表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
52/303

過去と今が繋がった日

 先生の誕生日が近付いていました。

 わたし達でお祝いをすべく、連休明けの放課後の教室で全員出席の上で頭を突き合わせていました。


 それぞれ持ち寄るのでは格差が出ます。

 お小遣い制で毎月決まった額しか手元に無いクロード君と、連日の間食代で仕送りがほとんど消滅しているポールと、最近気になる女の子ができて色々貢がされていて金銭的に苦しいマッシュ。使いもしない化粧品に注ぎ込んでいるナミさん。

 よく考えなくても、まともにお金を出せるのはわたしだけでしょう。


 プレゼントは気持ちが大事なのであって商品の価値ではありません。

 ですが、日頃の感謝も込めているのだから、やはりそれなりの物を贈りたい。


 皆で決めたものをひとつ、わたしのお金でプレゼントするのが無難という事にまとまりました。

 出資者のわたしも異論はありません。


 正直、誕生日に何を贈ればいいのかさっぱりわからないのです。

 裸になってリボンを身体に巻いて「自分をプレゼント」とか、ヘンテコで、先生からも止められているような物しか思いつきません。


 人生経験の少ない彼らに高額のものは選べないでしょう。そしてわたしの銀行口座の残高も使い切るには程遠い。四人が何を選ぶのか楽しみです。





 五人のうち一番先生に近いのはわたしです。なにせ彼氏彼女の間柄です。

 欲しいものに希望があるかどうか、それとなく探りを入れてみます。


「貰えるのであればなんでも嬉しいですよ。」


 世界で一番面倒臭い回答を頂きました。予想は見事に的中です。

 わたしの顎をくいっと持ち上げて君の全てが欲しいとか仰るのでしたら遠慮なく全て捧げる用意はできていますが、先生はそういう事をする人ではない。



 使いたくなかった禁じ手をいきなり使わせて頂きます。先に謝ります。先生ごめんなさい。


「奥さんにはなにか貰いましたか?」

「無かったですね。」


 聞くのに際してちょっとお腹が痛くなる程頑張ったんですが、思っていたような沈痛な面持ちとは大きくかけ離れたいい笑顔で答えられてしまいました。


 彼女は節目を特別視していなかったんだそうです。それ故に事実上そういう関係であっても、婚姻届すら出してなかったと。

 無頓着かと思えば、どうでもいいような時に急に色々欲しがったりする秋の空のような人だったと、これもまた笑いながら語ってくれました。


 好きになるとは言っているものの、わたしは彼女の事をあまり知りません。

 どういう人物なのかは断片的な情報を繋ぎ合わせればわかりますが、とにかく気分屋で支離滅裂だった以外はよくわからない。

 ちょうどいい機会なので調べることにしてみました。




 手っ取り早く、一番知っていそうな人物に聞いてみましょう。

 お相手は先生の過去を知るのは先生の先生であった理事長です。多忙なので、口を使わずに会話できる魔法を用いて接触を図ります。


 結果、なにも成果は得られませんでした。

 先生から聞いた情報に裏付けが取れただけ。先生が好きな相手はめちゃくちゃだったそうです。


 実体のないものを魔法を使わず物理的に掴み取るかのような難題です。

 過去の人をいつまでも引きずらずに前を向いて生きて行けという事なのでしょうか。


 せめて顔だけでも知りたい。先生の誕生日を前にして、この欲求をどう解消したものか。



 考えられる手はいくつかあります。

 先生や理事長の記憶を覗いてみるのがひとつ。これはバレるでしょうし、絶対に怒られます。

 願いを形にする魔法が禁止されてしまうのはいけません。わたしの存在価値がなくなってしまいます。


 召喚器を用いて先生の奥さんを召喚する作戦。

 色々問題はありますが、召喚器の入手方法をわたしが知りません。

 どうにか入手して召喚器をプレゼントしても、今度は先生が使ってくれる保証がありません。


 願いを形にする魔法でわたしが過去に行ってみるには魔力が足りません。

 願いの規模によって魔力の消費も変わるので、過去に行って戻ってくるのならば、おそらくは理事長やサワガニさんのような規格外の強い力が欲しい。行きが良くても帰って来れないのでは大問題。



 ところで、時間旅行はしてもいいんでしょうか。 

 時間の転移が許されるのかも理事長に聞いてみましょう。


 未来から呼ばれてしまったアサヒさんは片道でも自力で帰って行ったのです。力があれば私にもできるはず。そう考えてしまうのが怖いと理事長は仰いました。

 良いとも悪いとも言わず、理事長はさらに問題を重ねてきます。魔力をどうにか間に合わせたとしても、今度は狙った時間に行く為の方法が無いと。


 実を言いますと、その一番の難題を吹っかけられるのを待っていました。

 学園の歴史の本でしっかり調べました。召喚器で色んな時代から人を召喚した事件や事故はほぼ毎年のように起きています。


「先生が学生の時にも誰かが召喚されたこともありますよね。」


 一日で帰った人が居る記録があるんです。理事長がまだ理事長ではなかった頃の話。事後処理をしているはずなので覚えている事でしょう。そこに割り込みます。いえ、わたしがその呼ばれた人になります。


