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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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父上は黙ってない

 一度は告白を蹴ったことになるクラスメイトに背負われているアサヒです。

 現在、三度目の正直と言わんばかりに再びわたしを求められ、拒否すべく逃走を図っている真っ最中です。



 ただでさえ歩幅が合わず、二人分の表面積もあるので当たり判定が大きい。逃走するのにこれは不利だと判断したわたしが彼の背中に身を預けました。

 当たる胸のふくらみもありませんし、この程度は浮気でも何でもありません。彼は彼で友人として信頼していますので。



 ほぼ毎日見ているのですが、流石は男の子。いつの間に成長したのか、身体の強化が無くともわたしなど容易に運ぶことができてしまいました。


 わたしが育ってないだけかもしれません。いいえ、そんなはずはありません。踏み台が無くても先生の肩に手が届くようになりました。ちょっと跳ねないといけない時もありますが、十回中一回くらいは届くように、なったはず。ですよね?





 それにしても、クロード君はなぜ校舎の中に逃げ込んでしまったんでしょう。


 貴族のご子息の今の配下は三組全員。前は他のクラスも手中に収めつつありましたが、特別学級と同様に接触されないように隔離されたので、今は三組だけ。

 その三組は学園の中でも大きな学級で二十人居ます。手下の人数が限られてるなら、逃げ隠れできる範囲が限られる校舎よりも、広い街に出たほうがいいと思います。


 とはいえ、あの一瞬でどっちに駆け出すかの判断はわたしも迷っていました。

 だから挽回はできます。校舎内で掻き回した後に脱出してもいいし、職員室に飛び込んで対処できる先生達にお任せしてもいい。

 ああそうだ、下手に逃げ回るよりも、むしろそれが一番かもしれない。


「クロード君、理事長室です!」


 三組は生徒指導の担当でも手に余る連中です。貴族のご子息と同じように、全体を動かせる鶴の一声が欲しい。そして教師たちを動かせる人物はただ一人。ならば考えられる答えはひとつ。

 行き先は理事長室。ルートは……わかりません!


「お願いできますか!?」

「任せて!」


 よく通っていて道順を知っているというので、進行ルートはお任せしました。





 わたしを背負ったクロード君を捕まえようとする三組は、校則違反の大盤振る舞いでした。

 魔法の使用は校舎内でもお構いなし。全て監視されているので、後に逃げるわたし達がやったと証言してもすぐバレるというのに。


 クロード君には走る事に専念して貰い、邪魔してくる網や草の蔓は全てわたしが払いました。相手は狭い廊下とはいえ浸水どころか水没させてしまう程に常識外れの妨害をしてきます。障害にぶつかる度に普通の魔法使いのように呪文を唱えていては間に合いませんが、わたしの魔法ならば間に合います。


「観察を忘れるな! 万が一逃がしても術式は我々の物に!」


 わたしは”そうしたい”と強く願うだけ。どんなに観察しようと意味がないのですがそれを伝える術はありません。でも、視ようとして手が緩むのは不幸中の幸いです。いらぬ労力で疲れさせましょう。




 そうやって走り回っていたのですが、理事長室にはなかなかたどり着けませんでした。校舎を三周以上回れる距離を走っていても到着しない。クロード君、迷いましたか。


「ごめん、やられた。」


 振り返らず、走りながらクロード君が呟きます。

 わたしの認識の外からの攻撃を浴びてしまったんでしょうか。それはわたしの落ち度です。すぐに治しますのでどこをやられたのか教えてください。


「あいつら、門の魔法に干渉してる。」


 門の魔法。学園の校舎の廊下を迷宮に作り替えている理事長の魔法です。つい最近この名前を知りました。


 聞けば、正しい道順を通っているはずなのに到着しない。自分達のやりやすいように誘導されているとのことです。

 学園機能の魔法に触れるのはあの筋肉理事長の逆鱗に触れるのと同義。学園都市外縁十周の罰だけで済まないでしょう。それすらも厭わないとは、三組の度胸には驚かされます。


 状況から察するに、これはまずい。今わたし達は相手の術中にある。いくら逃げても理事長室にはたどり着けない。門の魔法を解除する事もできるかもしれませんが、復旧はきっと大変なはず。いくらなんでもそこまで迷惑はかけたくない。


