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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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アサヒ・タダノの反抗期

 学園都市の治安は良いほうだと思っています。

 学生が一人で出歩いても犯罪に遭遇する機会がほとんどありません。


 確かに休日ごとに子供が減っていく等の怖い話や、生徒を使って人体実験を行っているという噂話もよく耳にします。

 ですがそれは自然な流れ。他にやりたいことを見つけ自立する者はいます。問題行動を起こし退学になったり成績が悪く期末試験を超えられず学園を去る生徒も多くありません。実態を知らぬ立場からは、それが忽然を姿を消したように見えるのでしょう。



 気候の変化、特に暖かくなる春という季節は不審者が増えます。

 活動のしやすい環境に変化したことで、永遠に引きこもっていたほうが全人類への貢献になるような御方も動き出してしまいます。


 治安は良いほうではあるのですが、それは誰かが最悪の事態を回避するために手を打っているからです。

 わたし達が守られているのは数多く居る警備の大人達と、学園都市の維持魔法を扱う理事長と、呪文一つで都市全体の情報を掌握できる先生のおかげ。

 先生なくして学園都市は成り立っていないです。先生はすごい。





 春のトラブル増加祭りに対応している最中、ある目的の為に学園都市に侵入していた不審者の集団が捕獲されました。 


 この都市は隔離施設であると同時に、避難所でもあります。

 実家での教育や矯正が不可能と匙を投げられた者が居れば、不安定な情勢を考慮してその身の安全を保障してくれる学園へと移された者も居る。ナミさんのように進んで門を叩いた人も居るので全てがそうだとは言えませんが、ここは訳ありの人達が多いのです。


 そんな場所で、しかも運営している学園には無断での人捜し。

 捕まえて下さいと言わんばかりの軽率な行動と言わざるを得ません。探し人がどこに居るか目星は付いていて、接触を図る為に敢えてそうしたのだと言われたら信じてしまいそうです。


 不審者集団は宿代が払えず踏み倒そうとしたところで御用となりました。

 彼らは口を揃えて言ったそうです。自分達の国では皆無償の奉仕をしてくれる。赤の他人に助けられたのだから、自分も赤の他人を助ける形で恩に報いるのだと。

 彼らにとっては宿の主人が他の誰かに手厚くもてなされた結果がそのホテルであり、自分達はまだ奉仕を受ける番なのだそうです。

 それはそれで美しい考え方だと思うのですが、彼らはその身をもって世の中で生きるためにお金が必要だとは知らなかったという世間知らずを露呈する形になりました。



 みすぼらしい泥に汚れた衣類を身に纏い、全身が清潔とは程遠い出で立ちで、これは全て真の姿を隠す為の変装かと思う程。

 そんな彼らも身柄を拘束されて取り調べを受けるわけなのですが、翻訳の魔法が効果を為さなかったそうです。

 言語体系は翻訳されるものの範囲内にあると判断されてしまった。単純な話で、訛りすぎです。


「オラダヅ、トゥロモニサンドゴノワラスサガスニギダ。」


 証言の中に知っている単語が混ざっていた事でその方言に詳しい人物に招集がかかり、彼らの方言に理解が進んで不審者集団の目的が明らかになりました。

 彼らの目的は、学園に入学しているはずの人間の捜索。トゥロモニさんちのワラシなる人物を探しに来たんだそうだ。


 何を隠しましょう。その方言に詳しいというのがわたしであり、トゥロモニさんちのワラシ、つまり子供というのもわたしなのです。

 不審者達の名前を言い当てることもできます。彼らは実家の田畑を耕していた小作人たちです。雪も解けて耕作のシーズンに入ったと思うのですが、何故こんな遠くの街まで一度見捨てた娘を捜しに来ているのでしょう。



 小作人たちはわたしを見つけ出すことができず、その日のうちに強制送還の運びとなりました。

 次に寄越すならまず学園に連絡を入れろ、活動資金を持たせろという雇用主へのクレームも添付したそうです。


 彼らの身なりからどれだけ酷い扱いをしているのかがよくわかります。

 あの環境に従順になっていたら、わたしも同じ目に遭っていたことでしょう。魔法が使えて、学園都市に追い出されることになって本当によかったです。




 学園都市の窓口からお金を引き出してるからこの街で生きてるのは確信してるけど、どこに居るか分かんないから心配している。とにかく本人の手による連絡が欲しい。

 帰り際、トゥロモニの家の主人から、最愛の娘へ向けた伝言が残されました。


 あれだけ暴力を振るって全て自分の意のままに育てようとしておきながら何が心配だ。何が最愛の娘だ。幼い娘を本気で殴りつけて、身体を不自由にさせた男だ。子供を感情を持たない人形か自らの欲望のままに生きる動物であるかのように扱ってきた男だ。そんな人物がいったいどんな愛を語るんだ。鉄拳制裁も愛のカタチだと言うのか。大きな感情の揺れは即ち愛だとでも言うのか。

