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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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アサヒ・タダノの誕生日

 年の瀬が近付いてきて、年末の決算期も重なり色んなものがせわしなく動き回る時期になりました。

 突然ですが、わたし、アサヒ・タダノ。このとても忙しい年の暮れの最後が誕生日です。



 物心ついてから去年まで、この時期になるとなぜこんな忙しい時期に産まれたのだと詰られました。

 そうは言っても、種を蒔いた日から出産まで十月十日の期間があるのですし、わたし自身が決められる事ではございません。


 下世話な話ですが、遡ることでいつその行為を行ったかを推測することができます。四月の末頃。田畑を耕した後に落ち着かせる期間、春の繁忙期の中休みの頃合いです。何と言いましたか、村の統治者のような立ち位置に居る家でしたので、小作人の作業の進捗を見て回る以外にやることが無くて体力を持て余していたのでしょう。



 冬になると、田畑はもれなく雪に埋まります。

 そうならば余計に暇だと思うんですが、冬は雪の無い遠方へ出稼ぎに出る者が多く、人手が無いので普段の生活にも支障が出てしまいます。


 そんな時期に産まれたのが、どこに嫁がせるわけにもいかない問題児。

 産まれ落ちた時は普通の赤ちゃんよりも大きく、将来は大柄な美人になるだろうと皆喜んだそうですが、その後はずっと病気がちだったそうです。

 医者を呼び、祈祷師を呼び、その地域の豊かさでは到底払えぬ大金をはたいて屋敷も大改造。

 病弱であることが深窓の令嬢を連想させて、荒い金遣いを後押ししたのでしょう。この赤子は絶世の美人に育つと誰もが信じて疑いませんでした。


 ですが結果は御覧の通り。病弱こそ克服したけど身体は人形のように小さいまま。容姿も普通。肝心の中身は頑固者という酷い有り様。こんな娘を嫁に出せば家の名に傷がつく。性格に難有りで婿を迎え入れるのも難しい。出家させ矯正を図ろうにも、幼いわたしが葬式の際に偉いお坊様を怒らせてしまったのでお寺では引き取ってくれない。子供の成長は早く、もたついている間にも悪戯はどんどんエスカレートしていく。


 蝶よ花よと育てた結果、手の施しようが無い魔物が完成してしまったのです。

 学園都市がお金さえ出せばどんな人間でも受け入れる場所であったのは、実家の人達にとっても救いでした。




 正直に言いまして、わたし自身は誕生日というものに全く良いイメージがありません。

 最初のうちはお祝いしようという気概がありましたが、帳簿が合わないと悲鳴を上げながら夕食の場に飛び込んできてお開きになったり、田んぼの向こうの大治郎の家が火事になって嫁の姿が見当たらないと大騒ぎになったり、その嫁が屋敷の門番と逢引してる事が判明してこれまた大騒ぎになってしまったりで、ちゃんとした形で祝われた記憶がありません。

 記念日なんて面倒臭いだけで、本人ではなく周りが勝手に騒ぎ立てる押しつけがましいものだと認識していました。



 そう思っていたわたしですが、先生とクラスメイトの誕生日を率先して祝いました。

 自分はどうでもいいけれど、皆ならば、同じ教室で過ごす友人におめでとうの一言でもかけて欲しいだろうと思ったんです。


 そこからは芋づるのように引きずられていきました。

 皆一年の後半に集中しているのでここでの出費が大きくて、預金残高の減りの早さに冷や汗をかいたりもしてました。ですが、誰一人として嫌がる事も無く、心の底から喜んでくれたと思います。あの泣き笑いは嘘じゃないと思いたい。




 自分以外に対してそう思えるようになったのですが、自分の誕生日は本当にどうでもいいです。

 他人の記念日を祝える自分に変えてくれた皆に感謝するという意味で、わたしが主催する誕生日パーティもいいでしょう。しかし今の時期はどこもかしこも忙しさで手が回っていない。暇なのは子供達だけという状態。


 順番として最後はわたしになるんですが、わたしの誕生日は祝わなくて良いと、先手は打っておきました。

 小恥ずかしいと思う部分もあります。わたしのような問題児の中でも特別ヤバいのが他人に祝われてしまうのはよくないのではないかとも思います。理由は感情的なものだけではありません。


 なにかプレゼントを贈るという行為は物凄い負担になります。わたしも先生の奥様の命を奪う原因という重いものを背負ってしまいました。誰かがわたしの過去を覗きに行って、あのお屋敷での生活を見たら、それはそれで深い心の傷を負うことになってしまう。


 わたしがセッティングした場で喜んでくれたという結果こそが、わたしへのプレゼント。それで総決算ということにしてください。

 皆に負担をかけるのは望んでいません。



 期待は、したくありませんでした。

 それは大きくなれば大きくなるほど、アテが外れた時に失望してしまうのです。


 どんなに言い繕おうと感情の動きはその通り。仲間に、先生に対してわたしがそう感じてしまう事が許せません。期待と裏切りは人間不信に直結する。わたしは先生を信じると固く誓っているけれど、それが揺らいでしまうのが怖い。

 思い通りに動いてくれずに相手に不信感を抱いてしまうのなら、最初から望まなければいいのです。





 誕生日の当日、眠らせる魔法の気配を感じて目が覚めました。

 目覚まし時計のように、その時間になると発動する時限式の魔法陣を描いた紙が、枕元に置かれていました。


 断言します。この魔法を仕掛けたのはナミさんです。魔法陣が描かれた紙はテストの答案用紙の裏で、名前の欄の部分が使われていました。資源の再利用を心掛ける環境意識の高さに頭が下がりますが、作戦としてはいけません。

