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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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補習授業で学ぶもの

 補習を受ける事になりました。


 食堂倉庫の爆破事件での大怪我で休んでいた期間の授業単位というものが足りないそうです。

 確かに成績は優秀で試験も合格しました。それでもわたしの進級を許さないと申し出た教師が居るそうです。



 欠席の多い生徒は授業態度も悪く、それにつられて成績も悪く試験には受からないのは確かにその通り。

 結構な歴史を持つ学園ではありますが、授業を受けずにいて成績が良かった前例は今まで無かったと言います。


 わたしは食堂倉庫爆発事故による怪我の治療に入院し、退院後の自室療養を含め二週間ほど休んでいた期間がありました。

 先生が授業内容を変更して遅れの無いように取り計らってくれたので、その期間の補填が行われないままだったのがこの騒ぎの直接の原因となってしまいました。

 見通しが甘かったと謝られましたが、これも先生は悪くありません。前例が無ければ例外を認めないのが悪い。新しい価値観を認めない教師達が全面的に悪いのです。



 事前の対策もあって何事もなく過ぎ去ったのですが、わたしの欠席数が問題になった当初、成績の為に性的な関係を要求されたり等を疑われることにもなりました。

 学生にとっては人生そのものである成績を人質にうら若き身体を貪り食う鬼畜教師が現れて、地位を追われたという事件があったばかり。似寄った例があると見做されるのは自然な流れでしょう。

 




 一方的な告知で指定された日、補習の会場はいつもの演習場。

 本日教鞭を握るのは、わたしに「人を操る魔法を使った」とイチャモンを付け、学園都市の危機には誰かの提案を実現不能だと切り捨てることしかできなかったあの老教師です。わたしの出席日数に物言いをつけたのも、きっとこの人でしょう。


 集められた生徒達の中で、出席日数以外に落ち度のないわたしが場違いなのは言うまでもありません。

 魔法が使えないとする評判だけを考えれば居てもおかしくはないと感じるでしょう。しかし、特別学級は全員の力を持って進級試験を突破しています。何を言われようとその事実だけは覆りません。


 老教師の話は面倒臭い。学園都市に例えるのなら、駅から街を一周して全ての施設を巡った後に学園に辿り着くようなものです。

 路線変更や脱線も多くて正直眠くなりますが、今この場での授業態度も評価のうちに入れてきそうなので、我慢して聞き耳を立てていました。

 椅子なんてありません。全員起立のまま傾注させられているのです。わたし達は入隊したての新兵ではないのですが。



 さて、このご老公。長い長い話を終えたのち、今この場で全員を進級させるつもりは無いと、堂々と宣言してしまいました。

 演習場にはちょうど一クラス分、三十人が集められています。

 今から一対一で魔法による決闘を行い、この場で全員に順位を付ける。上から順番に自分の中での基準に見合う者を進級試験の合格者と認める。とのこと。


 ここで下の順位に収まったら進級試験の合格が剥奪されてしまうのでしょうか。それにこの数、もしかして、わたし、数合わせの為だけに…?



 人それぞれに得手不得手はあります。机に向かって勉強することだけができなかったり、自分以外の誰かが近い場所に居ると集中できない人も居るでしょう。それを一括りにまとめて競い合いに勝てなければ落第というのは大雑把だと思いました。

 つまらないトーナメント形式の対人戦でこの先の人生を決められてはいけません。これは個人的な、悪辣な趣味です。


 発言は許されていませんが、老教師からの説明の節々でどよめきが起きました。

 背の高さで並ばされたのでわたしは問答無用で一番前。振り向けばそれも指示に従わないという減点になります。後ろの皆様がどんな顔をしているかは確認できませんが、声色から様々なものが想像できます。


 個人的な感情が決定を覆すことなどできません。わたしへの物言いはこの場に居るだけで既に成された。ここから先の魔法武闘会での結果は何ら影響を及ぼしません。

 ルールに従うのであれば初戦敗退で追い出されることで早く帰りたいのですが、それはそれで老教師をつけ上がらせる要因にもなります。いつも通りの大人への不信と反抗期です。この老人の命令は聞きたくないと思いました。




