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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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受け入れられる異端者

 わたくし、アサヒ・タダノは本が好きです。

 幻想の世界の王子様に憧れる夢見がちな少女を連想されることが多いのですが、実家で散々な目に遭ったせいなのか、物語はあくまで物語と割り切った形で楽しませて頂いております。



 兼ねてより、わたしが転生者というものではないかと疑われていました。

 誰かの生まれ変わりであり、前世の記憶や能力を保有している。人生二度目だから何事も上手く事を運ぶことができるのだ、と。


 転生者という言葉には複数の意味があります。

 一つは過去の人物の生まれ変わり。もう一つは未来の自分が過去に戻ってきたやり直し。さらにもうひとつ、魂が別の世界の記憶や知識を持ち込んでしまう、いわゆる異世界転生。


 その歳では考えられぬ貪欲な程の知識欲と洞察力。特別学級という手の付けられない人間を同じ立場に居ながらにして取りまとめる実績。対処できる人間への丸投げという数々のトラブルへの上手な対応。そして自らの願いをそのまま形にできる原初の魔法に最も近い形の魔法。

 自分のしてきたことを並べてみればそう考えるのも不思議ではありません。常識を逸した言動をしながらも物事をスムーズに動かす潤滑油のような存在が目の前に現れたら、わたしでも同じことを思うでしょう。




 転生者であることは否定できません。ひとつの世界で総量が決まっている魂の循環、輪廻転生という宗教的な考え方に則れば、この世の全ての存在が転生者です。

 異端とはむしろ、その循環に組み込まれていない事にあります。疑うのならば異世界からの来訪のほうでしょう。


 自分が自分ではない誰かだったという記憶はありません。

 印象に残る本を読んだ後にその物語の登場人物として行動したり考えたりする夢を見ることはあります。でもそれは自分ではない誰かとして人生を歩んだ事にはなりません。

 それに、わたしの願いを形にする魔法には前例がない。発見から一年以上経った今もどう分類すべきかの議論が続いています。このことは過去の人物が能力を引き継いで現世に現れた可能性を否定できます。

 得を積んだ実績から二周目のボーナスとして特異な能力を付与されたというのなら、その辺の記憶を残しておいて欲しいです。


 転生者ということを証明する手立てがないのと同時に、そうではないことを証明する術がありません。

 特異な考え方などすこし考えればいくらでも思いつきます。正解は一つでもそれに至る道程は一つじゃない。知っている知識だけでなく、知らない事で発現できる考え方もあります。逆転の発想です。

 そういう柔軟な発想は転生者にしかできないという凝り固まった考え方はしないで欲しい。それは結論の為の論理武装です。


 何らかの意図があってそう指摘すのでしょうけれど、仮に生まれ変わりであったとして、何が問題なのでしょうか。 

 既に終わってしまった人生の記憶を有しているのが何だというのだ。人生は一度きりであり再チャンスはあってはならないのか。物事を丸く収める能力を有してはいけないのか。恋にうつつを抜かし成就の為に東奔西走して何が悪い。


 読切作品が連載を得るように区切りの付いたものに続行が認められたんです。単行本百巻を超える大ベストセラーになる可能性を秘めているのです。いいではないですか。 






 それでは、本日のお客様をご紹介しましょう。

 この春、宿舎のわたしの下の階にお入りになられた一年生の女の子です。後輩とはいえわたしより年上。背丈も身体の成長具合もいい感じ。二人並んだら間違いなくわたしのほうが下と見られるでしょう。



 いま、彼女はわたしの部屋の椅子に縛り付けてあります。

 今日はわたしの部屋で特別学級の女子二人とお姫様による女子会なのですが、始まるのと同時にこの子が窓から飛び込んできました。

 どういった理由か分かりませんが非常に興奮した状態であり、心苦しいですが身体を拘束しておかないと周囲に危険が及ぶため、やむを得ずこのような形を取っています。マツリさんを怪我させてしまったら斬首台に立たされてしまいます。


 そんな縛られた彼女を囲むのは、わたし達三人と、音を聞いて心配してくれた、同級生と勘違いした同じ階の下級生達。


「正体を現せくそばばあ!」 

「先輩を悪く言ってはだめよ。」


 拘束から逃れようともがく彼女曰く、わたしのように幼い娘が自分よりも先に魔法を学んでいるのが許せないそうだ。

 自分は苦労を重ね初等教育を終えてようやく両親に認められてこの学園に入ったという。自分がそうだったのに、そんな苦労も知らずに通う者がいていいはずがないと憤っています。


