五日
あんまり寝てなかったことで、欠伸が出てしまいちゃんと寝ておけばよかったなと思ってしまうほどだ。昨日眼鏡くんと会った場所へ行ってみると猫が一匹いる。可愛いと触れようとしたら、彗からストップが入ったのだ。
触れちゃ駄目なのかなと手を引っ込め、彗が猫の尻尾を踏みつけると猫ではなく妖狐。
「へえ。何しに来たわけ?」
「なんでもないです!痛いから離してください!」
「嫌だね。どうせ、白夜に言われて来ただけでしょ?」
うぅと体が縮こまり図星なのはわかったけれども、そろそろ離してあげたらどうかなと思ってしまう。
「それで取引しようとかならごめんだ。白夜の取引は美星と何かの取引なのは十分わかっている。断固拒否させてもらおうか?」
「それとは別の取引です!」
「あっの。尻尾離してあげよう?」
「美星、一つ言っておく。どんな妖怪であろうとも甘やかさない。こうやって可愛いところ見せて誘惑し、襲い掛かって来ることで、取引が成立しないことがしばしばあるんだ。特に妖狐はね」
風葉と永遠は前に行き武器を構える準備をしていて、ふっと笑い出す妖狐は地べたに寝そべり空を見上げた。
「番犬のくせに偉そうな口だなぁ。わかってるでしょ?白夜様がいなければ君たちは全員死んでいる。生かされてるだけで十分っしょ?」
「ねえ、あまり僕を怒らせないほうがいいよ。それともまた大好きな白夜の姿をみんなに晒されたくないなら持っている情報を出してもらおうか?」
「情報を渡すからその子を頂戴。そうじゃなきゃ余は何も喋らない」
指を刺されたのは私ではなく琴音で永遠は琴音の盾となり拳銃を構える。
「琴音を渡すわけない」
「弦は今、白夜様と一緒にいるんだよ。いいのかなー」
彼がそう言い放つと彗は思いっきり彼の尻尾を踏みつけ、ふぎゃあと悲鳴をあげたのだ。
「や・つ・が・れ・を怒らせないでくれるかなって言ったよね?情報を早く渡してもらおうか?どうせ、白夜が情報を渡して来いとか言ったんだよね?」
知らん顔する彼で、彗は尻尾をぐりぐり踏みつけわかったからわかったからと泣き叫ぶ。解放してあげた彗であり、彼の尻尾は淡いピンク色になって尻尾を優しく触れながら情報を渡してくれた。
「白夜様が手懐けている二名が弦を追跡中。見つけ次第、確保して桜月家を好む奴に渡すことになってる」
「あいつか。余計なことしてくれたな。帰っていい、こん」
「むっ。まだ情報あるけど?」
「それだけ聞けたし、ここから先は有料でしょ?取引しようとも今は何も持ってないから、僕が気が変わる前にここから立ち去って」
ボンッと狐の姿になりトコトコとこんという少年はいなくなる。
「さて面倒なことが起きる前に、一つ言っておかなくちゃならない。桜木家は常に猿鬼のような妖怪に狙われていてね。まあ理由は、見に行った方がいいのかもしれない。あいつが住むのはちょうどここ、サクラの街の外れに家があるから行ってみようか」
猿鬼ってどんな妖怪だったっけと思いつつ、猿鬼が住んでいるであろう場所へと行ってみることになった。
◆
サクラの街から離れたその先は大きな岩がたくさんあり、それになぜか登る羽目になる。なぜ道があるのに岩を登らなくちゃならないのと、登っていたら風葉が手を貸してくれてその手を取ろうとした時。
体がふわんっと浮いた状態で頂点に辿り着いたのだ。
「彗、その力があるんだったら俺たちにもやれよ」
「男子はやらない主義でね。女子たちはこういう場が苦手だろうから手伝ってあげただけだよ」
「むかつく」
「まあまあ落ち着きなよ、風葉」
永遠に言われ風葉は余計に拗ねてしまって、まるで子供を見ているかのように私たちは笑ってしまう。そしたら風葉は照れ臭くなったのか、先へ行ってしまった。
「足元気をつけるんだよ」
彗に注意されてすぐに風葉はズコッと転けて、全くと実際は笑いを堪えてそうな彗は風葉のところへ行き傷を癒してあげる。
「あのさ、どうして道があるのに岩に登ってまで通る必要があるの?」
琴音の質問に彗は絆創膏を思いっきり貼り付けてしまったことで、風葉は足を抑え声を上げたいようだが上げない理由。それは向こう側から何かが見えたからだ。
