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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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アサヒ、友達ができる

 おはようございます。アサヒ・タダノです。

 外はもう日が昇り、青空が窓から顔を覗かせています。 


 昨日は初体験のフルコースで大人の階段を一気に駆け上がりました。

 最低限これがあれば大丈夫な家具が一通り揃っているけど、他に私物が見当たらない部屋にわたしは居ます。


 引っ越してきたばかりのような印象を受けるこの部屋の主は先生です。

 わたしは今、男性の部屋にお持ち帰りされてしまっています。


 相手は命の恩人。それもガチのやつ。

 普段から幼い女の子に劣情を抱いていて、実際そのような意図があって連れ込まれたとしてもわたしは構いません。

 どうせ守るものも何もないお先真っ暗な独り身です。いくら傷がついても大丈夫。

 魔力を使い切ってフワフワしている夢心地なので少々の痛みも気にならないでしょうし、やることやってスッキリした後に何もなかった事にして欲しいと願うのであればそれでも構いません。初めてを仕切りなおすのも吝かではありません。


 というのは本気ですが今日は冗談です。

 先生は疲れている相手を一方的に襲うような人ではありません。それに、昨晩のうちに先生の事は全部聞かせて貰いました。


 先生は昨日、何時間もかけてわたしを探し出してくれました。

 それどころか部屋に泊めて欲しいというワガママまで聞き入れてくれた事には感謝してもしきれません。


 本当の本当にありがとうございます。

 アサヒ・タダノはこれより全存在をかけて先生の為に尽くすことを誓います。

 と、真面目に正直に告白したのですが、一時の気の迷いでそういうのは言わない方がいいと宥められてしまいました。これは本気なのに。




 あれからどういう流れで先生の部屋に押し掛ける事に成功したのか、ちょっとお話ししましょう。


 逃走劇の末に先生と感動的な再会をしたところでわたしは一度気を失いました。

 そして次に目が覚めたとき、わたしは白と灰色のモノクロな部屋でベッドに寝せられていました。


 ベッドの横でうちの母親よりも年上に見える女性が待機しています。

 寝てる女の子に付き添うのが若い男性というのは不味いという配慮でそうなったと思うのですが、ここは先生であって欲しかったです。

 肩を落とした理由が親しい人間が居なかった事だと解釈したのでしょう。こちらのおば様は見当違いでしたが慰めの言葉をかけてくださいました。



 結局、誘拐犯の目的はよく分からないそうです。

 今まで掴めなかった人攫い組織の尻尾をついに掴むことができたので、今後入学前の入学生が攫われる事はないだろうという希望的観測も聞かされました。

 また、大きく目立つ形で逃げ回ったのに力尽きるまで救助が遅かったのは、街全体を探っていた先生の魔法をわたしが壊してしまったからだそうです。

 それについては申し訳ないことをしてしまいました。

 わたしがもっとうまく立ち回れたのなら、無駄な手間を取らせることもなかったかもしれません。



 語調が強かったのでそう感じただけなのかもしれませんが、恩や責任の押しつけをするかのような言い方でした。


 あちらからの状況説明の後、犯人達が魔法を使わない事で捜索から逃れていた事を伝えたのですが興味無さげに聞き流されてしまいました。

 この学園都市でも、わたしのような子供の言う言葉に耳を傾けてくれる人間はあまり居ないようです。


 おば様は再び落胆するわたしを嫌な虫を見たような目で見つめていました。



「今日はここで泊まりなさい」

「嫌です」


 見ず知らずの土地で道中から今までずっとトラブルに巻き込まれてきたのだから、管理の行き届いたこの部屋で休めるのはとても安心できる決定なのかもしれません。

 理解はできたのですが、わたしは即座に嫌だと正直に言ってしまいました。


「先生と一緒がいいです。先生と話をさせてください。」

「先生? 貴方は一人ですよね?」


 同行者の事だと思ったのでしょう。またしても見当違いな答えが返ってきます。


