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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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写真嫌いのカエデ

 信頼を得ることができましたが、どうも都合よく話が進んでいる気がしてなりません。

 これは自分が見ている夢で、目の前の女性も本物のカエデさんではないかもしれません。


 どこからが夢なのかという疑問が生まれます。

 なぜならば、今のわたしは過去に飛ばされた部分の記憶が抜けています。急な場面転換も夢ならば納得できます。

 抜け駆けのつもりはないのだけど、皆とは別に何かプレゼントしたいと悩むあまりこんな夢を見てしまっているのでしょうか。



 わたしをぬいぐるか抱き枕のように抱きしめて愛情表現を示しているのが先生の奥さん本人なのかどうかは戻ってから理事長に確認をとりましょう。

 今この景色が全て夢であり、違うのならばそれまで。どこで見たと聞かれたら夢の中と正直に話します。



 既に達成できていますが、わたしの目的を忘れてはなりません。

 カエデさんの姿を知る事であり、故人からの信頼を得るのは必要ないのです。

 先生も本人だと喜ぶであろう素のままの表情も見れたので、呼ばれたわたし自身はお役目御免。さっさと帰りましょう。


 そう思ったのですが、カエデさんが離してくれません。

 杖やカメラもこの時代に持ち込んでいて、持ち帰りする事ができます。

 周辺の物を巻き込んでしまう可能性がありますので、帰る為の魔法は一人で、広い場所で使う必要があります。そう教えられました。今のままではカエデさんを未来に誘拐してしまいます。

 とても力が強くて抵抗は無意味。魔法よりも筋肉による肉弾戦を得意としそうな理事長に教わっている生徒だからでしょうか。愛情表現ならばと思っていましたが腕が痺れてきました。ちょっとこれはまずいのでは。


 学園都市でみだりに魔法を使っていけない理由は、咎められて追い出されるから。部外者ならば追放されても二度と来なければいいだけ。この時代にまだ産まれてもいないわたしならば自由のはず。三十路の先生がまだ十代なのですから、計算は合ってる。はず。

 いざという時の為にわたしの魔法があります。


 カエデさんがわたしを解放してくれたのは、魔法で拘束から逃れようとする寸前でした。

 話を聞くと、魔法を使おうとする気配を察知するのが得意なんだそうです。あるじゃないですか、個性。


 ここは理事長による体制の改革前。高貴な身分や血統でないものや能力が劣る者に対しての差別区別見下し蔑視は当たり前の頃です。

 魔法が使えないカエデさんに対し、普通に居るものとして同じヒトとして対等に接している方がおかしい時代。


 わたしがどう振舞おうと未来の自分自身に問題はないのですが、今この時代を生きるカエデさんは違う。ただでさえ鼻つまみ者の彼女が召喚器で呼び出したモノが騒ぎを起こせば、責任は呼び出した者に問われることになる。 

 危うくとんでもない迷惑をおかけするところでした。全て説明されずとも、そこまで察する事のできるのがわたしなのです。




 人の記憶はアテになりません。ほんの数分前に見ていた夢の内容すら忘れてしまいます。ここに来るまでの記憶が抜けてますからわたし自身も経験済みです。

 それ故にカメラを懐に忍ばせていました。

 記録したものを現像せずとも利用できるデジタルカメラという代物です。小型軽量化が進み、ついには携帯端末にその立場を追われるまでになるものです。


 撮りたいものがあると伝えると、カエデさんはとても恐ろしいものを見たように青ざめてしまいました。。

 魂が抜かれるとか目が潰されるとか別の世界に連れて行かれる等、色んな迷信を並べて全力の拒否を示されました。聞いていた通り、筋金入りの写真嫌いです。


 わたしが自分の記憶力を信じられないだけなので写真はあくまで保険です。

 隠し撮りしても良かったんですが、相手への義理は通したかった。



 記録の上ではカエデさんが召喚した人物が滞在したのは一日。二十四時間と見ればまだ余裕はありますがこういう記録というのも結構曖昧なので、日付が変わるまでと見ておくべきでしょう。

