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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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学生魔女はじめました

 何だかわからないけれど、学生から見れば面倒なものを与えられてしまいました。

 この社会で魔導師とは何なのかを一度ちゃんと調べねば。


 実際その役職を持つ人物に話を聞ければいいんですが、伝手がありません。

 学園にも居るんですが、わたしの魔法を見て腰を抜かしていたあの老教師がその魔導師なのです。今日なったばかりの新米の話など聞いてくれるはずもありません。地位を得たので態度が柔和してくれれば幸いなのですが、人は一日二日で変わるものではありません。


 雪が消えても影響はまだ残っています。先生も忙しく、時間が貰えるのは夜になる。

 可能な限り知っておきたいと思ったので、図書室へ向うことにしました。

 こんな形で離別するなんて絶対に嫌だ。




 下校時刻まで図書室で調べたんですが、何の成果も得られませんでした。


 魔導師は偉大である。凄いのである。格好良いのである。憧れるべきなのである。畏れ敬うべきなのである。

 偉人とされる者へはそんな記述。世紀の大悪人とされる方々に対してはその逆で、その言動も思考も行動も絶対に認めてはならないというものばかり。歴史は客観的に記すべきです。著者の意見など聞いてません。偉人の記録を残すあなたはただの伝達係。重要な立ち位置だけど貴方の個人的な感情を歴史として残さないで欲しい。


 持ち上げるか貶すかの二通りで、その称号を受け取った際の立ち振る舞い方を知ることができませんでした。

 それらは長い人生を魔法使いとして生きているうちに自然に身につくものなのでしょう。若いうちからそう呼ばれる者など絶対にありえないと言われているかのようでした。

 これは前例のない事例。わたしの行動全てが後の世で若いうちから魔導師となった子供達に影響を及ぼすのです。責任はものすごく大きい。そんな重圧、耐えれるでしょうか。






 待ち合わせの場所に時間よりも早くいらっしゃった先生の姿は、今のわたしにとって気力全快の霊薬でした。

 先生は変わらず接してくれます。でも安心していいのかわからない。この先の不安と心配がセットになって、わたしの感情はミックスジュース状態です。



 いつもと変わらない先生の家での夕食の片付け後、二人だけのスイートタイムは、テストの点が悪かった子供を叱る家族会議のような雰囲気から始まりました。

 突然声色を変え、両肘を机の上に立てて両手を口元で組んだ格好で「話があります。」なんて言うもんですから、怖くて仕方ありません。

 照明が反射した眼鏡のせいで表情が全く見えない。それほど深刻な話がある。間違いなくわたしの魔女就任についてのこと。

 ついに来てしまったのだ。状況に流された結末の、別れ話が。


 向かい合って腰掛けます。二人の間柄に真剣に向き合うのは大事だけど、こういう形のものは望んでいませんでした。先生にわたしやカエデさんの他に好きな人ができたとか、その人と一夜を共にして赤ちゃんができてしまったとかであれば納得できないけども納得します。わたし自身が別れる原因になるのは嫌です。


「就任おめでとうございます。」


 開口一番、先生からお祝いしてもらいました。

 いいえ、おめでたくないです。わたしは魔女になる事を望んでません。

 強い権限があるのはわかりましたが、それを保障するために一定期間内に機関に認められるだけの功績を出さなければならないのでしょう。大事の際には先生のように駆り出され、常に前線に立たなくてはならない。

 魔導師に関わるだけで元の生活が崩壊するほどの影響力があることも勉強しました。今この状況ですら、先生が教職を追われるには十分な状況。住む世界を変えられてしまったのだ。


 先生は、わたしがそれを望んでいないのを否定してしまうのでしょうか。

 今も、この先もずっと、卒業した後も死ぬまでずっと一緒に居たいという願いは叶えられないのか。



 教室で問いかけられた時のように手を上げます。

 魔女拝命に際してわたしからも意見があります。当事者なので物言いを出す権利があります。


「魔女になりたくないです。」


 この先、学園を卒業してからも生きていけるか先行きは不明のままなので、貰えるものは貰っておきたい。実益と目先の感情を天秤にかけるのは間違っていると自分でも思います。ですが、わたしは魔女になりたくない。




 こんなにも近くでわたしを見ているのです。拒否してしまうのは想定済みだったのでしょう。驚きも悲しみも無い、台本を棒読みするかのような語調で受け取りたくない理由を尋ねられました。 

 ずっと同じポーズのままなので先生の表情はわかりません。声色からも感情がわかりません。大人からの気持ちを素直に受け取らないわたしに呆れ返っているのかもしれない。わたしは何か間違ったことを言ってしまったのでしょうか。