「先生は先生です。わたしを助けてくれました。先生がいないと嫌です。」


 助けた、というわたしの言葉の意味は理解してくれたのでしょう。おば様は苦いものを食べたかのように顔を顰めました。

 睨みつけられましたがここは引けません。こっちからもガン飛ばして差し上げます。


「……わかりました。少し相談してきますね。」

「本当にちゃんと伝えてくれますか? おば様の言葉でわたしの意思が曲げられてしまうのならわたしも行きます。」


 起き上がるのは辛かったですが、先程までの会話の反応でわたしの言葉を一字一句そのまま伝えてくれるとは思えません。

 ベッドから降りようとした私の両肩を慌てて掴んだおば様は、大人を信じる大切さを懇々と説いてきました。


 説教が始まったのを見計らっていたのか、とても大きな体格の男性が一人、部屋に入ってきました。

 真っ先に気付いた私に対しては笑顔を見せ、入ってきた事に気付いたおば様が振り向くと説教を続けるようにと手で促しました。

 すぐ止めて欲しかったんですが、ニヤニヤ笑ってる所を見ると何か企んでいるようです。なんなんでしょうこの人。



 お説教は、大人が精神的にも成熟し様々な事に精通していること、権利と責任も多く持っていること、子供とは大人に付き従い守られるべき存在であるということ……あとはなんだっけ? 目の前の大人を信用できないわたしにとっては価値の無い話でした。

 内容はそれはそれとして正しいことなんですが、わたしは今の時点であなたを絶対に信じられません。

 上司が来たことで緊張してしまったんでしょうか、さっきまで強気だったおば様の表情と声色がどんどん弱っていきます。


「理事長、助けてください。」

「自分でなんとかできるって言ったのアンタなんだが、ギブアップするのかい?」

「子供だからと甘くみていた私のほうが甘かったです、すみません」


 わたしの反応に困り果てたおば様に助けを求められ、理事長と呼ばれた、とても体格のいい男の人がすごくいい笑顔で答えていました。


 声で気が付きました。列車の中ではわたしへの尋問を迫っていて、先程は先生よりも先に現場に突っ込んできた野太い声の人です。

 そんな偉い人が何でわたしを呼びつけず、こちらに出向いているんでしょう。




 説得係が交代し、おば様は疲れた顔で部屋を出ていきました。 


 さて、第二ラウンドです。信用ならない大人達でも一番立場の高いこの筋肉さんはどんな手口でわたしを懲らしめようとしてくるのでしょうか。


「許してくれとは言わん! なんなら殴ってくれてもいい! だから謝らせてくれ! すまんかった!」


 身構えた私に対して、理事長の先制攻撃はなんと土下座。

 床に対して頭突きの勢いが強過ぎてベッドが揺れて床が凹んでます。相手も魔法使いだとはいえ、同じ人間の仕業とは思えません。



 それよりも意外でした。

 駅前で一人で無防備に寝てしまったり、自分の判断で脱走を図ってしまったり、知らなかったとはいえ捜索の邪魔をしてしまったりで、落ち度の割合はわたしのほうが大きいのに、そのことを責めませんでした。

 なぜかと尋ねてみましたが、本人が分かって反省してる事を指摘したって何にもならないだろうと豪快に笑い飛ばされてしまいました。


「大人だ子供だとか関係ねぇよ、ガキだろうが何だろうが一人の人間だもんなあ!」


 この人は先生と同様、今までの大人とはなにかが違っていると感じました。



 駅前で寝てしまった事で思い出しました。わたしの荷物ですが、そのまま広場に置きっぱなしだったそうです。


 鞄を受け取った後、なにか願いを叶えてくれるというので、先生の元へ連れて行ってくれるようにお願いしました。

 理事長は理由も聞かずガハハと笑って快諾してくれました。



 そこからは二人で作戦を立てて、先生の部屋の前で一芝居打ってあっさりバレたり、学園長に食事を奢って貰ったり。


 直接話してから一時間も経っていないのですが、昔からの知り合いのような感じに打ち解けてしまいました。

 お屋敷に閉じ込められ友人らしい友人もいないので、とても楽しかったです。



 なによりも、先生以外にも話を聞いてくれて、わたしを認めてくれて、わたしが信じたいと思える大人がいたというのが嬉しかったです。

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