 構成に省略部分が多い魔法陣を組み上げたのは先生でしょう。特別学級の師弟の共同作業です。


 今日が誕生日であることと、仲間が何か企てている。この二つの状況から、わたしの誕生日に際し、贈り物が何かあると察しました。わたしへのお祝いは不要だと言っておいたのに、話を聞いてくれない人達ばかりで困ってしまいます。


 嫌々渡されるのならば躊躇いますが、嫌っていない人達から頂けるものを拒否する程のへそ曲がりではありません。

 起きる時間に眠らせようとしたのですから、おそらく準備に時間がかかるのでしょう。


 わたしは着替える為に身体を起こします。部屋のあちこちに見たら眠くなる魔法陣が置かれているのが目に入りました。こちらも描かれた紙はナミさんの切り分けられた答案用紙。繋ぎ合わせてみると、あまりいい数字ではなく、居残り勉強会が行われた日のものだとわかります。

 わたしは自分の眠気も魔法で操れますので、この程度でわたしの目覚めを妨げる事などできません。甘かったな、ナミさん。


 手早く着替え、教室に向かうことにしました。

 わたしがあんまり好きではないサプライズを挙行しようとした報いを受けて頂きます。サプライズ返しです。






「アサヒさん、誕生日おめでとうございます。」

「誕生日おめでとう!」


 教室の扉を開けた瞬間、先生からお祝いの言葉を頂きました。特別学級のクラスメイトとマツリさん、ついでにその従者ご一行も続きます。

 教室は、今までしたことがない程に煌びやかに飾り付けられています。少ない机を全て集めて作られた広いテーブルには、これでもかと言わんばかりにヤケクソに彩られた大きなケーキがひとつ。蝋燭の数が妙に多いのが気になりますが、ここは目を瞑りましょう。


 時期がどこかの聖人の生誕祭と被りますので、そちらのパーティーと称してもいいかもしれない。しかし、これは全てわたしの為に用意されたものです。なぜなら、先生を含め、皆がそう言っている。信じられなくても、信じないわけにはいかない。


「ここに居る全員の誕生日パーティーだからね!」


 ここに居るのは、家族から、前の学校の教室から、周囲の環境からずっと疎まれていた者達です。

 誰もが誕生日を祝う事を微塵も考えていなかった。それが、先生の誕生日にプレゼントがしたいとわたしが言い出したのが起点となり、この誕生日パーティーに行き着いたと、駆け寄ってきたナミさんが鼻息を荒くしながら語ってくれました。


「あれ、もしかして、私も?」

「当然よ!」


 クラス分けとしては部外者という事、一歩下がって教室の隅に控えていたマツリさんご一行も含まれていると言います。器の大きさに驚きです。





 乾杯の前にプレゼントがあると告げられ、皆の前で、先生からすごく軽い箱を受け取りました。

 何も選べないから札束入れたのかと冗談を述べて場を和ませてから、この場で開ける事を想定されていて、プレゼントとしてはすごく簡素な包装を解きます。


 緩衝材が詰まった箱の中に入っていたのは、花の大きな球根でした。

 春先に植え、夏に花を咲かせ、冬を前に枯れて次の春まで休眠する植物のどれか。この球根を、わたしはよく知っています。

 それは、実家で、怒り狂ったお父様によって踏み潰された花壇に植えていた花のものと、全く同じ球根でした。



 花の名前を聞かされた瞬間、息が詰まりました。

 珍しい花の形をしているもので、今からでも入手できるものの中から選んだそうです。それは、実家ではあまりにも珍しく希少過ぎて仏壇に飾られてしまう程のものでした。


 魔法学園に入学することになった理由を知るのは先生だけ。魔法でお屋敷の庭を整地したのは知られていても、その怒りの理由、芽を出し始めたばかりの球根を目の前で踏み潰された事は、学園都市には伝わっていない。

 誰も知らない物事が、偶然に一致してしまった。なんてことだ。



 膝の力が抜けて、座り込んでしまいました。

 楽しみにしていたものが失われた悲しみ。奪われた悲しみ。奪ったことへの怒り。何もできなかった無力感。口で愛していると言いながら暴力を振るう父親への不信感。それ以外にも何か色々な感情が一気に沸き上がり、全部なくなればこんな思いはしなくて済むと願ったあの日の、その時に思ったことが沸き上がります。


 わたしには何の力も無かった。あの球根を芽吹かせて、咲き誇らせてあげる事ができなかった。踏み潰される前にどこか遠くへ逃がすことができなかった。踏まれた事を無かった事にもできなかった。何が願いを形にする魔法だろうか。もし何かできるというのならば、何もかも消し飛ばしてしまえ。そう願ってしまったんです。

 あの日の事は、急に思い出したとしても、笑い飛ばせるくらいに何も感じなくなったと思っていたのに。


 怒りをぶつける対象はこの場に居ません。もしパーティーの招待状が届いてもこの場には現れなかったでしょう。

 魔法を暴発させる心配はありませんが、この感情をどう抑え込んだらいいかわかりませんでした。



 まだ一年経っていないことに驚きました。もう何年も昔の話のような気がしていました。それだけ毎日が充実していた。幸せだ。


 泣いても笑ってもいいけれど、その前にやるべきことがある。

 実家では腫れ物でしかなかったわたしをそのまま受け入れてくれた皆に、先生に感謝を伝えなくてはいけない。

 

「あり、がとう、ございます。」


 泣いてしまって変な空気になってしまいましたが、これはわたしだけの誕生日パーティーではありません。この場にいる皆を祝う為の場です。

 涙と鼻水で酷い顔だったかもしれませんが、泣き笑いのままパーティーの続行を宣言しました。




 二度と見ることはないだろうと思っていたのに、一年経たずして再び巡りあえたのは重畳です。

 今度こそ、ちゃんと咲かせてあげましょう。

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