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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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期末試験

 我らが魔法学園には進級を精査するための期末試験があります。


 教育している内容が内容だけに、一年間の授業が身についているかどうかは非常に大事です。

 より高度なものに触れるには基礎がなくてはいけません。先に応用から学んでからその根底にある基礎を固めても良いのですが、授業内容の要綱上、同じ物を再度学習する事になりますので、この魔法学園で学ぶものに限定すれば二度手間になります。


 学科毎に様々な課題が与えられ、合格すれば次の年度からは学年が繰り上がります。

 一度失格しても留年は確定しません。期間内であれば何度でも挑戦が可能。その間に補習や試験内容の講義を受ける事も許されています。


 試験の内容ですが、答案用紙に回答を書き並べるものだけが試験ではありません。 

 魔法に関しては実習の割合が非常に大きい学校です。魔法をはじめ、一年かけて学んだ全てを使って難題を解決することがこの学校の期末試験なのです。


 進級の可否は個人単位だったり、学級全体だったりと一定していません。

 試験の内容次第で学級全体で取り組んだり、数人のグループに分かれて行ったり、一人一人の個性を評価するものだったりします。魔法学園、こんなめちゃくちゃでまとまってると言えるのかどうか、甚だ疑問です。




 今回、特別学級が受けることになるのは学級全体での試験でした。


 学園史上最小の体格であることを誇るわたしですが、同時に在校生どころか魔法使いでの立場としてはかなり高い魔女の称号を持っています。試験なんてあってないようなもの。むしろわたしが進級に値する能力があるのかを見定める立場にあるのではと期待していたのですが、そういうわけでにはいきませんでした。

 何度も確認するようですが、わたしは大勢の人に夜明けの魔女と認識されていません。特別待遇はやはり期待できないようです。


 特別学級に与えられた課題はそれほど難しい物ではありません。でも、非常に難しい。

 それを難題にしてしまったのは、願いを形にする魔法の使用禁止という制限です。わたしの存在意義、願いを形にする魔法が使えないということは、わたしは呪文を唱えて魔法を使う事さえもできなくなりました。

 試験の問題は自分が受け持つ生徒に温情を与えぬようにと、それぞれの学級を担任していない教師が作成しています。魔法が一切使えないわたしでは、その課題は突破のしようが無い。


 特別学級は存在そのものが特別なので、試験に際して個人の成績などは考慮されませんでした。

 五人全員で力を合わせて無理難題を攻略せよ、とのことです。



 考えるまでもなく、嫌がらせでしょう。

 特別学級が課せられたこの期末試験、評価されるのは全員合格か全員落第の二択だけ。それに加えてわたしの魔法を限定的に封じてきた。一人に頼り切って怠けぬように帯を締め直させると口にはしていますが、まとめ役を役立たずに堕とす事で足を引っ張らせ、学級の和を乱してやろう、思い上がった魔女を「わからせ」ようという意図が見え隠れしています。


 出題者の思う通りのわたしだったならば、此度の試験、本当に何もできないお荷物になっていたでしょう。試験内容次第では、外見通りクラスのマスコットとしてとりあえずど真ん中に鎮座しているしかできなかったと思います。

 残念です。本当に残念です。





 わたし達に与えられた課題は、なんと、花火の魔法を一から作ること。入学式の数日前に打ち上がった、誰もが見ている謎の花火を再現してみせろというものでした。


 試験内容を聞いた時は笑いを我慢するのが大変でした。

 なぜならば、その花火を上げたのは他でもないわたしなのですから。

 わたし達に嫌がらせをするのならば、もっと難しい魔法を指定すべきでした。



 行動を起こす前にひとつだけ、クラスメイトに明かさなければならない事がありました。

 それは、課題とされている花火の魔法の真実。


 試験内容に指定された謎の花火とは、魔力切れで誘拐犯に追いつかれて万策尽きかけたわたしが放ったものです。我ながら、土壇場であんなものをよく考えついたと思います。

 ナミさんがマツリさんと出会うことになったりしたお祭りの日、あの夜に打ち上げられた豪華絢爛な花火も全てわたしによるものでした。あの日は食堂倉庫の爆発の傷が癒えておらず、一人で部屋で休んでいた事になっていたのだけど、実は裏で花火を打ち上げまくっていた。


