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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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お父様の襲来

 アサヒ・タダノはトゥロモニ・ワラシに非ず。

 その結果を持って魔法使いは依頼主の下へと帰って行きました。


 わたしを卑怯者と罵ってくれた魔法使いの皆様は、学園都市が用意した台本通りに動く運びとなりました。

 学園は落ち目だけど潤沢な資産がある。一時の依頼金ぐらいならば出せると理事長が太っ腹な事を言いだして、連れ去り依頼を上回る報酬を前金として提供してしまったのです。

 名声など一時のもの。拠点を変え活躍すれば何とでもなると、皆様は本当にあっさり鞍替えしてしまいました。


 未遂に終わったものの、強引な連れ去りを考えもせず実行したことの謝罪を受けました。

 その謝罪は受け入れます。でも対面で頭を下げるという申し出は勘弁頂きたい。

 間合いに入った瞬間手の平を返して連れ去る可能性を除外できません。先生達が傍に居てもそれは覆りません。



 実家の状況についてはどうでもいいです。

 こちらを必死に引き戻そうとする程の何かが起こっているのは確かですが、どうでもいい。


 学園都市で実家とは無縁の第二の人生を謳歌しているわたしにはもう関係のない事。仮に大罪を犯したとて、犯した罪は当人がその身をもって償うべきだ。彼らに支払い能力が無くなったからと言って既に縁の切れた娘から取り立てようなど考えぬことだ。無関係の他人がやった事に何の責任も無い。


 実家にあるたくさんの本を読んだことがわたしの人格形成になったのなら、それを感謝すべきと仰る方もいるでしょう。

 しかし屋敷にあった書物は祖父の物。わたしが産まれる前に鬼籍に入った人物なので、屋敷の物は全て現当主の父に所有の権利がありますが、集めたのは祖父だ。遺品整理で本を処分せずにいたのは間違いないけれど、感謝の対象は断じて父ではない。


 親に対してそういう考えをすべきでないと窘められた時の言い訳を考えると、思い出したくない実家の事を思い出すことになる。思い起こせば、すぐに踏み潰された花壇の光景を思い出してしまいます。ああ腹立たしい。


 花壇の花で思い出しました。

 誕生日に頂いた花の球根は、大きめの植木鉢に植えました。あの花壇に植えていたものと同じ花です。

 こいつは人間たちの騒動などつゆ知らず、窓際で陽光を浴び、気温の上昇と共に芽吹き始めています。快適な環境を与えられ、本人が思うがまま伸びる事ができるのは幸せだと思います。余計な病害虫が無いまま咲き誇って欲しいと願います。





 学園を通さずして取り返すことが叶わぬと見た実家の次なる一手は、なんと授業参観。


 あの男は自分の子を通わせる学校の選定のため、学園の見学がしたいとの申し出をしてきました。わたしは一人っ子だったはずで、この一年以内に仕込んだのか、それともわたしが知らない腹違いの弟か妹が居たのかは定かではありません。なんにしろその見学理由は方便だ。直接見てわたしを見つけ出すつもりなのだ。


 正式な申請が来た以上、どういう相手なのかを知りながらも学園では断ることができません。

 直接顔を見て話せば変わるものがあるだろうという狙いでもあるのでしょうか。

 家族だった相手のしつこさはサワガニさんや貴族の息子以上で驚きです。何が彼をそこまで駆り立てるのでしょう。



 先生はほぼ無条件でわたしの味方についてくれます。

 わたしがその人物にどれだけ痛めつけられたのかをご存知です。話し合いで解決できると思っているほどお花畑思考は持っていません。今すぐには埋められぬ溝がある。心変わりから和解することがあるかもしれないけれど時期尚早だ。今ではない。


