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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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続・休日の来訪者

 休日だからと奮起せず、部屋の中で大人しくしているのが一番だと学びました。


 ずっと部屋に居れば何のトラブルに巻き込まれる事もありません。

 キャッチやセールスや宗教の勧誘に対しては居留守で逃れましょう。


 自室に居なかったわたしは宿舎で起きている事件とは無関係でいる事ができました。

 管轄外の女子宿舎での事件なので、いつも色んな事件の対応に追われる先生にも声はかかないはず。

 連休二日目も二人だけの楽しい時間を過ごせます。


 と、思ったのですが、自分の教室の生徒が巻き込まれれば話は変わります。

 さっき走り去ったナミさんが立場の低い側を管理しようとする人達に応対するのでは、何かひと悶着起こしてしまいそうな気がします。




 ナミさんは周囲への攻撃性が非常に強い、いわゆるキレる若者。他のクラスの生徒からは特別学級の狂犬という二つ名まで付いているとかいないとか。



 普通の両親から生まれた普通の女の子。

 本に描かれた魔法に憧れて、ついには実力だけで会得するにまで至った努力家です。

 普通の人間からしたら、ポケットにカエルやムカデを突っ込んでいたり、枝を振り回して怪しげな呪文を唱える女児は知的障害でもあるのかと忌避したくなるでしょう。


 血筋と伝統を至上のものとする価値観にある魔法使いの社会では、努力での成功はあまり快く受け入れられません。どんなに努力しようと優秀な血統の下に産まれた者には敵わないというのがこっちの世界の定説。


 ナミさんは普通の人間からも、魔法使いからも良く思われていません。

 誰かと会うたびになにかと揶揄われ、尊厳をひどく傷つけられる。学園に来る前からずっとそういう環境に居たのでしょう。


 なので、他人の言葉は何も信じない。周りは全て敵。なにがあろうと実力で全てねじ伏せる。そういう方向に育ってしまいました。

 誰よりも自分を守る為に、攻撃的にならざるを得ない悲しい存在なのがナミさんです。




 最初はわたしも噛み付かれました。

 先生を誘惑しようとする勘違い娘、でしたっけ。出会い頭に突然わたしの感情を根拠もなしに否定されたのです。

 五人しか生徒の居ない学級で先生の手を煩わせるわけにもいきません。仲良くする必要は感じませんが、常に険悪な関係を続けるのも良くないと、その時のわたしは思いました。


 先生を好きであるのは事実だが、それが続かないというのであれば、続けるにはどうすればいいのか。

 緩やかな波を思わせるふんわりとした癖毛の髪を鶏のように震わせ広げているナミさんに聞いてみました。


 ナミさんの怒りがどこに向けられていたのかがわかりませんでした。

 彼女なりの恋愛に対してのイメージがあって、定型から外れたわたしの行動が許せないのかもしれない。

 いや、もしかしたら、失敗する形を知っていて、そこに突き進んでしまっているのを止めようとしてくれているのかもしれない。

 怒りに怒りで返すにしても、まずは返答を聞いてから。


「ま、まずは自分の名前を書かない恋文を机の中に入れてから……」

「差出人不明の手紙は誰かの悪戯だと思われますよ。ダメです。」

「ろ、廊下で偶然出会ってみたり……」

「廊下で接触しなくても毎日会いますよね、教室で。」


 その日はそのまま下校時刻まで問答していました。

 特別なにかイベントを起こしたりフラグを立てたりした意識はありませんが、ナミさんはわたしに対しては、次の日からとてもいい笑顔で語りかけてくるようになりました。


 どうして態度が変わったのかは分かりません。でも無駄に噛み付いて騒ぎを起こさないようになったのだから結果オーライです。


 その後は、今もバカだのなんだのと酷いことを言っていますが男子達とも打ち解けています。クラスメイトを一緒に悪さをする悪戯仲間のような気の置けない友人として見てくれているんでしょう。


 ナミさんにとっても特別学級は自分を自分として認めてくれる特別なんだと思います。自分の居場所を守る為にもうすこし気を配って欲しいんですが、わたしと一緒でまだまだ子供なのでそこはしょうがない。




 やっぱり心配です。ちょっと戻って様子を見て来るか、せめて立ち合いの場に居合わせたほうがいいかもしれない。


「先生、ナミさんが心配なので、ちょっと宿舎に行ってきます。」


 先生は快諾してくれました。

 そのまま宿舎に戻るのかと聞かれてしまいましたが、終わったらすぐ戻ってくるつもりだったので首を振って答えます。連休中はずっと先生といるつもりだったんです。寂しいこと言わないでください。


