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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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夜明けの魔女

 おはようございます。

 徹夜の作業でしたので、起きてもまだ眠いアサヒ・タダノです。

 切羽詰まった対策会議の中、思い付きで新しい魔法を産み出してしまい、学園都市を救ってしまいました。


 成果を得ましたが、わたし達特別学級を白い目で見ていた大人を見返すことができたとは思えません。人はそうそう変わるものではない。今まで散々な迷惑をかけてくれた人達が助けてくれても今までの感情を全て置き換えるなんてできないのと一緒です。


 今回作ってしまった太陽の魔法の仕組みは会議の場で説明した通り。公への発表もあるので、おおよそ一週間で呪文や魔法陣を完成させなくてはならない。記念式典で使用する花火の魔法の作成に間に合わなかった前例がありますので、事後処理の中でこの研究もしないといけないのは余計に大変でしょう。

 表面温度が何千度ともいわれる太陽を模した火球は力加減を間違えればすぐに全てが焼き払われてしまいます。それを意のままに操るという難題に大人達がどういった答えを出すのか楽しみです。



 外壁の上で眠ってしまったわたしが運び込まれたのは、残念ながら先生の家ではなく、学園の医務室でした。

 見慣れた景色であれば安心できるのですが、他の大人達の目もあります。先生の立場も考えてここは妥協しましょう。


 最近、目覚めてすぐに行う日課があります。

 朝いちばんで願いを形にする魔法を使います。この魔法を失うのは私自身の存在が無くなるのと一緒。たとえ失わずとも、なにか異常を感じた時には早めの対処が求められるのです。


 今日も大丈夫です。とんでもないことをした後ですが、魔法は使えます。なにも心配ありません。




 これからどうしようかと考えているうちに、何らかの魔法でわたしが目覚めた事が報告され、逃げる間もなく名前の知らない教師達に呼び出されました。寝起きで先生との連絡もできておらず気が進みません。しかし先生以外の大人は規則や古いルールにとてもうるさいので待たせてはいけません。あの人達、扉を叩くノックの回数にさえ文句を言ってくるのです。ああ、関わりたくない。


 召喚に応じた先では質問責めに遭いました。いえ、質問ではありません、尋問です。

 わたしの存在は教師陣には周知されています。今ここでわたしの魔法に憤る人達は入学時のことを覚えていないのでしょう。大人が覚えてなくてもわたしは忘れません。測定の魔法が使えなかった時に大激論が交わされたのは記憶に新しいです。


 どんなイカサマをしたのかと責め立てられました。入手する手段が無いのに願望器の使用さえも疑われ、全て理事長を交えた演技だと自白すれば今回の件は目を瞑るとまで言われてしまいました。

 サワガニさんが幾度となく接触を図ってきていることから、わたしを彼の手先とも疑っているんだそうです。


 彼らは自分達の考えこそが正しくて、その間違った正解の為の土台作りにわたしを呼び出した。

 魔法の作成に際しての質問や確認ならば寝起きでも協力を惜しみたくないのだけど、これには協力できません。言われるがままに自白したとして、わたしだけ良くても先生の立場が危うくなります。わたしの安寧は先生が居ないと成り立たないのです。


 何の前準備もしてない今、太陽を見せれれば不正がないことを証明できます。

 それで彼らが満足してくれたらいいのですが、満足するでしょうか。

 小さい太陽は簡単に作れるけれど、昨晩の規模にするのには仕掛けがあるとゴネられても困ります。



 こんなものは簡単だとヘラヘラと笑う教師から、リンゴぐらいの大きさの玉が手に触れると燃える仕組みを見せて頂きました。地域によっては魔法使いは手品師とも言われていますし、魔法を作るよりもこんな子供だましの小細工を考えるほうが楽なんでしょう。


 自信があるのでしょう。手を火傷しながらも笑顔は崩しません。本当に太陽を作ったのなら今この場でやって見せろと言います。

 魔法の使用許可が下りたので、部屋の真ん中に火の玉を作りました。

 昨晩と違い自分で操作できますので、温度や明るさの調整も思いのまま。これが種も仕掛けも無いわたしの魔法です。

 軽薄な笑顔が凍り付き、集まっていた大人達からどよめきが上がったのは気分が良かったです。



 いい年の大人が女子児童一人を取り囲んでいた状況は長く続きませんでした。

 疑っていたことに対しての謝罪を述べる事がなく一人二人と去っていき、医務室ではなくこの場所に居ると気付いた先生が様子を見に来た頃には誰もいなくなっていました。


「一人にさせてしまってすみません。」


 謝るのは先生じゃないです。頭を下げる必要があるのは勝手に色々決めつけて、自分達の想像を正当化しようとしたあの人達です。





 目覚めてすぐにそんな事件があったりはしたけれど、次の日に、大雪の解消に関しては筋書き通りの公式発表がありました。


 難しい言葉が多く並べられているのですが、あくまで学園都市の機能維持を優先し、壁の外の出来事にまで関与はできないという運営の姿勢を示しています。

 壁の外への外出先で所在が掴めない人が何人いるとか、どれだけ大変なことになっていたのか理解が及びません。わたし自身、太陽を作って維持するのが精一杯で、雪が解けたことでの二次被害なんて考える余裕はありませんでした。

