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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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空回りの魔女

 先生が風邪をひきました。


 いつもはわたしよりも早く起きる人がずっと寝てるので不思議に思ったんです。

 のそのそと布団から這い出てきた先生の様子は、とても良いと思えるものではありませんでした。


 体調というものはどんなに気を付けていても崩れる時があります。

 気温の急激な変化やストレス等で常日頃保っていたものが崩れてしまうのは仕方の無い事だと思います。どれだけ多忙な生活を送っていらっしゃるかは一番近くで見ています。体調管理がなっていないと責めたてる事は断じて許しません。


 予防は大事だけど、そうなってしまった後の事も大事なのです。




 風邪とは単一の何かによる病気ではなく、発熱、鼻水、咳、関節の痛みなど、その身体の異常を総合的に見て判断したもの。

 これ一つで完治するという特効薬は薬草知識が豊富なはずの魔法使いの社会でも存在せず。それぞれの症状を抑える薬で心身ともに落ち着かせた後は、本人の治癒力に任せるしかできません。


 厄介な風邪を一発で治す魔法があればこの場で苦痛を解消させてあげる事ができるのですが、願いを形にするわたしの魔法をもってしてもそれが叶いません。穏やかでいられるように頭を冷やし、身体を温めて差し上げるのが精一杯。


 入れ換えの魔法でわたしと先生の体調を交換できないかとも考えましたが、人間の体調を交換した前例がないことから、リスクを背負ってまでやって欲しくないと止められました。



 いざ看病しようと意気込んだタイミングで、学園に休みの連絡を済ませた先生の手で、全員分の宿題と共に学園へと送り出されてしまいました。

 わたしに風邪をうつしてはいけないのと、学園生徒が本業の学びを疎かにするのはよろしくないとのことです。


 先日図書室から借りた本に、こうやって無理にでも一人になりたい場面があったのが思い出されます。

 弱った先生を置いていくのは心苦しいけれど、そういうことなんだと自分を納得させました。

 通い妻、または押しかけ女房のいない一人の時間も必要でしょう。


 一人の時間でやること。それは主に先生が先生の男性である象徴の部分を自ら慰める行為など。

 刺激さえあれば本人の意思に関係なく機能すると教わりましたが、まだまだ若く、発情期の猫の如く盛りたい時期のはず。いつ発散なされているか全くわかりませんが、少なくともわたし自身が居たのではやり辛いはずです。


 先生の家は男性が元気になるという刺激に該当する物に溢れています。カエデさんのものだった大人用の下着に加え、わたしのものまであるので一般性癖から幼児嗜好まで幅広い性癖に対応できる。

 親しい人から異性と認識されたり身体関係を求められるのを察した際、ぬいぐるみから陰茎が生えたように感じて嫌悪感を示す人もいるそうです。幸いわたしはそうなっていない。むしろ大歓迎。このまっさらな身体は先生の好きな色に染めて欲しい。


 ああ、性的なお話は生物としては大事なことだけど、まだダメでした。

 そういう分野に該当してしまうので、ご奉仕という名のお手伝いもダメなのです。手以外の部位に触れることや、ぶら下がるそれを見てしまうことさえ一線を越えるとされていて、他人が求める純愛の面倒臭さを実感しています。


 今までは体調不良でも休む暇がありませんでしたが、特別学級は目を離していても大丈夫だと信頼してくれている。だからこそ今日は出勤せずにリモートワーク。些細な事かもしれないけれど、これは変化と言っていいでしょう。


 まずは与えられた課題を。勉強嫌いの我ら特別学級の宿題提出率を向上させるのだ。





 授業時間の終了後、自分の部屋に戻らず先生の家へと向かって正解でした。


「すっかり良くなりましたので、もう大丈夫です。」


 そう語りながら体調不良を押してデスクワークに励む先生の顔の酷さは筆舌に尽くし難い。

 意識だけははっきりしているようですが、どこが大丈夫なんですか。全身焼け爛れて心臓が止まらず呼吸してるだけの状態で健康なんて言えますか。言えませんよね。

 確かに寒い季節ですが、布団をそのまま被って作業しているのを良い状態と呼べません。わたしが同じことをしていたらすぐに止めてくれるでしょう。自分は大丈夫となぜ言い切ってしまうのですか。



 やらなければならぬ家事があると言い、寝るのを渋る先生を寝室へと追いやりました。

 身体の調子が悪いとまともな判断ができません。自分がそうだった。だから先生もそうだと断定はできないけれど、そのままやるより少しでも休んだ方が作業の能率も良いはずです。

 先生はもっと他人を頼ってもいいのです。誰かに仕事をぶん投げて欲しい。理事長の無理難題も一人で全て片付けようとしたら身体が持ちません。


 先生を寝床に引っ込めて、腕によりをかけ、先生ができていなかった家事を片付けます。

 いつもやっている手伝いをそのまま行えばいいだけです。難しいことなどなにひとつありません。



 いつもやっている事のはずなのに、今日は何ひとつうまくいきませんでした。


 開始早々、ゴミ箱を蹴っ飛ばして中身をぶちまけてしまいました。

 洗濯物は綺麗に畳めずぐちゃぐちゃに。

 昼食に使った食器は手を滑らせて割ってしまいます。

 電気ケトルの電源コードをコンセントに刺したら火花が飛んでブレーカーが落ちる。

 洋服棚の留め具が外れて衣類が散乱。

 昼食に使ったであろう食器を洗っていたら蛇口を締めても水が止まらない。


 なんとかしようと手を動かすのだけど、動かす程にどんどん空回り。

 頑張ったんですが、わたしが帰ってきた時よりも部屋の状態が悪くなってしまいました。



 先生と一緒なら全て上手くいくのです。先生一人でもそれなりにできています。それでいて、わたし一人ではこの有り様。

 わたしがこの家に入り浸るようにななったことで生活スキルが向上しました。ですが、スキルアップができたのは実は先生だけだったのです。


 子供の前でだらしない姿を見せるのは良くないと意識を改めたに違いありません。初めて来たときはカエデさんの遺品もあったけれど、なにより空き容器などのゴミが凄かった。今わたしが散らかしてしまった部屋の状況によく似ています。


 大きな音に驚いて、寝室から顔を覗かせた先生には苦笑いされてしまいました。

 散らかした事に対しては、何一つ上手くいかない日もあるだろうと慰めてくれました。

 助けるつもりが助けられてしまっているこの状況、穴があったら引きこもりたいくらいに恥ずかしいです。



 口癖のように特別学級をまとめてくれるだけでも十分と言ってくれるけれども、わたし自身がそれだけでは満足できません。

 なぜならば、こんなにも拙い実情を見せつけられているのです。


 まだまだ未熟なのに、魔女の名を貰ったから思い上がるだなんて、とんでもない話です。

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