ズレ始めた未来視
おはようございます。幸せ休日を過ごしているアサヒです。
お昼時の穏やかな暖かさとの相乗効果でお昼寝してしまいました。
目を覚ますと、夕暮れのオレンジ色の日差しが差し込む教室に居ました。
わたし以外には誰も居ないようです。
幸せ過ぎて意識を失いながら連休最後の一日を越えてしまったんでしょうか。
まだまだ長い時間を先生と共に過ごすことはできますが、癒しの魔法によってわたしの寿命は二年縮まっています。あまり無駄にはできません。
何時なのか時計を確認しようと周りを見渡してから気付きました。教室の色んなものの配置が変です。
今日の教室は、色んなものの配置が鏡の中のように逆になっていました。
夢の中で、一人だけの教室。
以前もこんなことがありました。皆に話したらそれだけで大騒ぎになってしまったのでちゃんと覚えています。
「こんにちは。」
二度と会う事は無いと思っていた相手が、前回と同じ場所に居ました。
世界一嫌われてる魔法使いのサワガニさん。その若い頃の姿が今回も居てしまいました。
会いたくなかったし、顔も見たくなかったし、声も聞きたくなかった。
全力で拒否したい。これはわたしの夢だ。ならば追い出せないだろうか。いや、わたしとサワガニさんではメルべス講師なんて比ではない程に格差がある。敵うはずがない。
「そんなに嫌がらなくてもいいだろう。君に対しては害を為していないのだからね。」
クロード君の両親を直接殺害したのは彼ではなく、手先の一人だったと聞いています。
敵対しそうな人物を自らの手を汚さずに始末できる手腕は凄いと思います。確かに野望の達成の障害になると手下には伝えたけども、具体的には命令していない。お気持ちだけで人が殺せるだなんて恐ろしい。
けれど、手を出していなくても、そう導いたのはサワガニさんです。
彼自身はわたしをどうかしようという気は無いと言いますが、実際わたしは貴方の手先に殺されかけました。
学園都市の秘法を奪取するのを阻止してしまいましたが、入手できないのは自身の未来視で知っていた。だから、それ以上なにか関与したいと思ってはいないでしょう。
わたし自身も彼に対しての因縁はありません。生きてるので殺されそうになったことはどうでもいいです。
双方どうでもいいはずなのに、どうして夢を使って接触してきたのでしょうか。
気になりますが、関わり合いたくないので、わたしはサワガニさんを認識しないことにしました。
見ません。聞きません。言いません。
「それは困るなあ。」
目を瞑ったのに、真っ暗な視界の中にまで飛び込んできました。夢の中だからと言って好き勝手やりすぎだと思います。
やはり実力は上。わたしなりに抵抗はできるけど、相手がその気になれば軽く飛び越されてしまう。
「何の用ですか。」
「クロードと呼んでいたか、ヤツはボクを認識できないからな。」
サワガニさんに抵抗するのは諦めました。この状況を大人が聞いたら怒るだろうけど、貰い事故のようなものなので仕方ありません。
夢の中ですが、嫌いな相手と話をするのは疲れるので自分の椅子に腰掛けました。
先生がわたし達に怒鳴り散らしたことは一度もありません。やらかしに対しては静かに叱ります。先生の怒り方は大声と暴力よりも心に効きます。
起きたらすぐに、怒らない先生に相談しましょう。
そこで聞いたサワガニさんの話では、クロード君は理事長をはじめいろんな人に守られているそうです。
先のメルベス講師の事件の後、サワガニさんと、その支配下にある人達からは見ることも触ることもできない認識阻害の魔法がかけられたんだとか。
それが今から普通に生活する上で問題があるから解除して欲しいと言っていました。
それはつまり、普通に生活している上で関係している人たちの中にサワガニさんの影響を受けている人物が居るという事でしょうか。
聞いたところで答えてくれるはずもないので黙って聞いていましたが、そういう事なんでしょう。
「ボクは未来が視える。この先起こることはボクにも彼にも好ましくない。」
クロード君との対決を邪魔する新たな敵が現れる。とりあえずサワガニさんが倒れてくれれば一番怖いトラブルを気にすることなく学園生活を過ごせるので勝手に共倒れして欲しいのですが、狙いはクロード君ただ一人らしい。
