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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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おやすみ前の反省会

 想定以上に大きくなってしまった太陽ですが、わたしの心配をよそに真夜中の空を昼のように照らし、本物が山の縁から顔を覗かせる頃合いまで無事に役目を果たしてくれました。


 雨雲も晴れていて、清々しい夜明けの空が朝焼けに染まっています。わたしが一番好きな空模様が広がっています。

 澄んだ空から飛び込んでくる朝日と、雨上がりの湿気交じりの生暖かい風が徹夜明けの身体に沁みわたります。

 この暖かさなら、解けきれずに残った雪も今日中には消えるでしょう。




 学園都市にかかっていた負荷というのは要するに重さ。雪の重みに耐えきれず建物が倒壊するように、壁の外の天変地異から街を守っている機能が停止してしまうこと。


 外の気温が下がれば水道管は凍結します。水は凍ると膨らみますので、細い管を内側から破壊してしまいます。

 下水も同様に凍ります。比較的太い配管ですが凍る時は凍るし詰まる時は詰まる。排泄物が逆流して室内に上がり込んでしまうという衛生的によろしくない状況が起こりかねません。


 基幹部が停止すれば、照明や、便利な白物家電を使用する為の電力も喪失します。

 学園都市がどういった仕組みで電力供給を行っているのか説明を聞いてもさっぱりわからないのですが、とにかく電気が使えなくなる。自分の魔法で電気を産み出すにしても、一定の出力を安定させるのはそれなりに難しく、不安定な電力を通した事での照明機器の破損報告が普段から絶えないそうです。


 中央の管理を離れた単独での動作はできません。

 学園都市の全てが一度中心部を介しているので、単体での動作はあくまで擬似的なもの。大元が停止すれば先程まで頭上に居た偽太陽のように自力で魔力補給を行えるもの以外は役に立たなくなってしまいます。


  停止する恐れがあった学園都市の中枢部は、他に例えるものがあるとすれば主幹ブレーカー。

 一括管理はするほうもされるほうも便利なんですが、根幹部分が停止すればトラブルが起こるのは必然。環境管理の一切を全て学園都市の中枢におまかせなので、住人は危機対処をしようとする心構えが無い。何か起きてからの対策では職員の手が足りず、間に合わない。


 もし停止してしまったら、基幹部の復旧と住人からのトラブル対応を同時に行わなければなりません。

 学園都市は願望器が何個分でしたっけ。とにかく規模が大きい取扱注意の危険物。一度止めたら再起動にどれだけの時間がかかるか予測ができない。うまく立ち上げても負荷が残っていたのでは再び停止してしまう。積雪や横殴りの暴風をどうにかする必要もある。住民はどんどん遅れる対応に不安と不満を募らせる。取れていた統率も散っていく。一度乱れたものを元通りにするのにどれほどの時間がかかるかは見通しが立たない。


 それが、すぐに対処できなければ一時間で始まってしまう状況だった。

 単語だけを聞いてとりあえず危険な状態だったというのは雰囲気で理解してましたが、ここまで大変なことになりそうだったとは思っていませんでした。



 なんにしろ、此度の学園都市崩壊の危機は未然に防ぐことができました。

 これにて一件落着。どこかの地方の方言で述べるのなら、「どんとはれ」というやつです。





 わたしには帰る家がありません。今やこの学園都市が故郷であり、この街以外で生活するなんて考えられない。

 願いを形にする魔法を使う理由としては十分です。


 維持する為の魔力を外部から吸収し続けるように作ったので、わたしが眠らずの火守りをする必要もありません。

 それでも、何かあった時には対処する責任があると感じてずっと起きていました。今となっては全て杞憂。


 先生の言う通り、あのままで問題ありませんでした。

 学園都市が、創造神への冒涜とも言える星の創造という禁忌を犯して滅びた都市にならなくて本当に良かった。

 考えなしに使えば本当に何でもできてしまうわたしの行為は、まだ世界の掟を破り裁かれるまで至っていない。


 いやいや、何故、魔法を使ったことに対しての言い訳を考えているんでしょうか。

 普段から自分の都合で蛇口から水を出すかのように使っているじゃないですか。何をいまさら。





 先生はずっと傍に居てくれました。

 一時は言葉を疑ってしまったけど、信じていてよかった。


「後は全部やっておきますので、アサヒさんはお休みしていいですよ。」


 先生達の仕事はまだ終わりません。

 大雪で受けた被害状況の確認や破損箇所の復旧の手配など、やることは多い。わたしの魔法は公にできないので、太陽の魔法の呪文作成もしなくてはいけません。吸い込みが強過ぎると大きくなりすぎる等、詰めが甘い部分はありましたが、プロの仕事なのできっとなんとかしてくれるでしょう。

 サワガニさんに関係したものをクロード君に全て押し付ける形になるのは申し訳ないと思います。



 緊張が解けたことで眠気を抑えていた魔法まで解けてしまいました。

 焦点が定まらず、縋りつきたかった先生の腕に手が届かなくて、何もない場所を掴んでしまいます。


 わたしはもう眠気の限界だけど、伝えたいことがありました。

 それを伝えるまで眠るわけにはいきません。


 先生も、理事長も、会議に集まった教師達も、皆休んで欲しい。

 学園都市が崩壊するかどうかの瀬戸際で、皆ずっと張り詰めていた。今から何をするにしろ一旦休息を挟んだほうがいい。

 眠らないことで人の判断力は落ちる。わたし自身も今この場で体感しています。


 よろけた身体を支えてくれた先生の腕をしっかり掴みました。

 今この場に居るのが先生に化けた偽物じゃないことを祈ります。


「大丈夫ですか、部屋まで戻れそうですか?」

「休むの、先生も、一緒に……」


 浮いていくのか沈んでいくのかわからない浮遊感に包まれます。暖かい風と朝日が本当に心地よい。

 本物の太陽からの、大事を解決に導いた褒美と言わんばかりの気持ちよさです。抗うなんてできっこない。


 ずっと抑えていた衝動はとても強く、先生に伝えたいことが伝わったか確認する余裕もありませんでした。

 先生もちゃんと休んでくださいね。おやすみなさい。


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