先生への誕生日プレゼント
ちょっと過去に興味を持ったら精神に大きなダメージを受けてしまいました。アサヒです。
昨日に引き続き頭が痛いです。
先生への誕生日プレゼント、わたしにはどういったものがいいのか分からないので、皆に決めて貰う方向でいたのですが、方向性を決めていなかったのは失敗でした。
現在の学園でただ一つの特別学級の頭脳が考え出した案は次の通り。
その一。なんでもする券五人分。
お金に糸目は付けない。出すのはわたしだと最初に決まっていたはずなのになんですか、その何も思いつかなかったけど何か渡した体裁を取り繕うべくひねり出した濡れタオルの最後のひと絞りみたいな案は。
その二。土地付き一軒家。
圧倒的かつ絶対的に予算オーバーです。ローンを組むにしても、未成年ですし学生ですし保証人もいませんから組めるはずがありません。仮にお金に目途がついたとして、いつ誰がどうやって契約してくるつもりなのでしょう。
その三。アサヒ・タダノの署名入り婚姻届。
それはわたしがネタ切れしたときの為の最終手段です。そうそう簡単に出すべきものではありません。もっと後、トドメの一手にすべきです。
その四。縛って眠らせたアサヒ・タダノを箱に詰めて贈呈。
その五。アサヒ・タダノをエプロン一枚だけ着せて部屋に送り込む。
その六。身体を成長させる薬を用いてアサヒ・タダノを大人にし、大人なランジェリーを着せて部屋に……
子供であるが故に発想が貧困なのはしょうがないとしても、よろしくない。
確かに先生に全て明け渡す覚悟はありますが、それとこれは違う。
途中から、わたしならば二つ返事で了承すると見込んでしまい、婚姻届けとセットでわたし自身をそのまま渡す方向で話が進められていました。
全て却下したのは言うまでもありません。なぜならば、わたしは既に先生のモノだから。
「また全部ダメって言ったー!」
せっかく出した案を全て却下してしまった事に対して怒られてしまいました。
確かに全て否定してしまうのはよくありません。そして対案が無いのも認めます。
お金を出すのはわたしなので、わたし一人でプレゼントを贈ることになってしまう。だからわたしの案だけで全部通したのでは意味が無いんです。皆、もうちょっと考えてください。わたしをそのまま贈る以外で。
「そういえば、昨日の理事長の用事ってなんだったの?」
理事長に呼ばれて教室を出て行ってから、そのまま戻らず先生の家に一泊なので戻ってきていませんでした。流石にそれどころじゃなかったので連絡しなかったのは申し訳ない。謝罪の意も込めてネタを明かしましょう。
一枚の写真を懐から取り出し、机の真ん中に置きます。
カエデさんが先生を連れて戻ってきた最に撮った、二人が腕を組んでいる一枚です。
「これ、先生と……誰?」
「亡くなった奥さんがちゃんと写ってる写真です。理事長に探してもらっていました。」
直接撮ってきた事はわたしと理事長と、カエデさんの三人だけが知る秘密。
先生は、列車で会ったのが最初の出会いと思っているようなので、召喚された子がわたしだとは思っていないでしょう。
わたしの持ち出したプレゼントに対しての、四人の表情は絶望そのものでした。
死に別れた愛する妻の顔写真のインパクトは大きい。どんなに凝ったプレゼントを渡しても、最後にコレが出てきたら印象を全て掻っ攫ってしまう。もうコレだけでいいんじゃないかという空気が漂っています。
でもダメなんです。贈るのならば、お世話になっている全員でないと。
「これを入れる額とかいいんじゃない?」
発言はクロード君。彼にもう買うことの叶わない怪しい道具のカタログを見せて貰いました。
普通の写真立てのような形状をしていながらも、写真アルバム何百冊分もの枚数を小さい記憶媒体に収める事で、部屋を圧迫させることなく簡単な操作で写真を全て閲覧することが出来る物があるそうです。
幸い、写真の本体は理事長のデジカメのカードの中。ついでに撮っていた写真も見ることができますし、写真を追加すればそれ一個でかさ張らないアルバムになります。狭い部屋でも安心です。
さすがクロード君、物知りじゃないか。何故そういうのを先に言ってくれないのだ。
そんな形で贈る物が決まりました。
残る問題はそれをどうやって購入するかですが、わたし達だけでは通販を利用する手立てがありません。なので理事長にお任せします。理事長を絡めれば、先生の先生からの贈り物も兼ねることになります。
散々問題を起こしたクロード君の発案と聞いて理事長は協力を渋りましたが、また勝手な手段を用いて問題を起こす危険性がある事と、使うのはわたしのお金という事で納得してくれました。
いえ、納得してくれたというのはちょっと違うかもしれません。あの口ぶりから察するに、説得を諦めてしまったようにも見受けられます。
大人の言う事を聞かない問題児と評判の特別学級ですが、現状、それはわたし達に限ったことでもありません。
学級崩壊によって教師の一人が職を放り出して行方をくらましてしまった事件は学園中に知れ渡っていて、その教師へのいじめを主導していたのが、以前、わたしのことを魔法で従えようとした貴族のご子息だというのも知られています。彼の名前など覚えたくもありませんが、取り巻きを大勢引き連れて闊歩しているのは生徒全体を見渡しても彼しかいませんので、どうしても存在は認知せざるを得ません。
貴族のご子息がいらっしゃるのは一年三組なので、彼がリーダーを務めるグループはそのまま三組と呼ばれています。
普段から問題の多い学園を管理しながら彼らへの対応もしないといけないので、さすがの理事長も疲労が溜まってしまったのでしょう。
ですが体調管理はわたし達がどうこうできるものではありません。そういったものに関しては大人のほうがしっかりしているはずなのです。
誕生日当日、デジタルフォトフレームという名前のついた写真入れはとても喜んで受け取っていただけました。
もちろんこれはただのフォトフレームに非ず。起動させると思い出の一枚が映ります。
その写真を見た時に先生がどんな反応をするのか、不安でした。
喜びに飛び上がるのか、それとも喪失の悲しみを再び思い起こして涙するのか。当時を思い出したのち、わたしが先生には無断で過去に行ってしまった事まで暴いてしまうのかもしれない。それが引き金となって嫌われてしまったら、わたしはこれからの生きる目的を失ってしまいます。
前向きに、失ったものを少しでも取り戻せたと思ってほしい。撮らせてくれたカエデさんもそう願ったはず。
そんな不安を抱えているのは、この場ではおそらく私だけ。事情をよく知る理事長はそこまで考えられない。考えていたとしても、疲労で頭が回ってない。
固唾を呑んで見守るなかで、写真を見た先生は口元を緩めて一言だけ呟きました。
「まだ、あったんですね。」
漫画かアニメのような目に見える大きなリアクションは取らず、静かに喜んでいらっしゃいました。
どこまで察したのか判断できません。ただ、恐れていた連想ゲームでわたしの事を嫌うところには行き着かなかった。それだけは安心できました。
ずっとカエデさんの写真を見たいと言っていたわたしにも見せてくださいました。
これは言いづらいのだけれども、その写真、撮ったのはわたしです。




