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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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お返しの日

 記念日には関心が無いと言いました。アサヒです。

 先日の発言を撤回します。初志貫徹を通せなかったことを謝罪いたします。


 無関心ではなく、非常に厄介で、面倒で、他人のそれには絶対関わりたくないと思いました。記念日はどうでもいいものではありません。無駄に負担を増やすだけ。他人にもそれを要求するのならば断絶してほしい文化です。



 テーブルにチョコレートが山積みにされ、それが全てわたしのものになった翌日は大変でした。

 わたしは行く先々で先生にチョコをあげたのか、その反応はどうだったのかと尋ねられました。同じ質問を何度も繰り返されたので心底ウンザリです。


 最初に誰が始めたことなのかは存じ上げませんが、皆やっているのにお前は何故やらないのかという同調圧力が非常に強い。

 長い物に巻かれるのは社会を生きるための心得で、周囲の空気に呑まれるのが間違っているとは言いませんが、大波に乗るかどうかは自由のはずです。


 結局、先生にはその日のプレゼントとしてのチョコは差し上げていません。あの山のようなチョコを見ているのに、さらに上乗せしようというのはあまりにも戦略性がありません。わたしはそんな愚を犯さない。

 常日頃から感謝や好意を伝えていますので、改めて何らかの形で意思表明する必要がありません。成人男性一人が処理できないであろう量の賞味期限の短いそれを処分するという大役を担うことこそが先生への贈り物なのです。



 しかし、それを正直に説明するのは気が引けます。


 彼女たちが先生に押し付けたのは曲がりなりにも日頃の感謝と親しみの感情だ。

 例えそれが叶わぬ想いであろうとも、贈った菓子が別の女の口に入ったとなれば、それは気持ちを無下にされたと同義。先生がそんな非道な人間と捉えられてしまうのは本意ではありません。先生は尊敬されるべき魔女の先生なのですから、尊敬される人物であって欲しい。


 なので、質問に対しては「翌朝腰が痛かった」とだけ伝えておきました。

 ある人にはそんなことは表で言うなと説教され、ある人は顔を耳まで真っ赤にして逃走。わたしの一言でなにかを連想し、先生の行為にドン引きしてる人も居ました。皆すぐに立ち去ってしまうので、確認しないままアルコール入りのチョコを口にしてしまい、軽い酩酊状態で椅子から落ちて腰を打った影響が翌日出たという事の真相は言えずじまい。


 皆の反応は理解できます。わたしが言い放ったのは、ベッドの上で激しく愛し合ったということの暗喩です。性器同士の触れ合い、体液の交換、他にも色々言い換える言葉がありますが、ここは割愛。

 わたしと先生は恋人関係にある。わたしのほうが年齢的にも身体的にもその基準を満たしていないけれど、条件が揃えばそういう行為があってもおかしくはない。いずれそうなる予定だから、勘違いでもなんでもなく、そう捉えて欲しい。


 生徒に手を出したと誤解された先生の立場が危うくなってしまうし、独占するつもりは無いのだけど、近付かないで欲しいと思ってしまいます。ああ、いや、もしかしたら、これが独占欲なのでしょう。




 この感謝の記念日ですが、その日に贈り物をされたら返さなくてはならないのがルールなんだそうです。

 関心の無かったものが一気に嫌いになってしまった理由はここにあります。



 なぜその場で返さないのか。

 贈り合うのであればそれは双方向のものになる。その一度の投げ合いだけでいいはずなのに、どうして返すのに日を改める必要があるんでしょう。年末手前の某聖人の聖誕祭に個人同士がプレゼント交換を行うのと何ら変わりはなく、どうしてそれができないのが不思議でなりません。


 そしてもう一つ、贈られたのであれば例え義理であろうと返さぬのは不義理。

 つまり先生は、あの山のような数、全てにお返しをしなければならない。

 それは現在独り身の先生には負担が大きい。わたし達特別学級の進級後の授業計画も立てねばならないので、時間的余裕もないこのタイミングにそれはあまりも非道。そんなのを求めるだなんて、義理を返さない以上に酷い。




 先生は律儀に全員分の名簿を用意してありました。こちらで用意した物を、先生の転移の魔法で彼女らの部屋に配送する。直接手渡しすることで変な誤解を与えることの無いようにと考えられたそうです。


 残る問題は、返礼品として何を贈るのか。

 これまた誤解を与えるようなものを与えてはいけません。何を贈るべきなのかを本で調べてみたのですが、どれもこれも花言葉のように基準が曖昧。貰った物の三倍で返せとか、換金率の高い物を選べとか、どうすれば無難なところに落ち着けるのか全く分かりませんでした。




 何を贈るかを選ぶのは先生ですので、特集が組まれた雑誌を借りてきて、先生と一緒に唸っている最中に思いつきました。


 本。そうだ、本だ。

 彼女たちはとりあえず恋愛を題材にした物語でも読んで、自分達の行為がわたしと先生の関係に水を差すものであることを認識すべきである。

 しかし本は高額。しかもかさ張る。大量に入荷するのは先生一人に対しての経済的な負担が大きすぎるし、外の世界にあるという、何百何千という本や動画が板一枚に収まるという板は学園都市には存在しない。


 ならば本そのものではなく、栞はどうだろう。

 読書量が増えればそういった作品に出会う機会も訪れる。まずは本を読むという習慣を作るのだ。栞なら、とりあえず厚紙があればなんとかなる。水彩風の花の絵でも描いておけば女性向けのアイテムと認識できる。たぶん。

 なんなら、「貴女に良い出会いを」とか脈無しの花言葉を持つ花にしましょう。そうだ、それがいい。読書習慣を身に着けることで学力や意識の向上にも繋がる。故に教師から生徒へ贈る品としても問題ない。こういう建前を並べればその場で却下されることもないだろう。ヨシ。


 カエデさんは知っての通り破天荒で、相互にパーティーグッズで茶化しあってきた歴史から、先生は真面目な贈り物に経験がありません。ジョークグッズを女子生徒に送り付けたらそれはそれで問題になるでしょう。


 決められることから手を付けて、配送方法までは考えた。最後に残った難題で頭を悩ませていた先生にとって、わたしの提案はまさに雨雲の切れ間から射し込んだ陽光でした。




 返礼品の栞ですが、敢えて「応援」の意味合いのある花を選んで、先生と彼女達では脈が無い事を示しました。

 花言葉を知っていたとしても、まさか別の恋を探せという隠された意図があることに気付ける人は居ないでしょう。


 魔法による栞の作成はわたしが担当。先生は、一筆添えて各々の机の上に転送しただけ。

 それでも結構な数なので大仕事です。最後の一個を送り終えた時、思わず固い握手を交わしてしまいました。




 洒落た贈り物に、先生へ重い負担を押し付けたお姉様方は沸き立ちました。

 先生が返礼品の栞を配送した翌日から図書室の本の貸出が一気に増えたそうです。増えた事で本の汚損や破損、紛失や未返却も増えることになったそうですが、それはまた別の話。


 先生のセンスをベタ褒めしてくれるのは自分の事のように嬉しいです。

 ナミさんが勲章のように栞を見せてくれるんですが、大丈夫です。知ってます。


「アサヒさんのは別の花よね。違う柄がいくつかあるのかな?」


 チョコは渡していないのですが、最初から最後までお手伝いしたお礼ということで、わたしも栞を頂きました。

 先生から頂いたという点では皆と同じなんですが、わたしの手元にあるのは先生が作った特別製です。


 贈り物をしたり返したりする感謝の記念日は、無意識の中に先生を独占したい感情があると認識できた記念日でした。


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