 少なくとも、先生は他の大人とは違う。頭ごなしに否定せずわたしの話を聞いてくれる。絶対というものは無いけれど、わたしから先生への信頼は絶対であり続ける。


 促されるまま、図書室で調べて身に着けた知識を基に、心配してる事柄を全て述べました。

 今ある環境は壊れて欲しくない。崩れたとしても先生との関係だけは残っていて欲しい。どんなに遠回しでも、結論として先生と別れろっていうのだから、魔女の称号は返上してやります。


「僕は受け取って欲しいと思っています。」


 絞り切った布巾から最後の一滴を絞り出すかのように吐露したわたしの想い。

 わたしの不安と心配を、先生は蹴っ飛ばしてくれました。いつもの声色で、あっさりと。


 ずっと近くで見ている先生だからこそ、ここはわたしの意向に沿って欲しかったのだけど。





 先生は、前例の無い新たな魔女の取扱いについて、当事者抜きで行われた会議で決まった話をしてくれました。

 それを最後まで聞いて、それでもなお意思が変わらないのならそれでいい。夜明けの魔女は存在しない架空の存在になるそうですが、あくまでわたしの意思が尊重されると言います。



 前提として、夜明けの魔女は実在する。太陽の魔法をもって学園都市は実際に救われた。ここは変えようが無い。

 次に、アサヒ・タダノが魔女と同一人物だという事実を知る魔法使いは限られている。あの会議の場に居た学園の職員が口を滑らせなければ、このことを知っているのはあそこにいた数十人だけ。



 ここからが話の本題。


 事情を知らない多くの人が、わたしを魔女として認識できない。それが同じ学級のクラスメイトであっても。

 前例のない新たな魔法を産み出すという特徴から謎を紐解いてわたしに到達するかもしれませんが、最終的にわたしが否定すればいいという。


 存在を認識されない夜明けの魔女は魔導師としての特別な待遇を受ける事ができない。

 誰にも認知されていない、特別待遇されない魔女はただのヒト。

 魔女の名は賞状一枚、トロフィー一本、メダル一枚と同じ。わたしが望まなければ、魔女としての特権は発動されない。


 冠名を持つ魔導師からすれば、こんなのは無礼千万。不敬の償いに街を焼き払われても仕方のないことだそうです。

 古い考え方とはいえ、いくらなんでもそこまでやる必要は無いと思います。先生も同意してくれました。


 称号を得たといって、学園都市の重役に就職したわけではありません。

 職員ではないので従事する義務も、何らかの研究成果を出して貢献する義務もありません。試験で落第してもこの名は剥奪されない。善き魔女から悪しき魔女に評価が変わるだけ。


 つまり、つまりだ。今までと何ら変わりのない生活を送って問題ない。そういうことで、いいんでしょうか。


「はい。何も変わりません。アサヒさんはアサヒさんのままです。」


 変わるとすれば、強く吹き付ける風評被害が収まるくらいだと、先生は仰いました。


 事情を知る人達は、先生を含めた今の特別学級をあまりよく思っていない。

 魔法使いにとっての序列は強烈な影響力を持っているので、上位存在の魔女はそんな彼らへの牽制になる。


 わたしが魔女になったと知っている人物が先生や特別学級に嫌がらせを行えば、それは魔女へ宣戦布告をすることになる。それがどれだけ危険な行為なのか知らぬ人達ではないはずだ、と。





 話を聞き終えて、安心したら力が抜けてしまいました。

 先生は最初、わたしに魔女の名を授けることには反対してくれていたそうです。 


 学園都市とここに住まう大勢を救った偉業に対して贈るべきものとしては最適。

 そう決まりかけた時に先生が声を上げました。


 とある国王からの諫言にもあったように、子供の環境が急激に変化するのは成長に著しい影響を及ぼす。該当の生徒は無意識に魔法を使えてしまう。人としても未熟なまだ入学から一年にも満たない者を魔導師として持ち上げるのは危険だと、全面的に反対した。


 ならばどうするのか。先生が出した提案が先程の通り。

 それが彼らへの侮辱であると知りつつも、アサヒ・タダノに対しては魔導師としての扱いをしない。魔女として認定されていても、今までと変わらずに接するというのだ。


 常識外れと罵られたそうですが、先生はこの条件でなければアサヒは受け入れないだろうと譲らなかった。わたしの師として魔女の指名を認めないとまで言い切った。




 夜明けの魔女は前例のない、新しい形の魔女でした。

 学園での生活が、先生との関係が無くならないのであれば、何にも問題はありません。


 得るために全てを失うことになるモノではなかったのだ。いや、そうだったのだけど、先生が変えてくれた。

 つまり、これは先生からのプレゼント。どんな暴言を受けたのか知る由もありませんが、そんな言葉の暴力にも屈さず勝ち取ってくれたもの。無下にするなんてとんでもない。


「先生、この話、やっぱりお受けします。」

「わかりました。明日、朝会で伝えておきます。」


 今回も助けてくれてありがとうございます。

 先生を好きになれて、アサヒ・タダノは幸せです。


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