「見えるでしょ?あれに遭遇すると厄介なんだ。僕たちは平気でも、美星たちはまだ生死の狭間にいることもあるから、危ないけどこうやってあれから避けているんだ」
あれというのは妖怪でもなく、人でもない。ただのロボットのようにも見えるけれど、追跡ロボットのような役割をしているらしい。
「あれも妖狐が作ったの?」
「いや。一度、白夜に聞いたことがある。あのロボットはお前のかって。そしたら何も知らないって言ってたから調査はずっとしてる。ただ何も情報が掴めていないからどうすることもできなくってね。妖怪たちもあれをみると避けてるし」
そのロボットを見て私は何かを知っている。そんな感じが出てきて、せっかく頂点に来させてくれたのに私は岩から降りた。
「美星何やってるんだよ!」
風葉に注意されながらも私がその道を進むとロボットがこちらを向いてこっちへと来る。危ないと彗が止めに入ろうとした瞬間のことだった。
ロボットが変化をして小さな妖精が現れたのだ。ケホケホしながらやっと会えたと小さな妖精が言う。
手のひらを出すと小さな妖精はちょこんと座り、初めましてと自己紹介をしてくれた。
「初めまして、和吉は星雲と申します。ロボットに姿を変えていたのは訳があるんです。それは君がつけているペンダント」
「ペンダント?」
そうですと言われそもそもこの世界にこんな妖精がいるだなんて思いもしなかった。
「美星のペンダントを奪うんだったら断固拒否させてもらう」
「和吉を疑う気?」
「そうじゃない。星雨が本物かどうかを見極めさせてほしい。あの時、確かに君はすみれが戻った瞬間に消えた」
「わかりました。彗がそこまで言うならお相手致します」
すっと私の手のひらから立ち上がり飛び、私はいつの間にか風葉たちがいるところへと戻っていたのだ。
何をするんだろうと下を見ていると風が一気に強くなり、吹き飛ばされそうな勢いのように木々たちが揺れている。ただ彗の力なのか私たちは普通に立っていられた。
「すげえ力だな。彗がやってんだよな?」
「いや、あれはおそらく小さな妖精の力だと思う」
「妖怪の次は妖精に会うだなんて、ここは一体どんな世界なの」
「彗……」
風の力を試しているのかしばらくそれは続き、早く弦くんのところへ行かないとじゃないと待っていたら風が止む。彗は風の力を使ってこっちへ戻って来た。
「お待たせ。星雨なのは間違いはなかった」
「ほら、和吉を疑って」
「ごめん。それじゃあ歩きながら説明してもらおうか?急がないと連中が来るかもしれないからね」
連中とは妖怪のことだろうと認識して、星雨の話を聞くことに。
母が戻って来た同時に星雨はペンダントの中に閉じ込められていたそうだ。いくら出ようとも扉などはなくペンダントの中をぐるぐると回っていたらしい。
「え?ペンダントの中に?」
彗が不思議そうにそう尋ねると星雨はペンダントの世界について詳しく教えてくれる。
「ペンダントがなぜ奴らに狙われているのか、その意味がペンダントの中にあった」
「何があったの?」
「とてもじゃないけど、最初は吐き気がしそうな勢いだったよ。本来ならばそのペンダントは即処分すべきもの。その中は、行方不明にな、こちらで死した人たちが生贄となってこの世界を繋ぎ合わせている」
その言葉を聞いて私の質問に司令官の言葉が過ぎる。
〝その質問には応える必要がない〟
死した人たちのお墓とか存在するのではなく、全てが消えるから何も応えられなかったとしか言いようがない。おそらく、私のお父さんもこのペンダントの中で眠っているんだとペンダントを握った。
「そこに私のお父さん見なかった?」
「んーたくさんそのペンダントにいましたから、覚えてないです。ゾッとするほどいたの覚えてます。美星がこっちに来た時、和吉は出られたようなもの。ありがとう」
お礼を言われるほどでもないけれど、このペンダントにいる人たちをどうにかして助ける方法ってないのだろうか。あれ夜中、彗が言った言葉。
「えっ?この前教えてくれた時は、壊せないからお母さんが持ってたんじゃ」
