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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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未熟者は追い越されたくない一心で説得を試みる

 昨日、夜明けの魔女になりました。アサヒです。

 何も変わらない生活が送れるという言葉に騙されました。


 先生には全面的に信頼を寄せる相手に対して嘘をついた報いを受けて貰わねばなりません。

 具体的に、昨日から冷凍庫に入っているお値段の高いアイスを頂きたく存じ上げます。




 校舎に入るなり、先日の会議の場ではわたしの出した提案を否定した後、うっかり作ってしまった太陽に怯える姿を見せた、あの老いた教師の元へと誘導されてしまいました。

 生徒が干渉するのはダメですが、教師ならば廊下の行き先を自在に変えることのできる門の魔法を勝手に弄っても怒られません。


 何事かと思えば、わたしに魔導師の資格が無いと言いたいだけのお説教でした。

 曰く、強い力と実益を兼ね備えていたとしても、高い理想を持たない人間が魔導師を名乗ってはいけない。一年にも満たぬ学歴で魔女の名を冠するのは分不相応。世界が認めようとワシは断じて認めない。とのこと。


 仰ることはごもっとも。全て事実ですし、そんなのは私自身が一番理解しています。

 今一度確認します。わたしが夜明けの魔女だと知る人は限られていますので、特権が得られる場は限定されます。今のお説教にもあったとおり人としても魔法使いとしてもわたしは未熟。一人前と認められるまではただの生徒。

 それが、わたしに魔女の称号を贈与するのに示された条件だったはず。


 反論はしましたが、それでも、と老人は続けました。

 自身が未熟と理解しているのならば、なおさら辞退すべきだと譲りません。わたしのような半端者が成ってしまったら魔導師の格が落ちると嘆いています。



 この人もまた、自分の要求を押し通す為に全力を賭するのでしょう。

 間違いない。わたしが辞退を表明するまで続けるつもりだ。


 地位が同等でも、肉体も精神も子供だから話を聞いてくれない。年齢差はどう頑張っても覆すことはできない。

 主と従者、上司と部下の関係ならば若い者にも頭を下げる事もあるでしょう。この老人はそれができなかった。だから理事長と先生を若い者といつまでも見くびってている。夜明けの魔女でさえ、子供だからと侮蔑する。対等に考える事ができない。

 

 これからも何も変わらないという先生の言葉が思い出されます。

 地位を得てもわたしに対する風当たりも変わらないのです。ちょっとだけでも変化を期待していたので残念に思います。




 彼の要求に対し、夜明けの魔女がすべきことは一つもありませんでした。

 言いたいことを言い切った後の静寂を、開けっ放しの門から飛び出してきて、わたしと老魔導師の間に割り込んだ理事長が破りました。

 一呼吸おいて先生も演習場に姿を見せます。他にも教師が大勢なだれ込んできて、場はただならぬ緊張感に包まれました。


 魔女と魔導師。その気になれば学園都市を壊滅に追いやることもできる大物同士が一触即発というこの事態。

 理事長からは、それなりに準備が必要だったとの謝罪を受けました。わたし一人でどうにかできたかもしれないとも言われましたが、それは無理です。ベテランのお相手なんてできっこありません。


「じい様、決定には逆らわないんじゃなかったんかい。」


 教職であろうと生徒に手を出すならば敵だと拳を構える理事長を前にすると、老人の先程までの威圧感は嘘のようです。

 彼は辺りを見回して、目を閉じて、大きくため息をつきました。

 その後、杖を放り投げ、老魔導師が争う意思がないことを示したことで、日を経ずして再度訪れた学園都市壊滅の危機は去りました。



 彼は三十路を過ぎた頃に偉業を成し遂げ魔導師の称号を受けたものの、立場を脅かされると感じた老人達によって散々な目に遭ったそうです。

 わたしに対して言い放った言葉は、元々は彼が老人から受けたものでした。


 自分がされて嫌な事を他人にしてはいけないという道徳教育をされていなかったのでしょうか。

 辛かった過去の自分は同じことを若者に対して行っても救われませんし、たとえわたしが慰めの言葉をかけても意に介さなかったでしょう。




 そこから始まった一日は、立場を振りかざして横暴に振る舞うのではないかと不安に感じる教師や講師からのお呼び出しが続きました。

 教室の移動すらままならず、誘拐される度に理事長と先生が飛んできてくれましたが、昼前には他の学級の授業にも影響が出たせいもあり、門の魔法に使用制限が掛けられてしまいました。

 それでも強引に接触して説得を図ろうとする大人が後を絶たず。


 教師達はわたしに魔女の名を贈ると決まったその会議の場に居たはずで、先生の提案に納得して了承したのではないのですか。何故個別に話をすれば自分の意に沿ってくれると思っているのでしょうか。

 決まった事を後から覆そうとするのは何故かと尋ねてみましたが、一人は逆切れし、一人は反論したことに驚きすぎて気絶してしまい、一人はわたしの未来が心配だと声を震わせ泣くばかり。埒が明きません。





 色んな人から未熟者だ分不相応だと言われ続け、自信がなくなりそうです。

 こういうちょっかいを出されない為に魔女の名を頂戴したのです。話が違うじゃないですか。


「すみません、まさかこんなことになるなんて……」


 先生は学園でも家でも謝ってくれました。

 冷凍庫のアイスはありがたく頂戴します。


 会議の場では皆大人しく、発言一つせず黙って流されていたそうです。

 口を揃えてわたしに思い上がるなとご高説を垂れていましたが、自分の発言で決定を覆せると思っているその考えこそ思い上がりでしょう。

 思う所があるのならそこで言えば良かったんです。例えそれが却下される意見であっても会議の場で言えば、参加者がそれを否定したという事実が残ります。それを土台として糾弾する事ができるのです。道具は使いようです。

 後々になって言えぬ空気だったとするのはただの言い訳。反論したら暗殺される程治安の悪い学園都市ではないのです。


 悪いのは先生じゃない。言いたいことをその場で言わず、後から自力で解決しようと目論んだ全員だ。人の事を未熟者だと言っていたけど、社会人として未熟なのはあの人達じゃないか。

 そんな相手をねじ伏せられず、先生に頼るしかない自分が本当に不甲斐ない。



 実力は示した。功績も上げた。おまけに特権を行使しないというのに、それでもなお認められない。

 なぜなら子供だから。そんな理由がまかり通ってしまうのが魔法使い。


 この魔法使いの社会で、権利も責任も認められる子供と大人の境界線はどこにあるんでしょう。三十歳を過ぎても未熟者とされ、六十でも若いと言われ続けるのです。

 わたし一人では解決しようがない問題とはいえ、考えると頭が痛いです。


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