「作戦変更です、プランEで!」

「Eって何!?」


 クロード君と、わたし達の会話を聞いていた三組の生徒達が皆で驚きました。それでいい。驚く事で注意が散ります。乗り物にしているクロード君まで驚いてますが、敵を騙すなら味方からというやつです。



 魔法で、クロード君の身体を窓の外に放り投げました。背負われていたわたしも一緒です。

 彼からすれば、急に横から押し飛ばされて空中に放り出されることになります。状況が掴めないクロード君の軟着陸はわたしの魔法で行いました。いくら身体が育ったといっても、この高さから落ちたら骨が折れるだけじゃ済まない大怪我をしてしまう。


 君が好きになった女の子は突然こんな事する奴です。覚えておいてくださいな。




 外に降り立ったわたし達は、再び正門にやってきました。

 校舎から外に出るには必ず正門を通らなくてはなりません。この学園に通う者にはもれなくそういう制約が掛けられています。


「戻ってきたってことは、お、OKしてくれるって事だな……?」


 この男は何を言ってるんでしょうか。

 このしっちゃかめっちゃかな状況から離れたいからここに来たんです。君にいい返事をするために来たのではありません。


 敵は、正門の通路のど真ん中で腕組をして待ち構えていました。

 その制約を知っていて、破る事ができないのを理解してるから、彼は今ここにいるんでしょう。


 彼の目的はわたしの魔法。願いを形にする魔法はわたしだけの物なので、魔法が欲しいのなら私を手に入れなければならない。わたしを配下にすれば魔法も自動的に付いてくる。実に単純な発想です。

 わたしがわたしである以上、絶対にありえませんが。


 先生や皆の安全のために自らの身を差し出すかと問われれば、今回は否です。わたしにはわたしのことを信じてくれている先生がいる。状況を打開するためであっても、一時的に彼の要求を呑むことはしたくない。これだけは何があっても譲れません。


 お断りの言葉を考えていたところ、ご子息の後ろから大きな人影が現れました。

 影です。影の中から岩かと見紛う程の巨体が現れました。


「よう、派手にやってるなあ。」


 いつも遅れてやってくる、野太い声。今日は一風変わった登場の仕方をしてくれました。我らが理事長です。

 彼は驚きで物凄い表情になったご子息が何か口にする前に、その頭を片手で掴んでしまいました。


「探す手間が省けたぜ。お前いつも逃げてるからなあ。」

「俺に手を出してみろ! 父上が黙ってないぞ!!」


 親の七光りで威張り散らすキャラクターのお決まりの台詞。たった一言で校則違反を厭わない組織の頭領の威厳が萎れてしまいました。

 とりあえず、もう逃げる必要は無さそうなのでクロード君に下ろしてもらいました。わたしを背負ったままよく逃げてくれました。ありがとうございます。


「手紙に返事が無くて心配だったが、息災そうでなによりだ。」


 正門の外から聞き慣れない声がして、紳士が一人、靴を鳴らしながら歩いてきました。皺ひとつないスーツに身を固め、地位のある人物であると存在が自己主張しています。


「久しいな、息子よ。」


 なんということでしょう、貴族のご子息の御父上、つまり貴族の当主ご本人でした。

 本物の貴族なんて初めて見ました。実家に来ていた偉い人のうち誰かは貴族だったのかもしれませんが、わたしがそうだと認知できていませんので、そこはノーカウントで。


 ご当主はわたし達に一礼すると、理事長に案内されて、ガスの抜けた風船のように萎れた息子を連れて校舎へと歩いていきました。

 髪の色など似ている部分はありますが、体格だけはまったく一致していないのが面白かったです。




 理事長が門の魔法にまで手を掛けられたのに見逃していたのは、彼が威光を借りている父親本人に、息子がどれだけメチャクチャな事をしているのか実際見てもらう為だったそうです。


 謀略を巡らせるのはいいのですが、わたしが巻き込まれるまで放置するのはやめて欲しいと思いました。


 今回も、疲れました。


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