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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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おかえりなさい

 最初に。わたし一人の発言は子供の戯言です。


 学園都市の情報全てを網羅し観測できる探査の魔法をハッキングしたなどと話しても、きっと誰も信じないでしょう。

 環境の変化で強いストレスを感じて感情が不安定になっている。そこで激しい思い込みをして支離滅裂な言動を行っている。そう捉えられるに違いない。それが人間として未完成と評される子供というものです。


 何の力もない、ただ従うことしか許されない子供の訴えをどう伝えるかが問題です。

 わたしの目的は先生を先生のまま返して貰う事。先生を取り戻す。これは絶対に曲げてはいけないし、妥協してはいけない。


 今まで幾度となく様々な事件を経験してきましたが、わたし自身が何か行動を起こして解決した事は一度もありません。ひたすら状況を長引かせ、力のある人物に全て丸投げしています。それで評価を得ているのですから、何も知らない人達からはなんて姑息な子供なんだと批評されているに違いありません。

 目的は先生なので、別にそんな相手を見返そうとは思っていません。好き勝手言わせておけばいい。



 特別学級が隔離されているのは差別や偏見から逃れる為ですが、他との関わりが少ないのは弱点でもあります。こういう緊急事態に誰かに助けを求める事ができないのです。

 その弱点をナミさんが克服してくれていました。彼女はマツリさんという一国のお姫様とのコネを手にしています。自身があまり快く思っていない物でもありますが、使える手札としては非常に強い。なにより、護衛にガッチリ守られて近寄れない彼女に連絡を取って秘密裏に接触を図るなんて面倒な手順を踏まなくていい。いま、目の前に居るんだから。



 脳みそが膨れ上がって爆発してしまいそうな頭の痛みに耐えながら、わたしの姿に怯えるマツリさんに頭を下げました。

 子供の訴えを戯言と一蹴せず、すぐ対処する為の方法がある。その為には、保護者という子供の味方が必要。


 他人との接触が少ないわたし達では頼める人間が居ない。自分達で解決できないのはとても不甲斐なく、いくら友人でもマツリさん自身が嫌がっている国賓待遇を利用しようなどと烏滸がましい。

 どんなに卑怯だと言われてもいい。先生を助けたいんだ。



 マツリさんは、快く引き受けてくれました。

 目の前でいきなり魔法で自滅したかと思えば、今度はその立場に頼らせてくれという意味不明な言動を行う友人なんて、普通に考えれば関わりたくないでしょう。


「ダメだったら、皆で怒られましょう。」


 損得を気にせず力を貸してくれる。友人とはこんなに良いものだったんですね。





 翌日、学園理事会向けに、ある国の王様の署名入りの手紙が届けられます。


 別れてすぐにマツリさんは実家に連絡を取ってくれました。

 娘の友人の危機を聞いた国王陛下は今まで見た事も無い程に激昂し、家臣達は自ら出陣しそうになる陛下を抑えるのが大変だったそうです。内政事情があまり思わしくない中で手を貸して頂けるのは本当にありがたい。この恩は国王直属の魔導師として仕えても返せそうにありません。



 休日であるにも関わらず全職員が招集をかけられて、全員入るようにと大きく拡げられた会議室で、緊急の会議が始まりました。

 手紙の内容を要約すると、『娘が心を病んだ。今すぐどうにかしろ』。

 会議の場は大騒ぎ。混乱するあまり、自分で自分を殴りつける教師が出る程です。賢者達が雁首揃えてこの様というのは滑稽極まりない。



 学園都市としての立場で考えるのならばそんな脆弱な生徒は不要。環境についていけない者は切り捨てるべきと考えるでしょう。でも、これは地位のある保護者直々の訴え。国家にも属さない団体ではあるものの、対外関係の悪化はなるべく避けたいはず。


 退学を促せないのなら、隔離した上で、環境の変化で受けた心の傷を癒すほかない。

 彼女一人の問題ならばそれで矛を収めて貰えるかもしれないのだけど、それで済めばこんな大騒ぎにはなりません。手紙には彼女が精神的不安定になった要因も明記されていました。



 陛下からの手紙には、相談を持ち掛け解決に導いてくれた、国の恩人でもある教師が無実の罪で逮捕、勾留されている。教師として尊敬する人物に対しての処遇の悪さに憂いていると記されています。さらには人を導く者が罪なき者に悪事を塗りつけ罰するのかと糾弾する言葉も添えられています。


 手紙を読んでいませんが、中身を全部知ってます。なぜならば、それはわたしの訴えだから。

 全てマツリさんのお父上に代弁してもらいました。陛下のお言葉として非常に強いものになるので内容の確認と変更はお任せしました。一字一句変えずに届けてくれたのは意外です。これが王の器というやつなんでしょうか。




 先生の、学園への貢献度は頭一つ抜けている。

 それを踏まえて疑うほうがおかしい。何が陰謀だ。なにがよからぬ企みだ。先生が管理しているから都市の治安が悪いんじゃない。先生が居るからここまで抑えられているんだ。

 わたしを身売りの誘拐犯から救ってくれたのも先生だ。忘れてはいけない。


 先生の今までを振り返った事が裏付けとなり、即時釈放が決まりかけたタイミングで、声を上げる人物が居たそうです。

 彼は注目の中で高らかに演説したそうです。個人面談は教師と生徒という立場を弁えていない。たとえサヴァンの手先でなくとも危険である。彼に関係した者全てを直ちに処刑すべきだと。

 先生が積み上げた信頼と実績の前に、過激な主張は無力でした。


 管理する側ならば監視記録も自由に操作できると勘違いしていたのが思い違いです。

 学園都市が持つ膨大な記録に対して管理する人間ができるのは閲覧だけ。たった一行書き換えるのにも願望器三つ分の魔力量が必要で、そこまで大きい魔力が動けば都市の環境が崩壊してしまうのです。





 彼は、最後まで先生を悪と断じる根拠を出す事ができませんでした。

 そこまでして先生を引きずり下ろしたい理由も気になりましたが、今はもうどうでもいいです。


 だって、先生が帰って来れたのだから。


「ご心配、おかけしました。」

 

 留置場の門の前に集まった特別学級全員。それと、協力してくれたマツリさんとその従者の皆さん。

 全員が、わたしの言葉を待っていました。


 先生の身体に傷はありませんでしたが、取り調べでどんなに酷い言葉を投げかけられたのか想像もできません。せっかく取り返したのに、今この場でわたしが心無い言葉でトドメを刺してしまっては本末転倒です。


 何か言わないといけない。言いたい事はあったはずだし、戻ってきたら最初にどう声をかけようかとイメージトレーニングもしていたはず。

 色々あったはずのに、無事な先生を見たら安心して、全部吹っ飛んでしまいました。頭の中身は真っ白です。


 喉の奥からこみ上げてくるものがある。目頭も熱い。ここでただ泣きじゃくっても許されるんだろうけど、それは先生の愛人としては何か違う気がしてならない。さあ、どうしよう。


 無くしてしまいそうだったものが帰ってきたというのに、現実感が薄い。目覚めかけた夢のように身体が重い。もしかしてこれは夢なのか? 目が覚めたら先生の追放当日だったりしないだろうか。


 夢ならそのまま飛んでいくつもりで体当たり。

 一週間にも及ぶ勾留で身体も弱っていただろうに、受け止めてくれました。

 大丈夫だ。ここにいるのは間違いなく先生だ。



 わたしは服に顔を埋めて嗚咽を堪え、口にしました。


「おかえりなさい。」


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