「ごめん。本当は忘れるだろうから嘘をついてた。だけど君たちはこのペンダントを持って、必ず帰る。だから本当のことを伝えたい。ただ……」
彗は真実を実は伝えたいような表情でも、まだどこかで心の整理がついていないような表情を出していた。
「もう少し待っててほしいんだ。すみれの気持ちはなんとなく察していたよ。すみれがずっと泣いている理由。それも踏まえ伝えるにはまだ僕らの心の準備が整っていないからだ」
やっぱり、私たちが来たことで心の整理がついていないことを知り、私たちは何も言わずただ首を縦に動かす。彗は申し訳なさそうな笑みを浮かべ、ありがとうと私たちに告げ先へ進んだ。
◆
到着すると猿鬼が多く警備が入って私たちは体制を低くしながら様子を伺っていた。あの状況だと突破するのは難しそうで、どうするんだろうと彗の顔をみるとなるほどねと呟く。
「弦はあそこにいる感じなの?」
「いや、警戒を抱いているのは確かだけど、僕ではなさそうだ」
「どういうことなんだ?」
「それは後でのお楽しみってことかな。星雨、少し猿鬼たちを驚かせてもらえる?」
元気よく返事をして、ロボットの姿となり猿鬼たちの方へ進むと、奴が来たと逃げていく猿鬼たち。
「ロボットを怖がってるとかなのかな」
「違うよ、美星。星雨が追い払っている間に中へ入ろっか。但し、見つからないように気をつけよう」
そうは言ってもすぐ見つかりそうと思いながら、私たちは猿鬼の敷地内へと入った。星雨が追い払ってくれているおかげでスムーズに建物へと入ったけど、明かりが多少暗い。
止まれと言う合図に私たちは足を止め、見てご覧と言われたからその先を見た。その姿は猿というよりゴリラのような筋肉をしている。
「あれが猿鬼のボス。……あれは」
様子を見ていたら違う道から弦くんらしき人物が現れ、琴音が行こうとしたから永遠が止めに入った。
「永遠」
「弦なのはわかってる。だけどここで無理に行っても、弦は抵抗するはずだよ。今は様子を見るのが大事」
「だけど」
「永遠の言う通り。ただ妙だな。こんが言った言葉が引っかかる。追跡次第、あの猿鬼に連れて行く予定と聞いたのにな。二人の気配がしない」
どう言うことなんだろうと考えていたら、弦くんはその猿鬼にお辞儀をして行ってしまう。妙だと感じた彗は堂々と猿鬼の前に出ちゃったのだ。私たちはその場で様子を伺うことに。
「久しぶり、猿鬼のボス」
「敷地内に入っていたのはわかっていた。何のようだ?」
「さっきのって弦だよね?どういうことなわけ?」
「ふん。おい、そこで隠れてるだろ?何もしないから出てこい」
完全にバレてると思いつつ、私たちは隠れていた場所から出て彗の隣に立つ。猿鬼は椅子から立ち上がりついて来いと言われたから渋々ついて行くことになった。
疑問に抱いた風葉は彗に問い正す。
「おい、本当についてっていいんだよな?」
「大丈夫っしょ。ただ、白夜が手懐けている二名より、早めに弦くんを引き取らないと後々ヤバそうな予感しかしない」
「気になってたけど、手懐けている二人って桜木家の双子でしょ?」
「さすがは空畠家の人間だね。そう、僕と同じ年に来た双子。鼓と琵琶だよ」
空畠家である永遠であっても、そこまで詳しく調べていただなんて意外すぎた。永遠はやっぱりと口にだし何かを知っているような感じだ。
「琴音、お母さんから聞いたことある?おじさんとおばさんについて」
「ううん。おじさんとおばさんがいるって教えてくれたけど、深くまでは教えてはもらってない」
「琴音に言っていいのか正直言うとわからない。ただ、仮に弦くんと関わってるような気がするんだ」
弦くんがおじさんとおばさんに関係しているのと私と風葉はポカンとしていたら彗がそう言うことかと何かを閃いたようだ。
「白夜のやつ、余計なこと言ったことで、弦がこちらに戻って来てしまったのかもしれない。とにかく弦と話そう」
理解できぬまま私たちは猿鬼たちについて行くと大広場に着き、そこでは猿鬼が鍛錬を行なっていた。その中央には猿鬼に指導されている弦くんがいる。
弦は猿鬼のボスに聞いたのだ。
「弦は自ら望んだことで間違いはない?」