 ゲームマスターへの反抗は、デスゲーム的なシチュエーションならば一番最初の犠牲者です。

 やりたくはありませんが、大人しく従って戦う事もしたくない。相手するなら一人だけのほうが楽だと判断し、ゲームをひっくり返すことにしました。


 質問があれば挙手しろというので、手を上げます。指示通り左手を挙げなかった事で無視されるかと思いましたが、ちゃんと指名してくれました。


「今ここで先生が倒れたら全員合格ですか。」


 生徒同士で戦うのではなく、老教師対生徒三十人の模擬戦は可能かどうか。

 何をバカな事をと鼻で笑われました。魔力だけでなく、長年積んできた経験も知識も圧倒的な差がある。何より老教師は学園では二人しかいない最強の魔法使い、魔導師だ。

 バカにされるのは思った通りの反応なのでなんとも思いません。魔法が使えないのに大口を叩くだなんてと、後ろの同学年たちにも笑われました。


「お前が一番になるのならば考えてやってもいい。」


 老人の趣味にお付き合いして差し上げなければならない義理は残念ながらありません。こんなことをしてるくらいなら先生の部屋を片付けに行ったほうがよほど有意義です。

 全員と戦ってる時間ももったいない。それに、老教師の出した条件では十五人抜きした後に大物と戦うきつい連戦になる。魔力の少ないわたしは長期戦は不利。

 この場で負けるわけが無いと自信があるのならば、ああだこうだと言わず相手してくれればいいんです。


「わかったのならさっさとクジを引け。同じ番号同士で戦いを……」


 せっかく用意していただいた対戦表と番号クジですが、使う必要がなくなりました。

 なぜならば、後ろの二十九人が全員失神してしまったのですから。




 生物は呼吸をしなければ死んでしまいます。呼吸のための空気は大気の中の酸素の割合が正常でなければいけません。酸欠という状態異常を発生させ、意識を失ってしまう。そのまま酸素が無い状態が続けば命の危険にも晒される。


 そこまで知っていましたので、今の一瞬だけ、この場に酸欠状態を作りました。わたし以外の全員が行動不能ならば全員を倒し一番になることにもなるでしょう。

 意識していない方向からの不意打ちという形になりましたが、わたしがやろうとしているのは両名名乗りを上げてからの決闘ではありません。それに、勝つためにはどんな手を使っても良いと仰っていましたので、今さら卑怯などと言いますまい。



 魔導師は、大きな杖を片手に後ずさり。

 今日集まったのは烏合の衆です。それに、何かしらの問題を抱える生徒であるからこの場に居る。打ち合わせもなしに全員ぶっ倒れるなどといった芸当はできないでしょう。


 歴戦の魔導師をこんな子供だまし程度の仕掛けで倒せるとは思えません。

 新米の魔女が、書庫で得た知識と学園で学んだものを全て賭して、もう一人の魔導師に挑むのです。先達の胸を借りるとはこのことでしょう。


「本性を現したな、魔女め!」


 わたしの後ろにはまだ二十九人の生徒が倒れているというのに、老教師は魔法を使ってしまいました。避ければ当たってしまいます。仮に全員落第させて退学に追い込もうと考えていたとしても、こうやって始末して失踪扱いにするのはよくないのではないかと思います。

