれはお母さんの名前。琴音を返して!」
「やなこった。おもちゃは誰にも渡さない。一生ここにいてもらうって決めてるの。だから邪魔はしないでよ」
目がとてもトロンッとしながら言う琵琶の瞳は、どうかしてると武器をとり琵琶をやろうとしたら何か口に入れられ飲み込んでしまった。
「美星、吐け!」
身体が痺れて何もできないと風葉と永遠が琵琶とやり合っている間に彗に助けられ避難する。なんとかして吐かなきゃと出そうとしたらこんがいきなり私のお腹に触れた。
すると自然と吐き出せてケホケホしながら、何を入れられたのとよくみると飴玉。
「こん」
「先ほど注意したばかりなのに。怒られるのは和吉だから勘弁してほしいけど、琴音が来たことでここ最近白夜様の言うことを聞かなくなった。白夜様が取引をしたいと言ってます。どうしますか?」
「内容は?」
「あの二人を止めてくれるのであれば、弦のみ鳥居を一回だけ潜るだけで帰らせてやると。信じるか信じないかは美星様次第」
私と困惑するも弦くんを早く帰らせてあげれらるなら信じたいとその取引をする。
「信じる」
「取引成立。ご武運を」
シュッといなくなったこんで、私に物申したいような表情をしているも証拠品として透明袋に飴玉を入れる彗。
「その飴は?」
「お酒が入った麻痺飴玉。従わなければこのやり方をする妖怪が多数いる。その飴玉を作っているのも酒呑童子だ」
「止められないの?」
「止められない。僕らは前にこんが言ったように、白夜に生かされてここにいられてるようなもの。下手をすれば死と同然だからね。さてと信じると言ってしまった以上、二人を止めに入ろうか。琵琶はあの二人に任せて、皷がいそうな場所を探そう」
◆
彗が言うにはこの敷地内のどこかにいるらしいけど、猿鬼のように手下がいないのが不思議だ。全ての部屋を探してもいなくて何かがおかしいと彗に聞く。
「何かおかしいと思わない?」
「酒呑童子の手下がいないことから疑問に思ってた。美星はどう思う?」
「いつも酒呑童子はあんな感じなの?」
「いや、酒を飲みながら手下に怒鳴ったりしているイメージが強い。それなのに冷静になりながら酒を飲んでた」
いつもは横暴なのに今回ばかり冷静でいるのは琴音が来たからなのか。それとも別の意味があるのだとしたら一体。そう言えばと閃いたことを伝える。
「財宝とか女性の姿とかみたことある?」
「言われてみれば普段ある場所に女性たちの姿はいなかった。財宝も空っぽだったしもしかしたら」
心当たりがあるそうで彗の後について行くと、酒呑童子の家から離れた大きなお店に到着する。後ろへ回り裏口にいる妖怪を眠らせ裏口から入った。店員たちに見つからぬよう動きながら倉庫室へ入ってみると嘔吐しそうな勢いに酔いがきてしまう。
気づいた彗は近くにあったガスマスクをつけてくれて少しは楽になった。
「助けられないの?」
「酒漬けされてる人たちは後だ。琴音を先に見つけ出さないと」
助けたいけれど琴音を探していたら、琴音の叫び声が聞こえて奥へ入ると大変なことになっていた。
「琴音!」
「おっと近づかないでもらえる?今超絶楽しんでるところなんだからさ」
琴音の周りには紙屑が大量に捨てられており、琴音は麻痺飴玉を大量にいれられたに違いない。こんなのあんまりだよと私は蕾を取り出す。
「ねえ琴音から離れてくれない?」
「断るって言ってんだろ?わっしと琵琶のおもちゃになっ」
私は我慢できずに蕾を振り回すと違う方向へ行ってしまい、いいのかなと琴音を縦に取られてしまう。
「本当にあの時、通報しておけばよかったって後悔してるよ」
「呼んでくれてありがとな。そのせいでおもちゃと遊べなくなったんだからさ。だけどこうやって会いに来てくれたんだ」
琴音は拘束されたままで抵抗できず、耳をしゃぶる皷で見ていることができなくて目を瞑る。すると彗が笑い出し意外なことを言い始めたのだ。
「へぇまんまと僕と美星をここに連れてくるだなんてね。あれは琴音じゃない。こんだ。尻尾を見せないようにうまくできるようになったんだね」
ぎくっと動き琴音を私たちの方へと突き飛ばし唾を吐き出した。偽物の琴音の姿はこんでうぅと泣いている。
「もうちょっと楽しめるかと思ったけど、お前は正直いって」
私は思いっきり平手打ちをし、腰技をして鼓のお腹を踏みつける。
「あなたにとっては大切な姪のはずよ!それなのにおもちゃ?ふざけないでよ!琴音は琴音であって、おもちゃなんかじゃない!いい?今度琴音やそれ以外の人たちにやったら、あなたを一生許さないから。それとあんたの妹か姉か知らないけど、同罪だから覚悟しとくのね。私を怒らせたことを。こん!」
「ひゃい」
私が相当怒っているのが伝わっているのか、恐る恐る私のところに来た。
「琵琶を止めてくるから、変態野郎を先に連れてって」
「うぅ」
「大丈夫、こんを襲ったら私に教えて。その時は反省するまで投げ続けてあげるから。ね?」
襲われないように念のため拘束してもらい、行ってもらって私と彗は引き返したのだ。
◆
永遠と二人で琵琶に挑むも俺らは素人だし、琵琶にやられっぱなしだった。彗はどこまで美星を連れてったんだよと唾を吐き耐性を直していると飴玉を口に入れている琵琶だ。さっき美星に入れた飴玉なのになぜ効いていないと思っていたらいきなり笑い出す。
頭がおかしくなったのかと困惑していたら、俺たちに言い出す。
「あっしと遊んでくれているのは嬉しいんだけどさ、ほっといていいの?」
「は?何を言って」
「風葉!酒呑童子がどこにもいない!」
クククッと笑い双子は囮だったのかとどこを探せばと焦っていたら、美星と彗が戻って来た。しかし美星がとても怒っていることがわかり、スタスタと琵琶の前に立つ美星。
「ねえ鬼はどこに行った?」
「教えなーい。おもちゃはここに残ってっ痛いんだけど」
美星の平手打ちは俺も味わったことがあり、めちゃくちゃ痛い。
「教えてくれないなら、これあげないよ?どうする?」
いきなり笑い出す美星はどっから出したのか琴音の写真を持っていたのだ。それ僕のと永遠が言いそうな表情で、それに食いついている琵琶は新天地のユズの町にいるらしい。
教えてくれたことで美星は琵琶に渡し、さっさと帰ってと言うといなくなった。
なんなんだと思いながらもユズの町に行くため、星雨の力で行くことになった。