 願いを形にする魔法が皆にも知られている今となっては隠しておく必要もないのですが、今更公表するのも何だか妙な感じ。ですが、いつまでも隠していてはいらぬ勘繰りをさせてしまうと思いましたので、包み隠さず話しました。



 クラスメイトからは、驚嘆と称賛を頂きました。やっぱりアサヒはすごい。さすがアサヒさん。

 願いを形にする魔法の汎用性に改めて感動した後、どうすれば無詠唱で何でもできるようになるかを熱心に尋ねられましたが、こればかりはわたしにもわからない。いつの間にか、なんとなく使えるようになっていたのですから。

 ともかく、それなりに高度な制御を要求される魔法を最善手が使えぬ状態で形にするという難題が、とても簡単なものに早変わり。



 火の玉の生成。笛のような音を鳴らしながら上昇。任意で形を変えながらの爆発。そして落下した炎が着地するよりも早く消えるように調整。それぞれ別の呪文だったものを全て並べて一つの呪文と定義した後、短縮と圧縮の技法で簡素化。以上が花火の魔法です。

 皆で頭を突き合わせ、個人ごとに呪文に相性があって苦手な部分があるけれど、そこは他の部分で補えるように呪文を組みました。加えて、込める魔力の量とその時の気分で爆発の際の模様を変えたりできるようにもしてあります。



 試験内容と期限を伝えられた日から数えて三日。

 わたしは、出題者のお望み通り、魔法が使えないアサヒとして試験に臨みました。

 花火の魔法は特別学級の五人が力を合わせて作り出した。魔法が使えない者が呪文を作り上げて、使える者に託したという脚本で。


 魔法が使えなくても呪文は言葉として聞き取れますし、魔法陣の紋様も認識できます。だから内容を解析したり、求める形に改良する事だってできてしまう。意思を理解するために言葉があるのは普通の人も魔法使いも一緒。呪文を必要としない原初の魔法を得るために、自分達の言葉を用いたのが呪文詠唱であり魔法陣なんだ。


 使えぬものが使えるものに託した事から始まった魔法使いの歴史を理解しているから、こんなことができる。今回の花火はその再現。ちゃんと学んだことを理解できている証左なのです。





 特別学級の期末試験の日、夜を模した真っ暗な演習場に、打ち上げ花火が幾つも上がりました。

 ただの球型に留まらず、様々な色、模様、形に変わるので、これは「変わり花火の魔法」と言ってもいいでしょう。


 出題した教師の、まばたきも忘れて大きく目を開いて呆気に取られていた姿は写真に撮っておきたかったです。

 かつてナミさんに教えた偽情報、使う事で魔法が発動する道具を提出するのが正解なんでしょうけれど、たった三日で完璧のさらに向こう側を見せられたのです。ここまでやるのは蛇足かもしれませんが、最低限求められたクオリティは満たしているはず。


 試験内容の漏洩が疑われましたが、試験内容を聞いたのは確かに三日前。今わたしの横で愕然としている教師が担当であると知ったのも同じ日なので、事前に心を読むなどといった行為もありません。


 わたし自身が思い当たる不正はなにひとつしていないと言い切れます。

 皆にバイパスを通し、魔法発動の端末として扱うことも想定されていたのでしょう。何かをすればすぐにわかるようにと、念入りに探知の魔法が巡らされていました。

 それは人を操る魔法に準ずるもの。期末試験では使ってはいけない手段を用いる生徒も少なくないそうです。わたし達はそこまで追いつめられていませんので心配はご無用。



 一年を同じ教室で過ごした仲間の結束はより固いものとなりつつあります。

 いまさら魔法が使えない程度で足並みが乱れると思ったら大間違いなのです。


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