「あぁ。おじさんとおばさんを連れて帰るとな。何度言っても弦の想いは強かった。あれが例え偽り話であっても、弦は信じきってる。だが……」
「猿鬼のボス、僕から直接、姉である琴音に話す。だからお願い。気が済むまで弦の好きにしてあげてほしい」
「取引ということか?」
「もちろん」
承知したと猿鬼のボスはさっきの部屋へと戻ってしまい、どういうことなのと琴音が少々怒っている。彗は一度弦くんの姿を見て、こっちと言われたから弦についていった。誰もいない場所へ行き、そこに木箱があったからそこに座る彗。
私たちも木箱に座ったことを確認して、彗があることを告げられた。
「本当はこんなこと言いたくはないんだ。だけど再び訪れてしまわないように伝えとく。二度来た子たちは四十九日ではなくその半分、二十四日と半日までに帰らないとここに閉じ込められてしまうんだ」
「待って……帰って来なかったのはもしかして……」
「考えたくはないだろうけど、毎年ここに訪れていたとしたら帰れる日にちは削れているはず。本来ならば今すぐにでも家へと帰したいのが僕の願い。それでも弦は諦めないと思う」
「話させて。妖狐が言った言葉は嘘なんでしょ?」
「話しても無駄だと、琴音!」
琴音は弦の言葉を無視して我慢していたようにここから立ち去り、さっきの大広場へと引き返す。
「彗、弦くんが帰れる日数って?」
「言いたくないけど、帰れる人たちの日数が頭の上に表示されているんだ。弦くんが帰れる日数は残りーーー」
◆
風真の実家である山を全体に捜索している中、私は風真と剣道をしていた。久しぶりにこうやって剣道で体を動かすのはいつぶりだろうか。
「どうした?もう諦めたか?」
「風真も息を切らしているではないか」
「仕方ないだろ。学生時代と体力は全然違うんだから三雲刑事」
「私はこう見えて体は常に鍛えている方なんだがな。まあ捜索してもあの子たちを見つけられないからこうやって風真と久々に勝負できて嬉しかった」
俺もと風真は剣を元の位置へと戻し、私も戻して剣道場を後にする。風真のご自宅で着替えをし居間へ入ると花咲さんがいらしたのだ。
「花咲さん」
「俺が呼んだ。まあ花咲さんは経験者でもあるからだけど、三雲が一番知りたい情報がある。ついて来てくれ」
なんだと思いながら私は風真の後をついて行き、家の後ろっかたにある蔵へと入った。埃が舞う中、風真はある和装本の一冊を取り、私に渡してくれる。
表紙にはハーメルン事件記録と書かれていたのだ。
「これは……?」
「わしゃの時代から始まった事件じゃよ。わしゃの時代では生き残ったのは紛れもなく、わしの家系、星月家、空畠家、桜木家のみ。それ以外のみなは怪物によってやられてしもうてな」
「花咲さんも経験者だなんて……。だとしたらこの件をずっと追って来たのは」
「然様じゃ。この件に関しては、誰にも解けぬ事件。鍵となるのはわしゃたち四家のみなのじゃよ」
信じられない事実に、多少は親父やおじたちに聞いていたが私たちがこんなに関わっているとは思いもしないこと。
「原因はすでにご存知なのですか?」
「うむ。おそらくじゃが、星月家の秘宝と呼んでいたペンダントじゃろう。わしゃの時代に突如、星月家の者がペンダントを手にしたことが原因により、事件が起きたようなものじゃ」
「そこには所有地の山で、発見した石を手にした瞬間、呪いにかかったような現象が起きたそうだ。その影響によってこの山は呪いにかかったように、毎年の夏に行方不明者が多数起きている。行方がわからず、花咲家と空畠家は刑事となってこの件を内密に調査をしていた。まあ俺の家系と桜木家は後継が必要だったから二家に任せ、情報を共有してもらっていたこともある」
父さんは私にこの情報を教えてはくれなかった。なぜなのかはあの人の考えで言わなくてもいいだろうと判断したのだろう。
「これを少し読ませてもらってもいいか?」
「署に持っていかないのなら何時間でもいていいよ。ちと仕事してくるから」
そう言った風真は蔵を後にし、花咲さんは棚にある和装本をとって、読み始め私も貸してくれた一冊を頭にいれていった。