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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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恋する者達の日

 試験の終わりから一週間経たずして、学園はただならぬ雰囲気に満ち触れました。


 他でもない自分の誕生日を祝ってもらったし、感情を大きく揺さぶられ感動の涙を流したのは事実です。

 だからといって様々な記念日への関心が深まったわけでもなく、平穏な毎日を死ぬまでずっと続けたいと願っているのがこの夜明けの魔女アサヒ・タダノなのです。



 去年まで実家で体験した行事といえば色々ありますが、無理矢理参加させられたのでどれも良い思い出はありません。鬼に豆をぶつけるというアレもです。わたしにとっての鬼とはお屋敷に居る人間全員。ルール通りに家中の人間に豆を投げまくったら何故かお叱りを受けました。

 家族をはじめとした大人が世間の強い風当たりから守ってくれるというのは建前。お屋敷の外に一歩出るのにも親の許可が無ければ尻叩き。外出の際は必ず数人の監視の下でしたので、外に出たという感覚がありませんでした。

 昔も今も、わたしから見たらあれは保護ではない。隔離であり監視です。




 どうやら今の学園の甘ったるい雰囲気はその年初の厄払いではない模様。鬼に扮した人に対して豆を投げつける強肩を披露できなくて残念です。

 先生にお尋ねしたところ、日頃の感謝をお題目として好意を持つ相手に対して甘味などを贈り付け合う時期なのだと教えて頂きました。



 教室では、皆が何か物欲しそうにソワソワとしていました。

 近頃は同性同士での交換もあるようですが、元々は主に女性から男性に向けられるものがメインなんだそうです。この学級の男女比とナミさんの人当たりの強さから考えると、彼らに何かを手渡すべきなのはわたしなのかもしれません。

 わたしの本命は先生一筋であり、仮にわたしが何かを渡したとして、求めているであろう好意は得られないのです。それを理解した上でも欲しいというので、魔法で作ったチョコを一粒渡しました。




 先生からは特に求められませんでした。

 一番近くで毎日のように好きの気持ちを伝えてくる人物に何も期待しないのは何故なのかと考えていましたが、テーブルの上に積み重ねられたチョコの山を見て納得しました。


 わたしの料理の腕は先生が一番知っています。そしてチョコの加工は未経験。真心込めて作るのは確かだけど、技術が付いてきません。世界がひっくり返っても、この山に対して出来栄えで勝つ事ができないのです。

 わたしにチョコを求めなかったのは、物量に気圧されて、自分が上手く作れないことを気に病んで欲しくないという先生の優しさだったのです。



 先生の心配は杞憂です。大前提として、このよくわからないイベントの真意が分からないのです。

 好きな人への日頃の感謝や贈り物だと口にはするのだけど、理解できません。何故その日だけなのでしょう。


 なぜ毎日好きだと言えないのか。毎日毎時間毎分毎秒、時間はある。ほんの数秒にも満たない一瞬だ。なぜ、その瞬間ごとにやって頂けた行為に対して感謝の意を述べられないんだ。


 感謝の意を言葉や形にするなんて、そんなものは常日頃行っていればいいのです。わざわざその特定の日の為に溜め込んでおく必要がありません。口にする言葉一つで相手への印象が変わってしまうと恐れてしまうのはわかります。ですが、心の中での感謝だけを繰り返し、ずっと疎々しい態度を取り続けているのは人間関係の進展にはなりません。それを開帳したところで、相手には思ってもいなかった方面からの奇襲としか認識されません。

 毎日の感謝ならば相手への好意をその場で告げられます。一日一回でも三百六十五日分。一年に一度のそれは確かに劇場版アニメ作品のように凝縮された高い品質を誇りますが、毎日の継続は相手に伝えることのできた長い時間という大きなアドバンテージがあるのです。



 つまり、目の前にある、どうやって片付けようかと悩むチョコレートの山に乗せられた淡い感情など、わたしと先生の双方向の好意の前には無力にも等しいのです。そのはずです。

 想いを伝えにくいというのもわかります。なんせ、わたしが人目を憚らず身体的な接触を図り、カモの親子のように機会があればずっと側にいるのですから。


 残念ですが、その恋愛感情はショーウィンドウに飾られた売約済みの宝石を欲しがるようなもの。

 本当に先生のことを好きならばこそ、既に想いを告げたわたしと正面から立ち向かう必要がある。わたしのようにカエデさんを失いオーバーワークに苦しむ先生を支えるのか、別のアプローチをかけるのかは貴女次第だ。

 先生が他の人を好きになれば、わたしは心苦しいながらも相手の感情を優先し、身を引くと決めている。だから臆せずかかってこい。自分をアピールして先生の心を奪い取れ。死力を尽くせ。心臓を捧げよ!



 先生との協議の結果、彼女たちが丹精込めて作ったハート形も、某百貨店の高級ブランド品も、全てわたしの口に入る運びとなりました。


 魔法学園であるのならば、自身の身体の一部をチョコに混ぜて意中の人に自分を食べて貰うという呪術的な志向を凝らすことも考えられましたが、そういった危険な代物は一つもありませんでした。

 学園都市では食料の自給ができていません。食べ物を粗末にするのが許されない文化です。お姉様方にそれを破ってまで自分を魅せたいと願う醜い自己顕示欲は無いようで安心しました。


 料理の腕もデザインセンスも、既製品の中から良い物を選択するという物を見る目も皆それぞれに素晴らしい。どういったものが男性に喜ばれるのかは分かりかねますが、手の凝り様を見ればどれだけ本気なのかを計ることもできますし、先生以外の殿方にも十分通用するでしょう。


 どうか、わたしの存在を知りながらも先生にチョコを送り付けた厚かましい皆様が、先生以外の素敵な人に巡りあえますように。


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