「過去を変える為に未来から魔女が来た。あの女はクロードを狙っていた。彼女が出てから未来が消えた。彼女はこの世界全てを終わらせる。そうに違いない。」
色々言っていましたが、要約すると、先を越されたくないのだそうです。
アイツを殺すのはこの俺だ的なノリの、ライバルキャラのようでした。こんな人につけ狙われるクロード君がかわいそうです。
未来から来た魔女という肩書きには聞き覚えがあります。
サワガニさんと相討ちになり、今際の際にクロード君が、自身の片思い相手の不滅を願った事で産まれた魔女を一人知っています。なんならその卵がここに居ます。
そう、黎明の魔女、アサヒ・トゥロモニです。
「呪文も使わず魔法陣も持たずに魔法が使えた。あれはただ者ではない。」
すごく深刻な面持ちで語っていますが、ネタがバレているので苦笑いするしかありません。
黎明の魔女は、願いを形にする魔法を持つわたしが、不老不死を得てものすごく長い時を生きた姿なのです。
サワガニさんも目の前で見ているはずなのですが、わたしの願いを形にする魔法には気付いていません。以前彼の束縛を打ち破りましたが、あれは夢の内容を自身の意思で作り変える明晰夢を利用したと考えているのです。
サワガニさんの心配する事件、もう解決してしまっています。
使い捨ての召喚器によって呼ばれてしまったアサヒさんが、クロード君の淡い恋心を砕きかけ、金遣いの荒さを是正して帰っていきました。
クロード君が呼び出せてしまったのは、あちらの世界が終りかけていた事で吸い寄せられてしまっただけ。彼女がこちらに来たいと願わなければ再度の召喚は叶いません。
しかし、未来は一つではありません。選択一つの先が草の根のように広がっています。
別の道を進んで成立した、全く別の黎明の魔女が来てしまう可能性があります。
アサヒさんもわたしとは比べ物にならないほど上手。なんせ理事長を打ち負かす程だった。問答無用で目についたものを皆殺しにするような魔女が現れるかもしれません。そんなのが来たら大変だ。
「魔法が解除できるかどうかは別として、伝えておきます。」
「理事長が倒される程の相手だ。覚悟しておいてほしい。」
間違いない。サワガニさんが視たのはわたしの知っている黎明の魔女だ。
解決したと言いたかったけど我慢しました。何度も言うようですがわたしはサワガニさんは嫌いです。たくさん悩んで苦しめばいいと思います。
夕暮れの教室から先生の部屋に帰ってきたのは突然でした。
わたしの意識を早々に現実に戻し、学園に対して認識阻害の解除を求めて貰う算段だったのでしょう。
「おはようございます。」
先生は昼食の食器が片付いていないテーブルで作業していました。
昼食後、わたしが先生に寄りかかって眠ってしまったようです。起こさぬようにと、この場に道具を呼び寄せてお仕事をされていました。
「すごく顔を顰めてましたけど、悪い夢でも見ましたか?」
「サワガニが出ました。サヴァンのほうの。」
目覚めた瞬間またサワガニが出たと伝えられてさぞかし驚かれたことでしょう。先生は口にしていたコーヒーを鼻で飲んで咽てしまいました。タイミングが悪くて申し訳ない。
夢の内容は包み隠さず、覚えているうちに報告しました。
起きて数分もしなうちに内容がおぼろげになったりするんです。誰かに伝えるのなら急いだほうがいい。
彼との接触がわたしの意思でないことは、先生もすぐに理解してくれました。
あれはどんなに拒否しても無理矢理会話しようとしてくる陽のコミュニケーション障害です。物理的に回避しない限りはどこまでも追ってくるし、そんな相手から夢の中で逃げ切るのは至難の業。
「休日に聞きたい話じゃないなあ。」
「ですよねえ。」
アサヒさんが来襲するかもしれない話はもう終わっている。
話の要点は今も学園内部に内通者が居るところにある。
そんな内通者が居るのなら今日が休みだという事も伝わっているはずです。休日は休日をさせて欲しい。
サワガニさん達の気の利か無さに対して、先生と二人で苦笑いしました。