 お父様がいらっしゃることを知ったのは全てが決まった後だったと、先生に土下座されました。

 新学期早々に授業参観の申し込みがあった。誰が来るのかと思いきやトゥロモニさんちの旦那様だった。

 クロード君のいる学級が見たいとのご要望に応え、担任である先生を差し置いて既に時間まで決められてしまっていたそうだ。


 連日の騒動からどんな企みで現れるかなんて考えるまでもありません。

 狙いはクロード君の活躍ではない。同じクラスに居るであろう実の娘と同じ名を持つわたし、タダノ氏だ。



 先生は、こちらで何とかしてみせるから、その日は休んで良いと仰いました。

 ですが、お言葉に甘えて部屋に隠れているは多分よくありません。特別学級の皆は絶対にわたしを褒めちぎるし自慢する。バカにされれば当然のように反論する。本来落ちこぼれるはずの者がそんな持ち上げ方をされたのでは気になるだろう。下手に隠せばさらに面倒な事になりそうな予感がする。いや、あのお父様の事だ。確実に何か起きる。


 肉親がこの学園で何かしようものなら自分が始末をつけます。

 身内だろうが私の平穏を脅かすのならば容赦するつもりはありません。

 覚悟の上で、その日も出席すると先生に告げました。




 その日、その時間、お父様はお屋敷でわたしの前に現れた時のままの風格でわたし達の後ろに立ちました。

 様々な思い出が頭をよぎります。忘れたいのに忘れられない、隕石と共に地球という星に落としたくなる忌まわしい記憶です。


 恨みや怒りの感情が噴き出さぬように、予め先生に感情を穏やかにする魔法をかけてもらいました。

 おかげ様で、そこに現れた人物が父だと理解できたのに、まるで他人がそこに現れたかのようにしか感じません。ひどい頭痛が痛み止めの薬一粒で収まったかのように自然な落ち着きを維持できています。


 クラスメイトの言動が不自然にならぬよう、外部の人間がわたしの姿を誤認する魔法もかけて頂いてます。

 お父様から見れば、わたしは特別学級の五人目は黒髪を左右の三つ編みにした丸眼鏡という地味なそばかす少女。いかにも文学女子という出で立ちです。

 この誤認魔法、本来は血縁には効果が無いという性質を持っているのですが、先生の力添えでその特徴を逆転させたので、今に限っては血縁にしか効果がありません。それで十分です。


 今日、学園内に入ったのはお父様一人だけ。手荷物のチェックや盗撮の防止も行った。なんなら生徒に危害を加えた際に膨大な賠償金を払う契約書にもサインした。わたしがそうだったので、未知の魔法を使っている可能性も探られた。

 今の彼は無力。ただのトゥロモニ家当主の冠を持つだけのヒトとなった。


 さあ授業の始まりだ。この難題、無事に乗り切ってみせましょう。




 何事もなく授業を終えて、ようやく解放されると思いきや、お父様から生徒への対談を申し込まれてしまいました。

 二人だけを求められたのだけど、感情一つで魔法が暴発する危険な生徒だからと理由をこじつけて、先生が傍に居てくれます。


 なにが生徒から直接話が聞きたいだ。クロード君でいいだろう。なぜわたしなのだ。

 誤認魔法は解けていない。わたしは今も黒髪地味文学少女。アサヒ・タダノという名前以外に本物のわたしとは共通項が無い。

 相談用に設けられた狭い部屋で、お父様はそんなわたし達に頭を下げました。


「会って直接謝りたかった。」


 似た名前の人物を自分の娘と勘違いし、誘拐じみた事を実行した事への謝罪でした。

 ただひたすらに体面を守ることばかりしていたこの男が謝罪できたことに驚きです。過去の行為への謝罪なのかと驚いてしまいましたが、わたしをわたしと認識できていないのでそれは無い。実は気付いていても謝りなどしないでしょう。


 学園での生活はどうか、教師との関係は、友人は何人できたか。

 もっともらしい質問が投げかけられますが、お父様はわたしの答えを聞いていないようです。


 やっぱりだ。

 この男は子供を人間として見ていない。我が子の話を聞こうともしないのに、他人の娘の言葉など聞くに値しないのだろう。もしわたしがわたしだと気付いていて、本当に心から心配しているのなら今の話は聞き流すべきではない。親の手を離れても上手くやっていると喜ぶシーンのはずだ。