 

 太陽の魔法に関しては、偶然街を訪れていた魔女の手を借りて事なきを得たとの記述がありました。

 会議の場で一週間かかると言ったとおり、二日では完成できなかったのでしょう。見た者は多いが完全に習得できた者がおらず、彼女が見せた魔法の解析と研究が続けられるとされています。学園都市内の魔導師達の功績として出さなかったのは意外です。

 

 学園都市で願いを形にする魔法を知るのは教師達と生徒の一部。その定義を変えるつもりはないようです。

 もし知られてしまったら、研究材料として拉致されたり養子縁組を願い入れされたり婚姻関係を迫られたり弟子として迎え入れされそうになったり弟子入りしたいとスライディング土下座ついでにスカートの中を覗かれそうになったりで安心した生活ができません。

 わたしはこれからも、魔法が使えず特別学級送りになった落ちこぼれの地位に甘んじましょう。



 ただの学園生徒として掲示板の前から去ろうとしたのですが、何か見逃してはいけない一文があった気がして、もう一度張り紙の前に立ちました。


 どこだ、どこだっけ。

 大雪の被害、原因……ここじゃない。今後の突発的な災害に対する心構え、これでもない。

 太陽の魔法の項目だった気がしました。どの辺にあったのか分からないから一行目から全部通して読み返します。



 あった、ありました。太陽の魔法を使用した魔女に関して。

 偉業を為したのに何の見返りも求めず街を去ったそうです。この発表を文章のまま素直に受け入れた人たちは、忌避すべき特別学級の一人がその魔女だとは思いもしないでしょう。

 問題なのはその項目の末文。


『関係各所と協議を行い、旅をする魔女に「夜明け」の名を献上すると決定した。』


 冠名は魔法使いの社会で多大な貢献や蛮行を行った者に贈られる最大級の称号であり、最大限の烙印だと言われています。

 たった一人で竜を退治する者や、数万人の軍勢を言葉一つで消し飛ばした者、学園都市を建造した者も何らかの称号を得ています。

 それが、太陽の魔法を行使した人物に贈られる。つまり、わたしが、夜明けの魔女に。




 降りはじめから除雪作業をしていたのは職員の皆さんです。

 学園都市の機能が停止しないよう必死にリソースを割り振って現場を指揮したのは理事長です。

 わたしはただ、会議の場でテキトーなことを思い付きで呟いて、本来一週間かけて練り上げるものをその場限りで使っただけ。眠いわたしを支えてくれたのは先生です。後始末だって、学園都市の住人が総出で行っている最中です。


 物事の分別もつかぬ子供ならば、称号を受け取った事で思い上がってもいいでしょう。

 わたしは独り身だけど、先生が居て、皆がいるからこうして立っている。決して独りで生きているわけではないと理解しています。


 だからこそ言います。今回も、わたし一人では何もしてないです。

 太陽の魔法で学園都市を温めたのは事実ですが、この記述にあるように突然現れ事態を収め風のように去った謎のヒーローではない。


 何らかのご褒美は期待していました。

 ですが、マッチポンプを疑う人達にも配慮して、アイデアを出したことを讃える表彰状一枚程度で終わると思っていました。

 それがまさか、いろんな段階をすっ飛ばして、名前付きの魔女?




 魔女と言えば、知っている存在が居ます。

 違う人生を生きた、別の時間の未来のわたし。黎明の魔女、アサヒ・トゥロモニ。


 黎明とは夜明けの事。翻訳次第では同じ呼称となるでしょう。

 もし得られるとしても、ずっと先の、わたしがもう生きていない遠い未来でそう呼ばれる事になったかもしれないもの。


 魔女になったらどうなるのだ。立場上、学園に居る必要がなくなる。自主退学させられるのか、それとも講師として在籍することになるのか。魔導師と魔女は立場上は理事長と同等かそれ以上。先生との関係はどうなる。魔女に魅入られた教師という位置づけにされてしまうんだろうか。そうなるとサワガニさんの手先のような扱いを受け、教職を追われることになる。


 先生としての先生とは一緒に居られない。これは大問題だ。大雪やサワガニさんの襲来なんて比ではない。


 なんだこれは。どうしたらいいんでしょう。

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