 撮りたいダメだの押し問答をしている時間はありません。


「隠しててごめんなさい! 実は、先生とカエデさんが一緒に写ってるのが欲しいんです!」


 曖昧な場所を指定した時間転移という、過去を変えることで自分をも失う危険を冒してまで来た真の目的はそこにある。ということにしました。

 騙してしまうのは本当にごめんなさい。そんな下心はありません。一人でダメなら二人で撮られるのはどうだろう。


「詳しく聞かせておくれ。」


 短時間で仲良くなれた間柄の友人の願いだから、写真に撮られるのは嫌でも状況次第では考えなくもないと言ってくれました。


 どこまで話していいかを理事長から伝えられていた気がしますが、やっぱり全く覚えていないので、顔写真が何一つ残ってない事をお伝えします。


「わたしは悔しいぞアサヒちゃん!」


 全部聞き終えたカエデさんに、髪型がめちゃくちゃになるまで撫で回されてしまいまいした。


「君にもう一度会うよりも前にボクが死んでる必要があるのがすごく悔しいし羨ましい! いい子すぎるだろこんちくしょう!」


 わたしがアサヒ・タダノとして存在する未来に辿り着く為には、自身が早死にしなくてはいけない。今はまだ腐れ縁だけど、そのうちもっと仲良くなる相手に喪失を体験させなくてはいけない。時間転移の記録が無い以上、もうわたしと会う事はできない。先生がわたしの好意を独り占めしてしまう。それが悔しいとカエデさんは仰いました。


「記録に無い時間転移や召喚ができればいいのでは?」

「学園都市で使用された魔法は全部履歴が残っちゃうんだよ! 無理だって!」


 魔法の使用履歴という単語を聞いて思い出した事があります。

 わたしの使う願いを形にする魔法は学園都市の履歴に残りません。


 攫われた際に放ったことで多くの人が目にすることになった花火の魔法については、皆が使えるように呪文構成の作成が行われました。

 使用履歴にズレがあると学園都市の管理局がうるさいのだそうです。


「そうか! 別系統ならすり抜けできるか!」


 何か、やってはいけない事をしてしまったような気がします。

 カエデさんは未知の研究の失敗で爆死した。その研究は、成功した事のある召喚魔法の再現。呼び出した人物に再び出会いたいが為。


 ああ、そうだ。そういうことか。


 取り返しのつかない、とんでもない事をしてしまいました。

 召喚した相手に親しみを与えてしまい、未来の情報を与えてしまい、結果として若いまま人生を終える事になる研究を始める切っ掛けを与えてしまった。

 これは、わたしがカエデさんを死ぬように誘導したのと同じことです。


「あいつとのツーショットでいいんだよね! ちょっと待ってて!」


 愕然としたまま乱暴に扉を押し開けて駆けて行くカエデさんを見送ります。

 世界の修正力とかそんなのはどうでもいい。謝って済む問題でもない。深く考えずに色々口走った数分前の自分が恨めしい。なんてことをしてしまったんだ。


 時間が無い事も察してくれたのか、カエデさんはあまり間を置かず突然呼び戻されて動揺している先生の腕を引いて戻ってきました。


「ほら、今のうちだ! ボクの気分がいいうちに!」


 カエデさんは自ら嫌がっているレンズの前に立ってくれました。ショックを受けてる場合ではない。カメラの電源を入れ、すぐに構えて一枚。本当に一瞬でよくわからないのですが、撮れているようなので問題はないようです。


「よし! 三人で撮ろう!」

「なんで僕まで……?」

「どういう理屈か分からないけど君と収まるのなら大丈夫なようだ! ほら急げ、アサヒちゃんも!」


 なんとこのカメラ、カエデさんが理事長にプレゼントした物なんだそうです。

 操作に手間取っていると、自分が撮られるのはダメでもこういった道具を扱うのは好きなんだと言いつつ、セルフタイマーをセットしてくれました。



 本当ならものすごく嬉しい、大事な人達との一枚を手にすることができました。

 その瞬間も心の中は罪悪感でいっぱいで、うまく撮れたことに喜んでいるカエデさんの笑顔も、何がなんだかわからず困惑している先生の顔も見れません。


 確かに今まで知りたいとは思っていなかったけども、こんな真実、知りたくはなかったです。


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