 わたしの作戦案はこうです。

 召喚器による事故を座標とし、相手が望む人物として召喚される事で過去に跳ぶ。

 道順を知ってる上での片道なら、死ぬ気で頑張れば帰って来れる。どうにもできない時はその時代の理事長に泣きつく。


 穴だらけで危険しかないと我ながら思います。

 そもそも魔力が足りないので、これは机上の空論です。



 時間転移が良いか悪いかを答えないまま、一つだけ教えて欲しいと、わたしに質問を投げかけてきました。


「過去行ってどうする?」

「先生の奥さんになる方を見てきます。それだけです。」


 わたしが提案した魔法はただ視るだけでなく、その場に介入するのだ。

 そんな奇跡ような魔法を行使するほどの大きな目的が故人を知りたいというのです。管理者にはどう映るんでしょう。

 なんならただ見るだけもいい。性格や言動は先生達の話で理解できたから、最低限、外見だけ知れればいい。


「見てきて写真にして先生の誕生日のプレゼントにします。いまどこにも無いので。」


 まともに写っている写真が何も残ってないのは知らなかったようで、顔は見えないけど理事長はとても驚いているようでした。


「話がある。アサヒ、こっち来れるか?」


 直接会っての話があると言われました。わたしよりも理事長に暇があるのかのほうが気になりますが、時間を作ってくれるのならば会わないわけにはいきません。

 見慣れない廊下を歩き、理事長の部屋へと向かうことになりました。





 理事長室は、三方の壁が本棚になっていて、部屋の真ん中に応接用のテーブルがある、とても広い部屋でした。

 しょっちゅう呼び出されるクロード君はよくお世話になっている場所です。


 そこで、先生からは聞いていない、奥さんの死因を聞くことになりました。

 研究中の事故死とは聞いていましたが、その詳細は知らされていません。


 その日研究室で行われていたのは、召喚の魔法の実験。

 より強力なものを通す為の実験が行われていて、それは過去に彼女が一度成功させた魔法だった。その成功が油断に繋がり、術式の間違いと暴発に気付くのが遅れて大惨事になった。

 要約するとこんな感じです。



 事故の現場を直接見ている人物から、その原因が語られる。

 なぜこのタイミングで、急に教えられることになったんでしょうか。


 理由はすぐにわかりました。彼女が過去に成功させた一回が大問題でした。


「あいつな、未来から自分の娘を召喚してたんだ。」


 これは驚きの事実です。

 いきなり現在との矛盾が発生しました。彼女は出産どころか妊娠さえもしたことがないと聞いています。さらに、もう亡くなってしまった。死人が子供を産むことはできません。

 先生と自分の細胞を使って体外受精でもしたんでしょうか。今、世界のどこかで試験管ベイビーとして先生の子供が生きていて、父との出会いを心待ちに……?

 いろいろ考え始めたわたしに向けて、理事長は今日一番難しい質問を投げかけてきました。


「あいつが自分たちの娘だって言ってた子供の名前、わかるか?」

「わかりません。」


 わかるわけがありませんし、召喚事故を利用して過去に行くとしたら、その女の子をわたしが上書きすることになってしまいます。人を一人死なせてしまうようなもの。それはダメだ。

 過去に行って奥さんを見てくる案は白紙にします。選ばれなかった未来からの子供は確かに今ここに存在してないけれど、二人を好きだと言った女の子がその日その場所に居たことだけは事実だ。それを変えてしまったら先生の思い出が一つ失われてしまう。


 存在を上書きする心配はしなくていいと仰いました。

 なぜならば……


「召喚されたのはな、お前だ、アサヒ。」


 繋がってはいけないものが、突然、解けなくなった固結びの帯のようにガッチリと繋がってしまったような気がしました。




 幼馴染と相思相愛で、自分達の関係がこの先どうなるか気になった少女が居た。

 伝手をうまく使って、当時の学生では絶対手にできない召喚器を入手した。

 もしかしたら強い魔法使いになっているかもしれず、このままでは召喚事故を起こしてしまうかもしれないと、彼女は自分なりの妙な改造を施した。そして、未来に生きる人物を現代に呼び寄せることに成功した。

 一度の奇跡をもう一度起こす事を夢見て、その夢を果たせぬままに散ったのが、先生の奥さん。



 喉の奥が痛い。胃から色んなものが逆流してきそうです。理事長の部屋を汚してはいけませんので我慢します。でも辛い。

 わたしが図書室で得た情報は、先生が学生の時代にも召喚器が発端となる事故が起きたという一文だけ。

 その事故が、先生が愛した人の命を奪う自信と油断に結びついている。わたしがそこに飛び出した事が、先生を深く傷つけることに繋がってしまっている。



 なぜ今その事をわたしに伝えたのか、理解できました。

 理事長が今から言わんとしていることも。


 過去へ行くことは許されず、今後は先生の奥さんについて触れることも許されないのでしょう。

 わたしの中での彼女はイメージの中で永遠に憧れの女性であり続けるのです。


「行きの魔力と帰り方についてはこっちで用意する。」


 今の話の流れなら断られるはずなのに、何の障害もなく過去への遡行が認められました。


「えと、行ってもいいんですか?」

「どうした、アイツの事見たくないのか?」


 時間を行き来してしまうのは九割方事故なので、学園や学園都市ではその魔法自体に罰則があったりはしないそうです。基本の型での呪文や魔法陣での発動には前準備から後始末までが面倒で、非常にコストパフォーマンスが悪い。それ故に使用されること自体が稀なんだとか。


「お前があの時に居たから今がある。ならばどんなに阻止しようともいずれ跳ぶことになるだろう。ならば今のうちに行き来させたほうが安全だ。」


 突発的な事故で過去に飛ばされて慌てるくらいなら、今のうちに送り出してしまえとの判断でした。

 それどころか、今すぐに送り出してやると言い出しました。それはいくらなんでも急ではないですか。流石に準備が何もできてません。


「お前はここで待機。あ、トイレ行くならいいぞ、行っとけ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