 そんなのは笑えない冗談だ。ふざけないで頂きたい。


 しかもわたしの身を案じていると言いつつ、捨てる前と同様に家の名に恥じぬ行動を心掛けよというのだ。口座残高を盗み見て、行動を逐次監視しようとしているなんてのはもはや気色悪い。

 それは地方の頭領である自分の名声に傷がつくのが怖いだけではないのか。わたしが今どこでなにをしているかなんて、調査の為に送り込んだ小作人が事件を起こすことよりも恐れる事なのか。



 実の両親との関係がもう終わったものと考えるなら笑い話にもできるけど、現在進行形では話が変わります。

 あの一族は、わたしのことをイジメ足りないのだ。わたしの成功なんて面白くない。上昇気流に乗ったわたしを地面まで強烈な一撃で叩き落したくて仕方ない。苦しむ姿を見たい。悔しがって机を殴りつけ泣き喚く姿を菓子袋片手に眺めたい。

 あの人達は、地位を追われドン底に落ちたプリンセスが王子に見初められ返り咲くストーリーをVIP席で観覧したいのだ。



 小作人たちが示したご恩と奉公を大事にする言動から垣間見えるのが、因果応報の思考。

 おまえはわるいことをしたのだから許しを請わねばならないというのなら、わたしが産まれた事であの家にどんな不幸をもたらしたのかを教えて欲しい。

 天候不順で収穫が悪かったか? 小作人の夜逃げが増えたか? 知事や行政から何らかの指導が入って今までの横暴ができなくなってしまったか?

 天候は人の力ではどうしようもない。夜逃げや行政指導は伝統ある人遣いの荒さを見れば入って当然だ。身から出た錆だ。そのタイミングで偶然産まれた新たな家族が全てを引き込んだと考えたところで何の改善にもならない。



 入学させてくれた恩など感じません。

 この学園への入学はわたしの意思ではない。他に行きたい学校があったわけではありませんが、親の一声で進学先を変えられたのと一緒です。

 それなりに大きな金額の銀行口座は手切れ金です。入学するにあたり、資金面での援助は絶対にないと告げられています。好きに使っていいが、必要な物を手にする為のお金であって一切の過不足はないと。



 血が繋がっているかどうかはさておいて、家族にとても愛されているのは幸せな事だと思います。優しく厳しく見守り育ててくれて感謝が尽きない関係を素晴らしいとも思えます。

 自分の両親や環境にそれを感じる事ができないだけ。してくれた事への恩を感じたくないという感情がある。


 ご恩と奉公はその狭い社会でのみ効力を持っているシステム。

 わたしはそのご恩が苦労に見合わないものと知ってしまった。外を知ってしまった。より良い場所を求め旅に出るのは悪ではないと本で学んでしまった。素晴らしいと感じる外の世界を超えるご恩を提示されない以上、井戸の中で一生を過ごす蛙になることはできないのです。




 一言でも、無事であることの連絡を入れたほうがいいのではないかという提案はお断りしました。


 無事であると確認したあの人達の次の行動が予測できます。

 直接話がしたいと一家総出で乗り込んで来るでしょう。母などは泣き崩れる演技で感動の再会を演出するはずだ。わたしは口下手です。隣に先生が居たとしても、過ごした時間は圧倒的に向こうのほうが長い。わたしを知り尽くしているし、なにより威圧感でわたしの首を縦に振らせる術を持っている。


 学園都市でのわたしの評価に感動するでしょう。見事更正を成し遂げたと諸手を挙げて喜ぶかもしれません。

 そして、トドメとばかりにこう言うのだ。


 「戻って来い、アサヒ。」


 わたしが一年も孤独を耐え抜いた子供であるならば、大粒の涙と共に首を縦に振るでしょう。感動の再会ストーリーがここに完結する。遠く離れ小さくなっていく学園の外壁を車窓から眺めるうち、ホウキに跨り追いかけてきた友人達を前に笑顔で手を振るラストシーンは涙なくして観ることはできない。エンドロールの横でアサヒが実家の庭先に足を踏み入れて、かつて踏み潰された花壇に咲くあの不思議な花を見つめるところまでが作品だ。「終」の文字が出るまで席を立ってはいけない。




 申し訳ないのだけど、そうならないのがわたしなのです。

 皆様が大切にしているものを否定するようだけど、両親や親戚は大事にすべきという前提はわたしには噛み合わない。


 この先あのトゥロモニ家にどんな不幸が舞い降りようと、わたしには無関係なのです。


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