 さっさと起きて逃げてほしいのですが、眠らせたわたしにも責任があります。彼らは客席のほうに寝せておきましょう。


 飛んできた水を見えない壁で弾き飛ばし、ついでに受講者達を避難させます。

 向こうから火蓋が切られたことで戦いが始まってしまいましたが、どういう形に収まれば勝敗がつくのかを決めていません。


 この状況はまずい。

 図らずして、暴れ出した魔女を止めるべく全力で立ち向かう教師という形になってしまいました。彼の魔法よりも先に二十九人を倒してしまったのはわたしです。

 考えるまでもなく、理事長と先生に向けて救援要請を出しました。面倒事に対処しようとしたらもっと面倒なことになってしまいました。すみませんが助けてください。




 全て弾き飛ばしていますが、老教師は構わずにどんどん魔法を撃ってきました。

 どれだけ大穴を開けても時間が経てば魔法で整地される場所とはいえ、魔法の余波で演習場の地面はひどい荒れ様です。


「爺さん止めろ! あんたが暴れたら演習場が持たん!」

「止めるなガキ共! 学園はワシが守る!」


 どこにいらっしゃったのか、上空から降ってきた理事長の制止も老教師には届きません。立場が逆転しても尚、人としての上下は残っているのでしょう。自分よりも年上の部下を持つというのはこういう苦労もあるんですね。お察しいたします。


 生徒に手を出した。許すわけにはいかん。悪の魔女に鉄槌を下す。

 つい先ほどまで生徒同士で潰し合いをさせようとしていた人がこれだけの転身を見せてくれるとは驚きです。いえ、これも彼のシナリオの上なのでしょうか。

 目の前で弾かれていく魔法を眺めながらそんなことを考えていたら、理事長からツッコミが入りました。たぶん爺さんはそこまで考えてない、とのこと。




 このまま何もせず、彼が疲れるのを待つのが最善手かと思いますが、理事長の言葉が事実なら、これ以上強力な魔法を放たれるのはおそらく危険。この空間を作っている魔法が解けてしまったら今踏んでいる地面の土が全て校舎になだれ込む。校舎だけじゃない。それなりの範囲が土砂に埋もれてしまうことになる。



「これでも効かないか、ならばこれはどうだ!」


 老教師が大きな杖を高く掲げると、彼を中心に、わたしの足元にまで届く巨大な魔法陣が展開されました。

 時計のように回る魔法陣に描かれている内容は、魔力を込めて増幅を増幅したものをさらに増幅。それをさらに強化させるためでしょう。加速させる呪文まで入っています。

 こんなに強化して何をするつもりでしょうか。いや、何かしてからでは遅い。理事長はまだ説得を図っているけれど、呪文の詠唱は全く止まる気配が無い。

 何だかよく分からないけれど、このまま魔法が放たれてしまったらまずい。取り返しのつかない事になってしまう。


「魔女よ、あるべき場所へ還れ!」


 杖の先がわたしに向けられ、強化に強化を重ねまくった魔法の槍はわたしの心臓を一撃のもとに撃ち抜いた――はずでしたが、何も起きませんでした。



 魔法を打ち消す手段として、攪乱魔法、魔力の吸収、反対の作用をする魔力をぶつけて相殺など、様々なものがあります。

 一瞬なのか、それとも引き延ばされた長い時間の中で考えたのか、その辺りはよく覚えていません。必死だったので。


 わたしは今、この場、この空間、この瞬間だけを限定して、魔法が存在しない世界を願いました。


 発せられた呪文はただの叫びとして響いただけ。足元の魔法陣も消えています。普段から肌で感じられる魔法の元ともいえる大気中の魔力も感じられず、湿気の無い場所に移動したときのように爽やかです。魔法使いではない普通の人間の感覚とはこういうものなのでしょう。

 老教師はというと、何が起こったのかを理解する前に、理事長によって取り押さえられることになりました。 


 今回自分の権限でこんな騒ぎを起こした老教師は、今月で教職から身を引いて隠居する予定になっていたそうです。

 最後の授業がこんな形に終わるとしたら悔しいでしょうけれど、そんなの、わたしには関係ありません。

 ゆっくり休んで教職で凝り固まった考え方をほぐし、遠い地で地元の好々爺として老後を過ごして頂きたく存じ上げます。




 わたしの魔法、やっぱり凄い。

 自分の解釈次第でなんでも行使できると感じてはいましたが、概念すら形にできてしまうなんて思ってもいませんでした。

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