 彼女は考えた。昼も夜も考えた。初等学校では開校以来の才女と褒めたたえられ自信にもなっていた成績優秀な頭で考えた。自分が持っている知識や常識が間違っていないか本棚をひっくり返すほど考えた。

 その深く長い思考の結果、アサヒ・タダノは魔法で色々ごまかす人物だと思ったのだという。


「先輩には先輩なりの事情があるのよ!」


 後輩達に弁護してくれるのは嬉しいですが、先輩と呼ばれるのはどうも小恥ずかしい。そんな状況ではないのですが顔が綻んでしまいます。


「身体は若くても中身は別物だ! 皆騙されるな! こいつは転生者だ!」


 ここで、久しく聞かなかった単語を耳にすることになりました。

 退学だ幽閉だと騒がれたのであまりいい思い出はありませんが、それでも懐かしい響きです。

 わたしだけが響きを懐かしむ中、他の皆は訝し気に皆それぞれ顔を見合わせます。部屋が静まり返り、椅子に拘束された彼女は勝利を確信した笑みを見せます。


 まるで罪人を糾弾するような言いぶりから、合点がいきました。

 彼女、どうやら転生者とは即ち悪人であるとお考えのようです。


 魂の循環の理から外れてしまったのが生前の罪に対しての罰と考えれば、犯罪者であると定義できるでしょう。

 そういったスピリチュアルな面を除外しても、常識外れの言動や既存の思想から外れている者は異端な存在です。コミュニティを守るには排除すべきと考えるのは不自然ではありません。

 考え方は間違っていない。だがそれがこの場に通用するかどうかはまた別の話。


「それが何か?」

「いや、だから、転生者だぞ?」


 恐らくは、言うこと聞かない悪い子を食べてしまうような恐ろしい存在として教えられてきたのでしょう。無条件に悪いもの、怖いものとして語る彼女とわたし達とでは認識が噛み合いません。


「そんなのどうだっていいじゃない! アサヒさんはアサヒさんよ!」


 ナミさんによる無茶な理論もこの場では心強い。

 そうだ、関係ない。前世で何をやらかそうと、それは今の自分の構成要素に含まれてはいないのです。


「転生者がどうしてダメなのか、教えて貰ってもよろしいでしょうか?」


 ナミさんに続き、中腰で目線を合わせたマツリさんに覗き込まれます。金髪碧眼でこの場の誰よりも存在感のある先輩に睨まれて、階下の女の子は震え上がりました。


 彼女の思う転生者がどんな存在か、わたし達が知ったところで今の事態の解決には至りません。

 襲撃してしまったのは事実。罰は受けなければならない。そんな状況でマツリさんが彼女に問うのは罰を受けた後の立ち振る舞いです。

 既に先のことを見据えているその感覚は流石です。わたしではそこまで考えるに至れません。



 物語の中でならば、異世界転移した後にその世界の常識を超える力を有して好き放題やる悪役も登場します。しかし現実ではそんな頭一つ抜けた能力を発揮するにはそれに見合う努力が必要ですし、誰かの生まれ変わりを自称する事が恥ずかしい行為と見られています。相当な実力でなければ偉人の生まれ変わりは認められないでしょう。

 もしかして、彼女は現実と空想を区別できないのでしょうか。学校一の才女が、そんなばかな。



 結局、転生者かどうかは問題にすることでもない。そんなのはどうでもいいという結論に至りました。

 拘束から解放された彼女は完全に納得したとは言い難い様子でしたが、今回の暴挙に対しての謝罪は確かに受け取りました。先生への報告はなるべく緩い形にしておきます。



 その後は、折角なのでというマツリさんの提案で、この場に居る全員での女子会が開催されました。

 転生者という呼称、叫ばれた当初こそわたしやクロード君に対しての悪意のある疑惑だったのですが、それは友人との楽しい語らいの話題と変わり果てていました。

 最初に言い出した人物は既に学園を去っていますので、自身の思惑が外れて悔しがる姿を見れないのは残念です。


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