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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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カップル割はまだ早い

 恋愛関係にある者同士に対しての割引等の優待制度。

 わたしがその概念を知った瞬間の衝撃を言葉で語るには語彙が足りません。


 人と人のお付き合いに損得を当てはめるのはナンセンスだと思いますが、得であれば良いに越した事はありません。

 二人で共有する時間をささやかな幸福感でお手伝いするだなんて、素晴らしすぎて涙が出そうです。

 人に言えば『長続きしない』とか『一時の感情を利用されてる』とか散々に言われるわたしと先生の関係も、そのシステムは他の人達同様、平等に祝福されるべきものであると判断してくれる。既存の価値観に基づいた人の感情を介さずに応援してくれる。そんな新しい文化にわたしは感動いたしました。




 この制度を用いてみたいと願うものの、利用する機会に恵まれませんでした。

 先生は休日もわたし達の授業の為のお勉強と資料作り。体調が優れない時の為に他の教室よりも授業内容の進捗が速くなっているので、それに関しての報告書も作らないといけません。短縮と圧縮の魔法技能の考え方を応用した詰め込みの授業なので、ゆとりの無さに他の教師達からは批判が多いんだそうです。受けているわたし達からすればとてもわかりやすいので、批判している方が何かを間違っていると思います。


 聞き入れようとしない石頭を言い包める為の方便も考えねばならないので、先生の休日は家に籠りきり。この間の三連休のようにほぼ一日休める機会はそうそう訪れない。あの時に温泉に誘ったのは正解でした。




 機会が無いのならば先に予定を作ればいい。そう考えたわたしは偶然見つけた喫茶店での催しに目を付けて、行くために色々と手を尽くしました。

 一生懸命頑張ったのですが、そのすべてが直前で水の泡に消えました。


 学園都市内のトラブルは年中無休。特に学園都市全体を捜索するのに関しては先生の持つ魔法が一番精度が高いので、待ち合わせの場所で落ち合って、まさに今から行こうというタイミングで招集がかかってしまいました。

 人の手があれば早く解決する。短時間で片付ければ間に合うと思って志願したわたしも交えての共同作業。ただの遺失物探しから学園都市存亡の危機に至った事件はその日のうちに無事解決したものの、事後処理が終わったのは日付が変わった頃。また次の機会があると仰ってくれましたが、短時間でカタが付けられなかった不甲斐無さで泣きそうになるのを抑えるので精一杯で、優しさを受け取れる余裕がありませんでした。ごめんなさい。



 目的が達成できずモヤモヤしたまま過ごした一週間後、偶然にも利用する機会が巡ってきました。

 文具等の消耗品を買いに行く先生の付き添いで来ていた商店街の端に、自然の色そのままで殺風景な場所には似つかぬファンシーな色の看板を掲げる喫茶店があるではありませんか。

 行く店の順路まで決めて無駄なく動き回る先生について行きながら、喫茶店のメニューから、目的の制度があるかを窺います。


 なにやら見慣れない形式を採用しているみたいですが、制限時間内で食べ放題飲み放題のお店の様子。

 目的のものはちゃんとありました。今このタイミングでそんなお店を見つけられたのは奇跡です。ここに入ることができたのならば、あまりにも上手い妨害の仕方に誰かの陰謀を疑っていたわたしのモヤモヤも晴れるでしょう。先生への糖分補給もできるので濡れ手に粟ですよ。



 注文してから受け取れるまでの時間まで計算された全く無駄のない順路で商店街を巡る先生をどう説得したものでしょう。

 すぐにでも帰って明日の準備に入りたいはず。たった生徒五人分と思われそうですが、先生の教育にはその五人分の人生が懸かっている。大変なんです。


「次の店で最後なので、終わったら休憩にしましょう。」


 そう仰った先生が指さしたのは、喫茶店の場違いな色の看板。移動中にわたしが喫茶店を気にしている様子は先生にしっかり勘付かれていました。


 いいんですか先生。早く帰って支度したいのではないのですか。それに先生のお年頃ではああいうキラキラしたお店は誰かの同伴でも入り辛くないでしょうか。

 突然の申し出に動揺し、返事もままならないわたしに対して、先生は微笑みながら仰ってくれました。


「ずっと付き合わせてしまいましたし、お供しますよ。」


 最後の用事を終えて、いざ目的の喫茶店へ。

 目的はただ一つ。そう、カップル割。




 食券を従業員に提出して、制限時間を店内で過ごすというこちらのお店。

 その食券の販売機の前で、目の前にずっと求めていた物があるのに、手が止まってしまいました。


 わたしは数字がわかります。足し算引き算の簡単な計算ならば暗算もできます。学級内の成績こそ二番目に甘んじてはいますが落第ギリギリのおバカではありません。

 入ってすぐに気付いて、そんなはずはないと何度も計算しなおしました。でも間違いではない。


 カップル優待は大人二枚向けのオプションです。当初の目的はそれで達成できますが、押すことができなくなってしまいました。

 なぜならば、大人一人と子供料金のほうが安いから。


 経済的な負担を考えれば子供であることに甘んじるべきだ。無理に背伸びしてもいいことなんてない。

 いいや、わたしは知らしめたいのだ。教師と生徒は立場のアンバランスさで一方的に搾取されるような関係ではないことを。


「お子様向けはこちらになります。」

「すみません、後ろ詰まってしまうといけませんから、押してしまいますね。」


 従業員のお姉さんが親切に教えてくれましたが、操作方法が分からないのではないのです。対等な関係であると主張したい気持ちと、経済的に無理をさせたくない自分が土壇場で戦っていたのです。ああ先生、待って、押さないで。




 陳列されてたスイーツもは大変美味でございました。小食なので量は食べられませんでしたが、今まで体験した事のない甘さと食感は二度と忘れられません。

 先週無くなってしまった予定を奪い返せて、先生とのひと時を過ごせたのは確かに良かったです。商店街の片隅にこんなお店がある事を知れたのも収穫でした。


 わかってる、わかってるんだ。先生の判断は正しい。

 特別学級の生徒が教師の目の前で、学園外の場所で他人に迷惑をかけたなんて知られてみろ。引率していながらの失態に、この関係を嫌う水を得た魚のように元気になって、餌に群がる鯉のように先生を叩きにかかるだろう。わたしはそれを望んでいない。

 先生はそこまで考えてはいないでしょう。従業員の方も急かす為に声をかけてくれたわけではない。皆優しかった。疑心暗鬼になっているのはわたしだけだ。


 値段の差で迷ってしまった理由はわたし自身にある。わたしは実家からの手切れ金を磨り減らすだけの生活をしている。差額はそこまで大きなものじゃない。経済的に余裕があればこの程度で迷う事はなかった。経済的な貧困は思考さえも鈍らせてしまうというが、まさにその通りだった。


「この借り、絶対返します。」


 先生は貸し借りは無し、お互い様だと仰ってくれました。その優しさも今はちょっと辛いです。

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