「あ、すみません。遅くなるなら、お昼はどうするのかと思いまして。」


 先生は残りの休日を宿舎で友人と過ごすかどうかではなく、何時頃戻って来るかを尋ねていたようです。わたしの勘違いでした。



 

「だから! 何度も言ってるじゃない!!」


 人間の目では姿が見えなくなる魔法で宿舎に入り、ナミさんの部屋のある階へと歩を進めていると怒鳴り声が聞こえてきました。

 悪い予感は当たってしまいました。この的中率を維持できるのなら宝くじを買いたい。大金を手にして先生との生活をより贅沢にしたいです。


「そんなことは絶対にありえない。」

「絶対ないことが無いのよ! アサヒさんなんだから!」


 わたしにも不可能はあります。勢いで無理を言わないでください。いや、今はそれはどうでもいいか。


 口論に熱中している在室調査の人とナミさんの横を通り抜けて、わたしは入り口の死角になっているナミさんのベッドの傍に潜り込みました。

 願いを叶える魔法ではバレた時に面倒事が起こりそうだったので、姿が見えなくなる魔法は呪文での魔法。使い慣れないので見破られる可能性はありました。どちらも加熱したらなかなか冷めない人で助かりました。


「もう一度言います。アサヒ・タダノがここで寝ているというのなら証拠を出してください。」

「そんな校則にも無い権限で個人情報を掠め取ろうったって無駄よ!」


 ああ言えばこう言う。質問責めにして大人に嫌われたわたしとナミさんとの違いは妥協しない所。友人以外と話すときは自分の意見を絶対に曲げない。それは彼女の護身術だけど、立場を悪くしてしまう原因でもある。

 なんであれ、手が出てしまう前に収めなければいけない。特別学級が学級委員長アサヒ・タダノ、出ます。


「なんですか、こんな休みの日に。」

「アサヒさん!?」


 ナミさんは、ここには居ないはずの人物が背後から現れたので、腰が抜ける程びっくりしてしまいました。


「アサヒ・タダノですね? 一昨日の夜から部屋に居なかったようですが……」


 さあ来ました。難しい言葉を早口でまくし立ててさも悪いことをしたかのように詰問するしぐさ。

 実家で何度も体験しましたので、予習も実践も完璧です。


「そちらの要件で不在の理由は答えられません。なにか事件が起きていてどうしても証言が必要でしたら然るべき書類を先生に送ってください。」


 学園都市の法律を記した本も目を通しています。

 こちらも難しい言葉だらけで正直どこまで理解できているか不安ですが、ここでこの人を追い払うのには十分です。


 生徒は必ず宿舎の自室で寝泊まりしなければいけないという校則は無いし、宿舎のルールでも無い。門限もなければ消灯もない。存在しないルールを破ったことで処罰されるという常識は人間社会にも魔法使いの社会にも存在しない。

 さらに、証言はこの場で口頭で行うのではなく、証拠として残るように文面で。全ての手続きはわたし達の最高責任者であり窓口である先生を通して行う。

 これならば、後から言った言わないでいらないトラブルを呼び込まなくて済みます。

 

「その、この部屋での滞在の確認が取れれば問題ありません。では。」


 飲めないのにブラックコーヒーをそのまま飲んだ人のようなしかめっ面をして、調査員の人はあっさりと去っていきました。

 大人に根負けさせるクソガキの真髄、思い知ったか。ふんす。



 一部始終を呆けて見ていたナミさんの手を引いて、立たせてあげました。

 結局言い争いになってはしまったけど、真っ先に作戦を教えてくれたので助太刀に入ることもできました。


「もう来ませんよね?」

「ええ、確認が取れたら後は来ないって言ってた。」


 昨日一日居なかったのを知っているのは何度もわたしの部屋の戸を叩いたからですが、所在が掴めれば後は何も言ってこないんだそうです。


「それじゃ、先生の昼食買わないといけませんので、これにて。」

「あ、うん、ありがとう、アサヒさん。」


 廊下で調査員に鉢合わせたくないけれど、いきなり現れたり消えたりして怪しまれるのも面倒なので、ここは歩いていきましょう。


 ナミさんと、ここから事件になったら迷惑を被ることになっただろう先生を救い出しました。

 ミッションクリアです。


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