 話している間、わざとらしく腕を組んで考えるフリをしていたお父様が、提案があると話を切り出しました。


「今日一日見て私は君が気に入った。そこでなんだが……」

「お断りします。」


 わたしには次に何を言おうとしたのかすぐに想像が付きましたので、お父様が何か言いはじめる前に切り捨てました。

 突然の変りように狼狽えて、何も言ってないと言うので、聞いてから、もう一度お断り申し上げます。



 この男、アサヒ・タダノを養子として家に連れ帰るつもりだったのです。

 アサヒ・タダノが実の娘であれば僥倖だが、そうでなくてもいい。学園都市から娘を連れ戻したという物語の恰好が取れる。それほどまでになりふり構っていられない事情がおありのようです。そこまでして娘を取り返したいのならば、なぜ屋敷に留め置かずに手放したんだ。ああ苛立たたしい。腕を雑巾のように絞り上げてしまいたい。


 わたしの明確な拒否の後、師弟関係と魔術回路の継承途中の為に学園から離れられないカバーストーリーが先生の口から告げられて、目論見が大きく外れたお父様は肩を落としました。

 養子として引き抜くのが容易だった時代もあったんでしょうけど、今は違う。


 先日かけられた、親御さんと会えば考えが変わるかもしれないという言葉に反論しましょう。ありえません。

 コイツとは絶対に分かり合えないと再確認できました。ありがとうございます。

 感情を穏やかにする魔法が解け始めていましたが、そのまま別人として演技は続けます。役者への道は考えていないけど、物語の登場人物になりきって本を読み進めることなら朝飯前です。





 その後、先生から今回の騒動の落とし前の付け方を決める場にするという宣言が為されました。

 加えて、貴方の娘の事情は知っているが勘違いで学園都市の治安を掻き回すのは迷惑だと告げて貰います。

 わたし達の考える事は一緒だけど、この男に子供の言葉は届かない。だから大人に言ってもうのだ。


「親が子を心配して何が悪いのだ。」

「ここにはここのルールがあります。外の理屈で掻き回して良い理由にはなりません。」


 父は血を分けた子への愛を語り、先生は今回学園が受けた迷惑行為とそれによって発生した総額を事務的に述べていきます。

 今さら愛など語ったところで薄っぺらいなと思いながら聞いていましたが、話が噛み合いません。お父様は自分が指示したことで起きた学園都市の混乱などどうでもいいと思っているようだ。いや、どうでもいいのではない。損害があったと思っていない。正しく認識できていないのだ。

 先生の話は理論整然としています。具体的な数値が何を意味するか分からないわたしでも、何かとんでもないことを仕出かしたと理解できます。この男はわざと話を逸らそうとしてるか、それともバカなのか。



 結果は学園都市側、先生の完全勝利。

 口頭による議論が平行線のまま進行し、お父様が話にならんと席を立ったのが決め手となりました。


 学園都市は被った被害の賠償を求めていて、トゥロモニさん側はどうやって補償すべきか話を詰める為の会議に切り替わっていた。それはわたしも聞いていましたし、宣言の瞬間から音声として記録もされています。

 席を立つという事は、議論しないということ。相手の要求を全面的に受け入れる無条件降伏なのです。言葉にも熱が入り真っ赤になっていたお父様の顔が真っ青になりました。ヒトはここまで顔色を変える事ができるといういい見本を見せて貰えました。


「もちろん態度一つで物事は決定しません。思い直すのであればおかけください。」


 しばらく続いた問答の後、学園内で諍いを起こさぬようにと用意された、約束を違えると多額の賠償を請求される契約書に新たな文字が書き加えられました。

 トゥロモニの者は直接的、間接的問わずアサヒ・タダノとは関わらない。契約書の効力は金輪際。

 魔法使いとの契約がどれほど恐ろしいものなのかを理解していないようですが、禁を犯した報いを受けようが受けまいが、わたしは知りません。




 こうまで必死なのだから、一年離れてなにか変わったのかと雀の涙ほどには期待していたのですが、無駄でした。

 お父様は何も変わっていない。平気で娘を傷つけて、花壇を踏み潰すような酷い男のままだった。


 父との再会はこれでおしまい。

 目論見が崩れ去り、力なく去っていく父の背をわたしは残念な気持ちで見送りました。


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